2009年末に突如として発表された
ボブ・ディランの来日。発表時点では「
ホントか?」とまだまだ半信半疑でしたが(何たって毎年毎年噂に上がっては立ち消えになっていたので)、チケットを予約したあたりから、ようやく「
本当に来るんだなぁ」と現実味を帯びてきましたね。
前回の来日から9年。1988年6月からスタートした「
Never Ending Tour」は現在も継続中。しかも今の
ディランは音楽的にも人気的にも、さらにセールス的にも絶頂期を迎えている状況だ。

さらに今回のジャパン・ツアーは、
ディランの意向によりオールスタンディングのホールが選ばれており、大阪・名古屋・東京ともに会場は全て
Zeppという1500人規模の会場で連日行われるというファンには(いやファンでなくとも)堪らない形式だ。こういう同じ会場で連日ライヴをやる時は、いつもディランは日毎に大幅にセットリストを変えてくるので、何日か足を運ばないと全貌が分からないのです。
今回は
ディランのスケールからすると異常に小さい会場だけあってチケットは発売と同時にほぼ瞬間的に
ソールドアウト。日本でも未だに衰えぬ
ディランの人気の高さが証明されたわけです。その後、追加公演も発表され、結局は3/11~3/29の18日間に渡って、大阪5公演・名古屋2公演・東京7公演の
全12公演というとんでもなく長期ツアーになりました。かくして2009年11月のニューヨーク 3Days以来の3ヶ月振りのツアーにして2010年最初のツアーが幕を開けたわけです。
さて、今回僕が観たのはまずは2日目の3/12(初日の公演を取ったのに、追加公演が出て2日目になってしまった…)、会場に入ると開演30分前にも関わらず異常な込み具合と、かつてないオッサン率の高さに驚きます。

ステージには既に全ての楽器がセッティングされており、カーテンに囲まれ青い照明で照らされたステージは60年代のジャズクラブのような雰囲気。ディランの座る右側のキーボードのアンプの上に目をやると、やはりありました!有名な”
あのトロフィー”が。これは2001年に
ディランが
「Things Have Changed」でアカデミー賞主題歌賞を受賞した時に貰ったオスカー像。ツアーでは必ず
ディランの横のアンプの上に置いてある事で有名だ。噂では聞いてはいましたが、本物を見ると感激してしまいますね。何か歴史の証人にでもなったみたいな高揚感がこみ上げてきます。
そうするうちに開演時間になり、ステージ上にお香(ナグチャンパ)の香りが充満し出したところでBGMが
アーロン・コープランドの
「ロデオ」の一節
「ホークダウン」が流れ出す。そして暗がりの中でバンド・メンバーが登場。
そして、お馴染みのステージ・マネージャーの
アル・サントスのMCが会場に響きます。
「Ladies & Gentleman ロックンロールに賞賛された詩人に拍手を。60年代のカウンター・カルチャーの希望の声。フォークとロックをベッドインさせた男。70年代には化粧を施し、薬物乱用の靄の中に消え、そして神を発見し突如姿を現した男。80年代には過去の人と見なされ、90年代後半に突如ギアをスフトして強力な音楽をリリースして、またキャリアを始めた男。Ladies & Gentlemen コロムビアのレコーディング・アーティスト、ボブ・ディランです」もうこのMCが生で聴けただけでも鳥肌でしたが、黒いテンガロン・ハットを被って黒いスーツに身を固めたディランの登場に会場に割れんばかりの歓声が響きます。

無言でキーボードに座ったディラン。1曲目は
「Blonde On Blonde」から
「Leopard-Skin Pill-Box Hat」!超ダミ声で今の68歳のディランが歌うこのブルーズは、1966年に25歳のディランが歌ったそれよりも非常に強力に響きます。その上にバンドのラウドでロックな演奏がより拍車を掛けます。
全員グレーのスーツに黒いシャツで身を固めたバンド・メンバーは、リズム・ギターに
スチュ・キンボール、ベースに
トニー・ガルニエ、ドラムに
ジョージ・リセリ、ペダル・スティールに
ドニー・ヘロン、そしてリード・ギターに
チャーリー・セクストン。
ディラン・ファンの間でも人気の高い
チャーリー・セクストンが昨年からバンドに復帰した事でバンドにロック色が強くなったと言われいるが、なるほど確かにこの男のステージ上でのパフォーマンスや存在感は非常に大きいですね。
チャーリー・セクストンと言えば、個人的には90年代に結構好きだった
Charlie Sexton Sextet(
セクステットなのに4人組)のリ

ーダーとして知られる男で、1995年のアルバム
「Under The Wishing Tree」(左写真)はかなりよく聴いたので、この再会は感慨深いものがありましたね。(ちなみにこの
Chalie Sexton Sextetは今聴くと「
少し早すぎたルーツ・ロックバンド」と言えるかもしれません。あと個人的にはどの曲もサビが致命的に弱かった非常に惜しいバンドだったと分析しています。)
あと
チャーリー・セクストンがロック色を強めている原因の一つではあるが、ドラムの
ジョージ・リセリの叩く音がかなりデカく、これもロック色を強くしている原因の一つでしょう。
2曲目になり、ステージのライティングが雪の結晶のようになり、ステージを囲むカーテンに美しく映し出されます。キーボードから立ち上がりステージ中央に出てきた
ディラン。曲は
「Lay Lady Lay」!バンド演奏のイントロでは何の曲だか分からなかったですが、
ディランのヴォーカルの歌い出しで観客も大歓声。この曲での
ディランの歌声は素晴らしく、低い声が会場に拡散されていく瞬間はホント身震いがしましたね。

いつも言われている「
最近のディランは原曲を崩しすぎていて何の曲だか分からない」というセオリーに反して、意外にもヴォーカルは原曲に忠実に歌っていたのが印象的。後半では長いハーモニカ・ソロも披露。このハーモニカを吹く姿がめちゃくちゃキマっています。
続いては新作
「Together Through Life」から
「Beyond Here Lies Nothin’」。ドラムの荒々しい乱打に、
チャーリー・セクストンのルーズなギターが絡む渋いヘヴィ・ブルーズ・ナンバー。よく観ると
ドニー・ヘロンがトランペットを吹いていました(この人はこの後も様々な楽器を演奏してましたね)。
そして次に登場したのは何と
「Don’t Think Twice, It’s All Right」!2009年の全米ツアーでもほとんど披露された事のないこの曲が日本で遂に登場です。
ディランがここで初めてエレクトリック・ギター(デューセンバーグ製)を手にしてリズムを刻む。

同じ曲でも
「Freewheelin’」に入ってる原曲のヴァージョンではなく、
「Bootleg Series Vol.6」の1964年の
フィルハーモニック・ホールのヴァージョンでもなく、1974年の
The Bandとの復活ライヴ
「Before The Flood」の時のヴァージョンでもなく、1978年の武道館ライヴのヴァージョンでもなく、現在のディラン流にアレンジされた軽快なカントリーの
「Don’t Think Twice, It’s All Right」。この曲はかなりアレンジされていて歌詞を聴いていないと判別が出来なかったくらいのテンポの速いヴァージョンに変化していて面白かったです。
そしてその速いテンポのまま次の
「The Levee’s Gonna Break」に突入。アルバム
「Modern Times」からのロックンロール・ナンバ

ーだ。
ディランは再びキーボードに戻り、
トニー・ガルニエのウッドベースと
ジョージ・リセリのドラムが全体を牽引し、そこに
チャーリー・セクストンがギターを弾きながら動き回る。
スチュ・キンボールがリズム・ギターで小気味良くリズムを刻み、
ドニー・ヘロンのスチール・ギターが素葉らしいフレージングで色を添えていく。ここでバンドの一体感は
マックスに。
ただ、よく観ると
チャーリー・セクストンは動きまくりながらも、目はチラチラとキーボードの
ディランの方へ目をやっているし、
スチュや他のメンバーも
ディランの動きを目で追いながら、
ディランの一挙手一投足を見逃さないように緊張感の張り詰めた演奏をしているのが分かります。なかなかこのバンドの一員でいるのも難しそうです。

次は演奏のテンポをぐっと落とし披露されたのは
「Just Like A Woman」!この曲はイントロを聴いた瞬間にこの曲だと分かりました。たまたま数日前に
ジョージ・ハリスンの1971年の
「コンサート・フォー・バングラデシュ」のDVDを観ていて
「Just Like A Woman」(
ジョージ・ハリスン&
レオン・ラッセルとの共演)をやっていたのを観て「
この曲も聴けたらイイなぁ」と思っていたので、あまりのタイミングの良さにちょっと感激してしまいましたよ。コーラス部分を超早口で「
Just Like A Woman」と呟く
ディランのダミ声さえも感動的なのです。さらに
ドニー・ヘロンの弾くペダル・スティールの音色が涙を誘います。
この後は「
ギアをシフトした」以降のアルバムから4曲が続けざまに登場。まずはアルバム
「Love & Theft」から
「Tweedle Dee & Tweedle Dum」。中盤ではキーボードから離れてステージ中央にゆらゆらと歩いてきた
ディランがハーモニカを即興で吹きまくっていました。そしてキーボードに座ったままで、アルバム
「Time Out Of Mind」から
「Make You Feel My Love」、そしてまたもや
「Love & Theft」から
「Honest With Me」、さらに
「Po’ Boy」と速い曲の次にはゆっくりの曲と緩急つけた流れで、じっくり魅せてくれます。特に
「Po’ Boy」でのヴォーカルは高音域も出ていて素晴らしかったです。こうやって普通の声も出せる
ディランを聴くと、今のダミ声は
わざと出しているんだなということが分かります。

そしてここからが後半のハイライト。曲は
「Highway 61 Revisited」。バンドの演奏も勢いが付きまくっていて、
ディランもキーボードから身を乗り出すようにしてシャウト気味に歌います。ここでも
ディランのヴォーカルは最強と言っていいでしょう。さらにドラムがドカンドカンと叩きまくりで、後半にジャム・セッションに突入。
ディランのキーボードに絡む
チャーリー・セクストンのギターの応酬が凄まじい。観客のオヤジや若者全員含めて大歓声だ。しかし
68歳なのにとんでもない演奏を見せるな、ディランは。
この後再びメロウな
「I Feel A Change Comin’ On」が続いた後、アルバム
「Modern Times」のオープニングを飾る
「Thunder On The Mountain」。こちらもかなり軽快に飛ばすロックンロール・ナンバー。この曲の歌詞は変えてくるのかと思って聴いていたら、しっかり原曲通りに「
Alicia Keysの事を考えると泣かずにはいられない」ってちゃんと歌ってましたね(超早口でしたけど)。
そして本編ラストは
「Ballad Of A Thin Man」。照明もダークになり、それに合わせて演奏も超ヘヴィに。
ディランが仁王立ちで佇む姿の何と威圧感のある事!怒涛のようにハーモニカを吹く姿は息を飲むほどの迫力がありました。
一旦ステージから消えたバンドがアンコールで再び登場。ステージ後方にフリーメイソンばりの「
目の模様」をした紋章が掲げられる。アンコールで披露される曲はここ数ヶ月のツアーでは不動の3曲。
「Like A Rolling Stone」、
「Jolene」、そして
「All Along The Watchtower」の3曲だ。
ディランのジャムっぽいキーボードからドラムのカウントで始まった
「Like A Rolling Stone」では初めて客席から合唱が起きていましたね。でもその合唱をかわす様な早口な歌い方が偏屈な
ディランっぽい。そして軽快にキメる
「Jolene」、最後はもう原曲完全解体の爆走
「All Along The Watchtower」で大団円。
ディランがメンバー全員を紹介して大歓声の中、終了しました(終わった後、後ろにいてたオッサン2人組が「
最後の曲ってWatchtowerやったんか!?全然分からんかったわ」って驚いて話してました)。
最後はバンド全員がステージ前に一列に並ぶ。だが
ディランはお辞儀をすることもなく、拍手で称えあうこともなく、不敵な笑みを浮かべて手を少し広げて仁王立ち。

これも
ディランのライヴでは恒例の「
儀式」だ。その後無言のままサッとステージから消えて行きました。
ホント噂に違わぬ何とも掴まえ難い人です。ただライヴの迫力の尋常のなさは、これまた
ディランならでは。昔からずっと世間の期待をスルっとかわし、そして全く予想もしないところで伝説を作る男
ボブ・ディラン。1960年代から2010年代まで
50年近くも音楽界に軌跡を残し続ける男を一日で理解する事は不可能だが、その伝説の片燐は今でも十分に感じることが出来ましたね。
何か分厚い歴史の本を読み終えたような重厚なライヴでした。纏う空気感も含めて伝説の男。言葉では説明しづらいんですが、これは観た人にしか分からない感覚でしょう。観た人ならわかってくれるはず!
いやぁ~かなり長くなってしまいましたので
ボブ・ディラン・ライヴ第2夜のレポートは次回!