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2023年の13枚。

進化するのか?退化するのか?進化を選択してもその先は厳しい道だし、後ろを振り返ると退化を選択した人達が同じ地点でそれなりに楽しくやってる。どっちも正解なんだろうが、要するに自分が選択する道を行くしかない、そう強く思った1年でした。今年も買ったレコードは旧譜9 : 新譜1の割合。自分の知らなかった旧譜はほぼ新譜と言ってよいでしょう。レコードが高すぎて新譜を手軽に買えない時代になりましたが、買うのを止めることはないけど「新譜に1万円出す」という行為は一歩引いてみると異常だと認識しよう。
そんなこんなで2023年のベストアルバム13枚!


<2023年の13枚>

■第1位
Boygenius [The Records]
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Phoebe Bridgers 、Lucy Dacus 、Julien Bakerという女性シンガーソングライター3人によるユニットの1stフルアルバム。どこにも居場所が無かった彼女たちが、自分達の居場所を自分達で作ったと言っていい。
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5年前のEPよりサウンドは格段に進化していて、その直後の全米ツアーも併せて彼女たちの快進撃が痛快な1年でした。


■第2位
Naïssam Jalal [Healing Rituals]
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フランス在住のシリア系女性フルート奏者によるジャズ・カルテット。
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フルート + コントラバス + チェロ + ドラムという編成でアラブ音楽のメロディも取り入れた深淵な宗教儀式にも思えるサウンド。


■第3位
Panopticon [The Rime of Memory]
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ケンタッキー州ルイヴィルのAustin Lunnによるアトモスフェリック・ブラックメタル。
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ダークなアンビエント・フォークの要素も残しつつ、弦楽器も取り入れ、静寂と暴虐のコントラストの激しい壮大な75分のブラックメタル。


■第4位
Oddisee [To What End]
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ブルックリンのプロデューサー/ラッパーによる実に6年振りの10作目。サンプリング・ヒップホップからファンクからバンドサウンドなど耳を惹くトラックに、滑舌の良い鋭いラップが絡むどこを切り取ってもカッコいいヒップホップ・アルバム。ポジティヴなリリックも素晴らしい傑作。


■第5位
Azu Tiwaline [The Fifth Wave]
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北アフリカのチュニジアの女性プロデューサーAzu Tiwalineの2nd。前作はポリリズミックなエキゾチック・ダブテクノでしたが、今作では躍動感を抑えてより内面宇宙を表現するかのような深淵でスピリチュアルな方向へ。


■第6位
Hotline TNT [Cartwheel]
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NYブルックリンのWill Anderson率いるインディロックバンドHotline TNTの2nd。シューゲイズ要素もふんだんに取り入れたキャッチーなメロディの新しいインディロックの形。


■第7位
Kool Keith [Black Elvis 2]
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誰も知らないだろうが2023年はKool Keithは4枚の新作を出してます。その中の1枚で1999年の怪作[Black Elvis]の続編。装飾を極力排除したシンプルで不穏なトラックに、難解な単語を詰め込むKool Keithのぶっといラップが乗るこれまた怪作。


■第8位
Tomb Mold [The Enduring Spirit]
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カナダのトロントのデスメタルTomb Moldの驚異の進化を見せた4作目。リフで押しまくるオールドスクールなデスメタルから、一気にプログレッシヴ・デスメタルに変貌。ギターの変態的フレーズが最高です。


■第9位
Morgan and The Organ Donors [M.O.D.s]
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"モーガンと臓器提供者"という名前だが、モーガンという人は誰もメンバーにいない女性3人 + 男性1人のワシントン州オリンピアのインディシーンのベテランミュージシャンによるバンドの1st。ベテランならではの落ち着いた演奏で60年代ポップとインディロックを融合させたサウンドを聴かせるなかなか秀逸なアルバム。


■第10位
Little Simz [No Thank You]
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2022年12月リリースですが、アナログ盤が今年リリースされたので今年のリストに。前作よりトラックに派手さはないが歌詞がレコード業界への怒りやインディペンデントのアーティストが直面する問題をラップしていて個人的には前作より好き。


■第11位
Sampha [Lahai]
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ロンドン出身の新世代R&Bシンガーの6年振りの2nd。先鋭的なビートをバックに優雅に歌う姿はもはや貫禄すら感じるが、変則的なブレイクビーツまで乗りこなすのは非常に今のアーティスト。


■第12位
goat [Joy in Fear]
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大阪の鬼才 日野浩志郎率いるリズムアンサンブルgoatのこちらも6年振りの2nd。複雑さは前作の方が上だが、多彩な楽器を使ったシンプルでストイックな楽曲が今回もスリリング。


■第13位
Beirut [Hadsel]
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ノルウェーのハッセル島に住み、教会のポンプオルガンを使って独りきりで作り上げたアルバム。従来の無国籍なメロディはないが、自分の内面と向き合って生み出した小さな炎のような温かいメロディが美しい。

# by Blacksmoker | 2023-12-31 20:48 | 2023年総括

2022年の10枚。

混迷の2022年。コロナはまだ終息には至らず、政治は腐敗しきって、経済は疲弊という日本。2018年に「終わりの始まりが来た」と思ったが、その終わりが完全に来た。自ら民主主義を放棄したような日本には当分良い未来が待ってない気がしますが、それでも人生は続くので頑張らねば!
個人的にはいろんなことに挑戦した1年でしたが、来年はより忙しくなりそう。音楽面ではここ最近と同じで聴く音楽は旧譜9:新譜1くらいの割合。しかし90年代がもう「30年前の昔」という自覚は持っておくべき。そして今まで苦手にしていた80年代にも積極的に挑んでいった1年でした。
そんなこんなで私の2022年のベストアルバム。今年は10枚。


<2022年の10枚>

■第1位
Alabaster Deplume [Gold – Go Forward in The Courage of Your Love]
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ロンドンのサックス奏者/詩人/ヴォーカリストの新作はいろんなミュージシャンとのセッションによって生まれた抽象的で幻想的な広がりを見せる音楽。20年前に日本にいたバンドTsuki No Waを思い出した。
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そしてさまざまなジャンルの音楽と女性混成コーラスの中で囁かれる鋭い視線のポエトリーにハッとさせられる。



■第2位
Saba [Few Good Things]
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1994年生まれのシカゴのラッパーの3作目。オーガニックさと最先端なサウンドが同居したサウンドに、よりコンシャスになったリリックと早口でメロディアスなラップのスキルも素晴らしいアルバム。
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豪華ゲストが参加してるが1人の曲の方が良い。


■第3位
Primus [Conspiranoid]
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5年振りのミニアルバムですが11分半のプログレな大曲を含む渾身の3曲。
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陰謀論やそれに取り憑かれた人をおちょくりまくる実にPrimusらしい内容で「馬鹿に従う馬鹿は誰だ?」というコーラスが印象的な"Follow The Fool"は新しいアンセム。


■第4位
Joan Shelley [The Spur]
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ケンタッキー州ルイヴィルのシンガーソングライターの9作目。歌のメロディもカントリー/フォークを軸にした演奏のフレーズも全てが美しく耳に残る傑作。


■第5位
Tedeschi Trucks Band [I am The Moon]
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12世紀に書かれた詩『ライラとマジュヌーン』を元に作り上げた驚異の4枚組アルバム。喜びや悲しみなどさまざまな感情が詰まった感動的な内容で、4枚全てを聴き終わった後にくるカタルシスは何物にも代え難い。



■第6位
Russian Circles [Gnosis]
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今年一番名前で割を食ったシカゴの3人組の新作。重厚な建築物を建築しているかような殺傷力抜群の正確無比なリフに圧殺されます。




■第7位
Cloakroom [Dissolution Wave]
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インディアナ州ノースウェストのトリオの5年振りの新作は地球崩壊をテーマにしたコンセプトアルバム。ドゥームとシューゲイズを真ん中をいくサウンドに幽玄でメロディアスなヴォーカルがクセになる。



■第8位
Ribbon Stage [Hit with The Most]
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NY出身の女2+男1のトリオのK Recordsからのデビューアルバム。1分前後で終わる曲満載でノイジーにポップに駆け抜けるインディロック全11曲19分。



■第9位
Kendrick Lamar [Mr. Morale & The Big Steppers]
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今のヒップホップ界のキング5年振りの2枚組。成功者として崇められる自分が実は俗悪な人間であることの葛藤まで歌にする痛々しいまでのアルバム。しかし一体どこまで曝け出さなければいけないんだろうか。


■第10位
Laura Veirs [Found Light]
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ポートランドのベテラン女性シンガーソングライターの新作。今までで最もシンプルさを極めたミニマルなサウンドと彼女の繊細さと力強さが同居する歌声が素晴らしいアルバム。プロデューサーのShahzad Ismailyの存在も大きかった。

# by Blacksmoker | 2022-12-31 15:19 | 2022年総括

2018年の12枚。

日本だけでなく世界的にも災害の多かった激動の2018年。
政治的にも対話が進んでるようで何も進んでない停滞感が漂う。トランプ大統領の排外スタンスに追随する国も多く現れ、「終わりの始まり」という言葉がよく似合う年だった気がします。今までは欧米以外のアフリカや中東の音楽を「第三国の音楽」として聴いてきましたが、今やアジアの音楽も異常に面白いですね。ネットでほぼ聴ける環境も素晴らしいです。
CDは今年も買ったのは10枚くらい。アナログ盤ばかり買ってました。あとはストリーミング。この前京都の某レコード店の店主に「でもCDの時代は絶対に戻っていくる」と言われましたが、さてさて? それでは2018年の私の代表するアルバム、今年は12枚!

<2018年の12枚>

■第1位
Mary Gauthier [Rifles & Rosary Beads]
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35歳で初めて曲を書いたというくらい遅咲きのシンガーソングライターMary Gauthier(メアリー・ゴウシェ)の11作目。このアルバムは戦争から帰ってきた帰還兵のアメリカ人に話を聞いてそれぞれの人たちの物語を曲にしたという4年がかりのプロジェクト。
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全部で11曲ありそれぞれ11人の名もなき兵士の知られざる戦争のストーリーを歌にしています。これぞフォークミュージックの真髄。幽玄な演奏と郷愁的なメロディと深い歌詞。56歳にしてその表現力が素晴らしい。


第2位
Cypress Hill [Elephants on Acid]
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「いまさらCypress Hillかよ!」と思うかも知れませんが、この新作はそんなナメてる奴を余裕でブッ飛ばす強力なトリップ・アルバム。DJ Muggsの見た夢をもとに作られたエスニックでサイケデリックなラップ曼荼羅で、60年代後半のドラッグでラリったサイケロックバンドのような超危険なアルバムです。


■第3位
Thou [Inconsolable]
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ニューオーリンズの怪物スラッジThou(ザウ)。2018年はEP3枚とRaganaとの共作アルバムとフルアルバム[Magus]をリリースし、どれも全部強力な内容でしたが、その中でもこのEPはなんと全編アコースティックという仰天の内容。
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轟音と叫び声しか聴いたことがなかったが、こんなダークで美しい音楽を提示してくるとは全く底知れない怪物です。



■第4位
Sons Of Kemet [Your Queen Is A Reptile]
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ロンドン出身のサックス奏者Shabaka Hutchings率いるサックス+ドラム2台+チューバという4人組ジャズバンド。2台のドラムの変則的なビートの上をShabakaのサックスが暴れまくり、さらに土着的なチューバが低音を支えているという既成概念を超えたサウンド。
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「お前たちの女王は卑劣だ」というタイトル、そして曲タイトルが全部黒人の女性活動家という、サウンドも姿勢も全部が超攻撃的なアルバムです。



第5位
David Byrne [American Utopia]
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14年振りのソロ新作。何層にも重なった緻密なサウンドに、異常にポップなメロディ、皮肉たっぷりの歌詞などやっぱ圧倒的な天才ぶり。盟友Brian Enoも絶妙なサポート。ソロ・キャリア史上最大のヒットというのも凄い。現在の編成でのライヴ・パフォーマンスも圧巻。



第6位
Makaya McCraven [Universal Beings]
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ヒップホップ・センス抜群のシカゴのジャズ・ドラマーMakaya McCravenの大作。Carlos NinoやMiguel Atwood-Ferguson、Jeff Parker、Shabaka Hutchingsまでゲスト参加したスピリチュアルでハイブリッドなビート・アルバム。


第7位
神門 [エール]
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2017年に三年をかけて作った[親族]というアルバムが全編”葬式”をテーマにしたとてつもないミニマルな作品でしたが、今回は自分の身の回りの出来事から他者になりきって歌う曲などテーマは様々ですが、その切り口がちょっと震えるくらいオリジナルな視点で脱帽します。ご近所さんから戴く”お裾分け”をテーマにした「土産」という歌にはもう完璧に唸らせらました。ラッパーでありながら、もう韻も踏まなくなりポエトリー・リーディングのようなスタイルですが、この男の言葉の力をまざまざと見せつけられました。



第8位
August Greene [August Greene]
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ラッパーCommonが、Robert Glasper(key/piano)、Karriem Riggins(drums/beat)と組んだ玄人受け抜群の新ユニット。このユニットの肝はKarriem Rigginsで、変則的で微妙にズレたビートを平気な顔で繰り出してます。あとの2人は余裕の安定感。ウルサ型のジャズ・リスナーも唸ります。



第9位
Royce Da 5’9"
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デトロイトの41歳のベテラン・ラッパー、Royce Da 5’9”(ロイス・ダ・ファイヴ・ナイン)の自伝的内容の新作。巧みなライミング、ラップの表現力、フローの豊富さなど若手ラッパーには到底出せないスキルの高さに平伏します。若手最高峰のJ.Coleを迎えた”Boblo Boat”、そしてEminemを迎えた”Caterpillar"の凄さはちょっとハンパない。



第10位
Kamasi Washington [Heaven and Earth]
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驚異の4枚組LPという超大作(隠しEPも含めると5枚組!)。前作での世界観はもっと壮大に広がり、ファンキーさまで加わってもう前人未到のカマシの世界。今年は来日公演も強烈でした。



第11位
S.Carey [Hundred Acres]
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マルチ・インストゥルメンタリストのソロ3作目。歌はさらに表現力豊かに、楽器の音色は繊細に仕上がった幽玄なフォーキー・チェンバー・ミュージック。



第12位
EVISBEATS [ムスヒ]
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和歌山の山奥での生活を反映してサウンドはよりオーガニックで、詩はより仏教的になり、成熟度を増したソロ4作目。ゲストの人選の的確さ・意外性もハマって一枚通してじっくり聴き込めます。また初期の頃の無国籍で奇妙なビートも聴いてみたくなる。





# by Blacksmoker | 2018-12-31 22:28 | 2018年総括

2017年の12曲。

人種差別や#MeToo運動などが目を引いた2017年。分断/格差/利己主義に陥った世界にはマイノリティの声が届かない。そんな中で音楽で自分のアティチュードを示すのがミュージシャンだと思いますので、どんどん社会的・政治的になっていけば良いし、それとは別にラヴソングだった共存したって良いと思う。Kamasi Washingtonの曲でもありましたが、異なる価値観が融合することが「真実」なのです。レコードで聴くようになってからシングル単位で聴かないので、今年も1曲ずつ選ぶのが難しかったですが、自分の中で2017年という年を象徴してる曲なんじゃないかと思います。今年は12曲!


<2017年の12曲>

第1位
中川五郎 “トーキング烏山神社の椎ノ木ブルース"
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1923年の関東大震災の発生直後に起こった朝鮮人虐殺の中で、世田谷のある橋の上で発生した事件とその後を描くフォークソングのルポルタージュとしての側面を存分に発揮させた曲。そして烏山神社に立てられた13本の椎木の恐ろしい真実。
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1曲17分にも及ぶ現在の日本のフォークソングが到達した一つのマイルストーン。



第2位
J.Cole “4 Your Eyez Only"
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凄い凄いと聞いていたが、ここまで凄い内容のアルバムだとは思わなかったアトランタのラッパーJ.Coleの新作。
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そのアルバムの最終曲は自分の亡き友人の娘に宛てた手紙という内容で、パーソナルで強く優しいメッセージに心打たれました。ほんと凄いリリック書く人です。



■第3位
Father John Misty “Leaving LA"
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これも長い曲で13分あります。歌詞を理解できないと魅力が半減する曲(アルバム自体もそう)だが、直接的じゃなくシニカルにLAを批判する面白さが分かればこれほど面白い男はいない。
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優雅なストリングスの上を堂々と歌い上げる一流のエンターテイナー。



第4位
Rhiannon Giddens “Birmingham Sunday"
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1963年にアラバマ州バーミンガムで起きたKKKのメンバーによる教会爆破事件で犠牲になった4人の女児を歌ったJoan Baezの曲を、50年以上経った現在に蘇らせたRhiannon Giddens。
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今の世界の状況への警鐘でもある重要曲です。ピアノが素晴らしい。



第5位
幾何学模様 “Nobakitani"
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日本のバンドなのにもう完全に海外の方が大人気のスペース・サイケデリック・バンドKikagaku Moyoの最新EPから。
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全5曲でもう一つのような作品ではあるので1曲を選ぶのは難しいんですが、和のテイストがここまでうまく融合したサイケデリックな音はないんじゃないか。とにかく素晴らしいバンド!


■第6位
Kamasi Washington “Truth"
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異なる価値観を表現した5つの楽曲が最後に一つの”Truth”という名前の楽曲に集約されるEPからその13分に及ぶ大曲。全くダレないし飽きないしずっと感動させられ続けました。
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これこそローカルでありグローバルであり、真のフリーダム。


第7位
Ben Ottewel “Watcher"
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日本では誰もが忘れたUKバンドGomez。さらにそのメンバーのソロアルバムとなるともうその注目され無さ加減がハンパではないんですが、そんな逆境でもこの男の声の求心力はいまだに私の心を捉えて離さなかった。この1stシングルのいなたさと清涼感に涙しました。


■第8位
Joan Baez “Nasty Man"
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ドナルド・トランプはフォークの女王の心まで動かし遂に25年振りの新曲を発表させてしまった。”不快な男”と題して優しく美しい声で徹底的にコキ下ろしているんですが、曲の完成度がもの凄く高いので聴きいってしまいます。やはりプロテストソングというのは歌詞もそうだが曲も素晴らしくないといけないという当たり前の事実を改めて教えてくれました。


第9位
Preservation Hall Jazz Band “Mad"
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ニューオーリンズの伝統音楽を守って伝えてきたミュージシャン達が年齢や病気で亡くなり続けている中で、この老舗バンドのメンバーも新旧の入れ替わりがある状況で新たに見つけた方向性は伝統を残しつつもその音楽を未来に繋がるようにアップデイトさせることでした。新作の中からニューオーリンズの過去と未来が同居したようなこの曲には希望を感じました。来日公演も良かったです。



第10位
David Rawlings “Lindsey Button"
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寡作なGillian Welchとその寡作な夫David Rawlingsですがようやく新作が出ました。もちろんGillian Welchも全面参加。昔からあるフォーク・ソング/アパラチアン・ソングを新たにアレンジし直して違った曲に蘇らせるんですが、この曲も古い曲だそうですがもうシンプルなアレンジで素晴らしい曲に生まれ変わりました。



第11位
Neil Young + Promise of The Real “Already Great”
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再びPromise of The Realと組んだアルバムからの先行シングル曲。トランプ大統領のスローガン"Make America Great Again”へのカナダからの回答"もうすでにGreatだぜ”。サウンドもアメリカのゴスペルやニューオーリンズなどのルーツ音楽を取り入れてて上手い。




第12位
Bell Witch “Mirror Reaper"
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1曲83分! シアトルのドゥームデュオによるとんでもない地獄度のフューネラル・ドゥーム。とにかく陰鬱で長い。最高。
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ドラマーの死を乗り越えて完成させた本物の葬送曲。(まあ曲というよりアルバムなんですけど。)


■次点
Lee Ann Womack “The Lonely, The Lonesome & The Gone"
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テキサスのカントリーシンガーの新作からのタイトル曲。郷愁的なカントリーソングですが、”この心の痛さは、古いHank Williamsの曲のよう / 孤独で、寂しくて、過ぎ去ったもの”という歌詞が凄い好きでした。

スカパー!

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第2回プラチナブロガーコンテスト



# by Blacksmoker | 2017-12-31 22:58 | 2017年総括

2017年の12枚。

トランプが1月に大統領に就任してからというもの常に彼の言動に世界が左右されていた2017年。音楽にもトランプが与えた影響は大きく、良くも悪くも「トランプ以降」というフェーズに入った今の音楽界は混沌としていた気がします。ただサウンドは80’s色全開な音が世界を席巻してますがどうも苦手。26年前に同じ状況を1枚のアルバムで破壊したNirvanaのようなバンドが再び現れるのでしょうか?

さて、CDはどうなっていくのか?今年買ったCDはおそらく10枚以下。その他はアナログばかり。新しい音楽よりも、古い音楽を買ってる割合の方が多かった2017年。おそらく2018年もその傾向は続くでしょう。

ということで今年は12枚。トランプ以降を象徴するアルバム、ベテランの復活作、欧米以外の極地からの革新的なサウンドなど。今回もほぼアナログ盤での評価です。


<2017年の12枚>

■第1位
Orchestra Baobab [Tribute to Ndiouga Dieng]
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西アフリカのセネガルの首都ダカールで1970年に結成された大所帯バンドの10年振りの新作。2016年に亡くなったオリジナル・メンバーNdiouga Dieng(ンジュガ・ジェン)に捧げられたアルバム。
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アフリカの音楽ではあるんですが、根底にあるのは大西洋の向こう側にあるキューバ音楽。そこにアフリカ的な味付けをしたダンスミュージックなのですが、今回から西アフリカの伝統楽器コラを演奏するメンバーが正式に加入し、土着的なサウンドと違った美しい側面も見せてくれる素晴らしい傑作。


■第2位
Afghan Whigs [In Spades]
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90年代に一際異彩を放っていたグレッグ・デュリ率いるこのバンド。2001年に解散したんですが、2014年に再結成。今作は再結成2作目。
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ますます異形な才能が気持ち悪くもそれを格好良さが上回る特異なバンドですが、今作はグレッグのヴォーカルもますます凄みを増して、サウンドもヘヴィでドラマティックに。90年代の傑作を超える最高傑作ではないでしょうか。しかしこの後ギタリストが急逝。どうなってしまうんでしょうか。


■第3位
Open Mike Eagle [Brick Body Kids Still Daydream]
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昨年はPaul Whiteとの共同名義でのアルバムが傑作でしたが、今回はソロ名義。自身の生まれ育ったシカゴに1960年代に実際に建てられた低所得者層向けの大規模高層アパート[ロバート・テイラー・ホームズ](70年代には犯罪の巣窟と化して取り壊されたプロジェクト)を擬人化してラップするという普通では考えられないコンセプトのアルバム。
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前作のPaul Whiteの多彩なトラックよりミニマルなトラック中心だが、ラップの内容が面白すぎる。天才。ちなみにOpen Mike Eagleのことを関西のどのヒップホップのレコード屋で聞いても知られてないのが悲しい。


■第4位
Monolord [Rust]
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スウェーデンの極悪スラッジトリオの新作。Sleep直径の重低音リフにエコーの効いたヴォーカルが酩酊感を倍増。
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Electric WizardやUfomammutのようなアチラ側へ行ってしまわず、一歩手前のギリギリのところにいる感じが良い。

■第5位
Les Filles De Illighadad [Eghass Malan]
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西アフリカのニジェールの砂漠イルリダダット出身の女性デュオLes Filles(レ・フィールズ)の新作。今作から女性ギタリストが参加して3人編成に。
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TinariwenやTamikrestがロックへ向かって行く中で、彼女たちはより母性的でプリミティヴなサウンドへ。


■第6位
Iron & Wine [Beast Epic]
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昨年Jesca Hoop & Sam Beam名義での作品も素晴らしかったですが、本体Iron & Wineの新作はほぼライヴ録音で声とギターの音色の美しさ極限まで引き出したサウンドに震えました。
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実に映像が喚起されるサウンド。しかし相変わらず歌詞が難解です。


■第7位
Jlin [Black Origami]
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米インディアナ州の女性トラックメイカーの2nd。これは衝撃でした。Flying Lotusを初めて聴いた時のようなインパクト。もの凄い重低音とトライバルでポリリズミックなリズムの嵐。ぜひアナログ盤で聴いて欲しい。


■第8位
Julie Byrne [Not Even Happiness]
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ニューヨークの女性シンガーソングライターの2nd。中音域の透き通る歌声はもろにJoni Mitchellの系譜を受け継ぐシンガーですが、その中でも曲の完成度が群を抜いてます。ギターの弦の動きまで聴こえる録音も素晴らしい。



■第9位
Quantic + Nidia Góngora [Curao]
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イギリス人プロデューサーWill HollandのプロジェクトQuanticの新作はコロンビアの女性歌手Nidia Góngoraを前編ヴォーカルに迎えた作品で、彼女の生まれた街ティンビキに伝わるクルラオという音楽をクラブミュージックの文脈で解釈し直しています。女性クワイアが印象的。


■第10位
Joey Bada$$ [All-Amerikkkan Badass]
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Kendrick Lamarの何重にもひねったリリックやアルバムのトータルコンセプトも素晴らしかったですが、こっちはもっとシンプルに分かりやすくポリティカルなラップを聴かせてくれます。トラックはKendrickよりも上だったと思います。



■第11位
Chronixx [Chronology]
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ニューラスタ・リヴァイヴァルの中でも人気実力ともに頭一つ抜けているChronixxの待望の1stアルバム。地に着いた歌詞と、自身のバンドによる素晴らしい演奏。カリスマ性とも合わせて時代を超えたレゲエの名作の誕生。


■第12位
Fleet Foxes [Crack-Up]
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実に6年振りの復活作。重厚なコーラスと文学的な歌詞による幽玄でバロック的なフォークロック。一度聴いただけではなかなか理解できない複雑な曲構成は忍耐力のなくなったリスナーに対する挑戦状のようです。


■次点
鬼 [火宅の人]
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福島県いわき市小名浜のラッパーの3度目の逮捕・実刑の後の5年振りの新作。昭和の闇を背負ったその人生とストリートの文学性が染み付いたリリックはもう誰も到達できない領域まできた感がある。抜け出せないカルマまで含めた底辺の人間の崇高な美学が輝いている。


# by Blacksmoker | 2017-12-30 16:49 | 2017年総括