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BILL FRISELL [Disfarmer]


Unsung」という言葉をご存知だろうか?

生きている時には全く日の目を見ることはなかったが、亡くなって後に評価されるようになった人のこと。例えばヴィンセント・ヴァン・ゴッホであったり、日本でなら山下清であったりする人ですね。個人的には、架空の少女「ヴィヴィアン・ガールズ」を人知れず描き続けたヘンリー・ダーガー(昨年、彼の生涯を追った映画「非現実の王国で」もありました)が思い浮かべられますね。

そんな「Unsung」の1人、マイク・ディスファーマー(1884-1959)。
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アーカンソー州の山間部にあるハーバー・スプリングスという小さな街で1917年から写真館を40年間営み、街の人々の写真(ポートレイト)を撮り続けた男で、その後独りでその写真館の中で死んでいるのを発見されている。1974年にこの写真館を買い取った夫婦によって、ディスファーマーの撮った写真が大量に発見され、これが近年になってもの凄い評価を受けるようになったのです。
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マイク・ディスファーマーという人はとても変わった偏屈な人物だったようで、どんな時でも黒いスーツと、黒い帽子に、コートを着て、毎夜街を徘徊し、子供達を脅かしたりしていたそうです。そして誰とも口を利かず、住人からは恐れられていたようですね。実は彼の本名はMike Meyersという名前でしたが、Meyersがドイツ語で「農夫」=Farmerという事を嫌がって、「非農夫」=Disfarmerに変名したというエピソードもあります。
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彼は写真を撮る方法も一風変わっており、天井からの自然光を使い撮影していたそうで、納得のいく写真が撮れるまで一時間以上もカメラの前に立たせたりしたこともあったと言われている。その独特な手法によって、彼の写真は一際異彩を放つものになっているのです。ただ、ディスファーマーはこれらの写真を別段外に向けて発表しようとしたわけでなく、ただ黙々と自分の為に撮り続けていたというのが興味深い。
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さて、そんなマイク・ディスファーマーの残された写真にインスパイアされ音楽を付けたのが、今回の主人公であるビル・フリーゼル(下写真)。
Blacksmokerの最も好きなギタリストです。
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このアルバム「Disfarmer」(右写真)は、ビル・フリーゼルを中心とし、彼を含めた4人のミュージシャンが、ディスファーマーの写真の中に写った人物達の背景や感情を音楽によって表現するというとても興味深い作BILL FRISELL [Disfarmer] _f0045842_1542765.jpg品だ。Cuong Vuのアルバムや、さらにはEarthのアルバムなどにも参加したりとアヴァンギャルドな方向にも足を突っ込みつつも、最近はアメリカン・ルーツ・ミュージックへの傾倒をあらわにしているビル・フリーゼル(その動きはライ・クーダーとも共振しているようにも思えます)。そしてこのアルバムは、そのビル・フリーゼルのアメリカン・ルーツ・ミュージックへの傾倒の最もたる作品になるであろう素晴らしい作品です。もちろんNonesuchからのリリース。

注目すべきはビル・フリーゼル以外の3人のミュージシャン。これがルーツ・ミュージック好き(ちょっと上級編)なら唸るほどの実力派揃いのメンバー。

まずはグレッグ・リース
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もうビルの作品ではお馴染みのスティール・ギター・プレイヤー。最近ではジョー・ヘンリーのアルバムでも素晴らしい働きを見せていたし、Eaglesの再結成アルバムにも参加していたりしてましたね。個人的にはクレジットにこの男の名前を見るだけでも安心してしまうほど信頼感があります(ちなみにビル・フリーゼルの組んだ弦楽器5本によるバンドThe Intercontinentalsのアルバムの中に入っているListenという曲でのグレッグ・リーズの弾くスティール・ギターがホントに素晴らしいので是非聴いてみて欲しいです)。

そしてもう一人は、ヴァイオリン奏者のジェニー・シェインマン
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この女性は要注目です。ジョン・ゾーンらとも交流を持つNYアヴァンギャルド・ジャズ・シーBILL FRISELL [Disfarmer] _f0045842_27641.jpgン出身の人でありながら、ノラ・ジョーンズらとも親交を持つ実力派。既に自身のソロ・インストゥルメンタル・アルバムも何枚もリリースしており、昨年は何とヴォーカル・アルバム「Jenny Scheinman」(右写真)までリリースするという凄い女性なのです(しかも歌も上手い)。そのヴォーカル・アルバム「Jenny Scheinman」はかなり素晴らしい出来なので絶対にチェックして欲しい作品です。

そして最後の一人は、ベースのヴィクター・クラウス
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知る人ぞ知る名ベース・プレBILL FRISELL [Disfarmer] _f0045842_2141276.jpgイヤーであり、シンガーソングライター。さらには、あのアリソン・クラウスの弟という凄い血統なのです。そしてジェニー・シェインマンに続いて、この人も歌えるんです。2004年にNonesuchからリリースされた彼のソロ・アルバム「Far From Enough」(右写真)は個人的に、アメリカーナを代表するシンガーソングライターの大傑作だと思いますね。これも是非チェックして欲しいです。

さて、そんな3人の実力派のミュージシャンを従えてビル・フリーゼルは雄大に、時には繊細にディスファーマーの写真から感じ取られる印象を音にしていきます。ビル以外の3人のミュージシャンも、個々がかなりの実力派でありながら、ここではあくまで主人公であるビル・フリーゼルのギターの音色を最大限に活かし見事にサポートしています。その音の映像喚起力はとてつもなく冴えています。
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ビル・フリーゼルDisfarmer Themeという1つのテーマ曲を作り上げ、その曲を色々とアレンジして、違った曲に変えている曲が多く、耳慣れたフレーズが何度も出てきてとても心地良いです。これらの曲を作るためにビルはノース・キャロライナからサウス・キャロライナ、さらにはジョージアからミシシッピを車で廻り、ディスファーマーの生きたアーカンソーのハーバー・スプリングスまで赴いたそうです。そうする事により、その空気感までもこの楽曲の中に映し出す事に成功しているように思えます。
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このアルバムにはビルの自作の曲以外にも、アーサー・クルーダップ作のエルヴィス・プレスリーがカヴァーした事でも有名なThat’s Alright, Mama、さらにはハンク・ウィリアムスLovesick BluesI Can’t Help It(If I’m Still In Love With You)のカヴァーを挟み、どちらかと言うと、とりとめもなくゆっくりと流れるアルバムの音楽にメリハリを付けていますね。

さらに終盤に出てくるArkansas Part.1からPart.3の連続する3曲は、1949年から1963年にアーカンソー州の州歌だったArkansas Travelerを基にビルが自ら作った素敵な曲です。
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どの曲もディスファーマーの写真のようにコンパクトでありながらも情景の浮かんでくる非常に映像的なサウンド。時間を忘れてしまう程の気持良さがあります。写真に写った人の表情の奥にあるものに想像しながら聴くのが、このアルバムの最も正しい聴き方なのでしょう。
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さらには、ディスファーマーがどんな事を考え、どんな思いを込めてこれらの写真を撮ったかということにも思いを巡らせて聴くのも面白いでしょう。私もディスファーマーの写真集が欲しくなってきましたね。
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是非ともディスファーマーの写真と共に聴いて頂きたい素敵な作品です。

   
by Blacksmoker | 2009-11-08 01:08 | COUNTRY / BLUEGRASS
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