PIXINGUINHA [O Maestor Do Brasil]

f0045842_1313665.jpgこのレコード、ピシンギーニャ「ブラジル音楽の父」(原題:O Maestor Do Brasil)は、2006年にリリースされたものの中でも「よくぞ発掘してくれた!」的一枚。編集者の努力と労力と情熱の結晶といっても過言ではないくらいの「ベスト功労賞」認定の素晴らしいアルバムです。手軽なコンピレーションが氾濫する昨今、それらとは全く違った次元に位置する偉大な一枚。

ピシンギーニャ

この人は「ブラジル音楽の父」と呼ばれる。ショーロを支えた天才として名を刻む偉人なのです。
f0045842_13253232.jpg
まずショーロとはどんな音楽なのか?

ショーロとは1870年代にリオ・デ・ジャネイロで生まれた音楽で、支配階級時代の黒人奴隷が生み出したと言われている。支配階級であるポルトガル人が奴隷であるブラジル人に演奏させていたポルカやワルツが、演奏するブラジル人によってアフロ的な独特なノリを身につけて新たなダンス・ミュージックとして発展を遂げたのがショーロ。この音楽がその時代のブラジルでメインストリームのダンス・ミュージックになるわけです。

ショーロの基本的な構成はヴィオラォン(ガット・ギター)、フルートカヴァキーニョ(ウクレレみたいな楽器)で構成されます。当時はドラムなどは入っていませんでした(その後ショーロはドラムやサックスなど取り入れてジャズ的な発展を遂げて、それがボサノヴァになっていくわけです)。だからカントリー音楽で例えるならば、カントリーの前に存在したブルーグラスみたいな位置にあたるのがショーロですね。

このショーロが全盛期を迎えるのが1920年代~30年代にかけて。その全盛期を支えたのが作曲家ピシンギーニャ(下写真の一番左)なのです。
f0045842_13294871.jpg
彼はフルート奏者であり、後年はサックス奏者としても有名でした。彼の功績は後のブラジル音楽に多大な影響を与えるわけで、アントニオ・カルロス・ジョビンらもショーロにはかなりの影響を受けています。もしピシンギーニャがいなければブラジル音楽はまた変わっていた事でしょう。それほど偉大な作曲家なのです。ブラジルでは彼の誕生日の4月23日は「ショーロの日」と制定されているそうですね。

そんな彼の音源ですが実はなかなか耳にすることが出来なかったのが現状でした。彼は全盛期の1920年代後半まではフルート奏者として、そして1930年前後はフルートをサックスに持ち替えてオーケストラを率いるサックス奏者として名を馳せていたのですが、今レコードで聴けるのは1940年代以降の音源がほとんどなのでf0045842_1346189.jpgすね。歴史的名盤とされるピシンギーニャがショーロ最高のフルート奏者とも言われるベネジート・ラセルダと共演した「ショーロの聖典」(左写真)というレコードは、文字通りの名盤で「聖典」と呼ぶに相応しいものですが、これは1946~1950年の音源の為にピシンギーニャはサックスを演奏しており、しかも年齢は50歳という円熟期のもの。ピシンギーニャの全盛期の音源というものは日本でもブラジルでもなかなか聴くことは出来なかったのが現状だったようです。

さてこのアルバム「ブラジル音楽の父」の内容ですが、その全盛期のピシンギーニャの姿を時代順に捉えたかなり気合いの入った編集盤です。前半はショーロのフルート奏者として活躍した頃の音源を集め、後半はサックス奏者として活躍した頃の音源が集められている(特にこのアルバムを編集した田中勝則が目指したのが1930年前後のオーケストラを率いたサウンドの作品を作ることだったそうですね)。

編集者の意図に逆らうようだが、個人的には30年前後のオーケストラ作品よりも、1910年後半~1920年後半のフルート奏者としての録音の方に衝撃を受けましたね。

前述のベネジート・ラセルダよりも軽やかでポップなフルート。もはやピッコロみたいに軽快にフルートが跳ねまくります。素晴らしいです。ダンス・ミュージックとして機能していた訳ですから、テンポも速くつんのめるようなフルートが心を躍らせます。一般的にイメージされる「カフェのBGM」として流れるショーロとは全く違いますね。こんなのがBGMだとソワソワして落ち着きませんよ。

ショーロといえば私はすぐに30年代~50年代に活躍したギター奏者ガロートを想像してしまいますが、ピシンギーニャのショーロは全く違った味わいがありますね。特に「Urubu Malandro」(邦題:ウルブー・マランドロ)や、その曲をさらに発展させた「O Urubu E Gaviao」(邦題:ウルブーと荒馬)のフルートの白熱した演奏はまさに歴史的。1920年後半の音源にもかかわらず、その生々しさや勢い、そしてその時代の空気といったものを見事に切り取った素晴らしい録音です。
f0045842_13595598.jpg
先程フルート奏者時代に衝撃を受けたと言いましたが、後半のサックス奏者としてオーケストラを率いたピシンギーニャの演奏もかなりの貴重すぎる音源です。ここではジャズに衝撃を受けたピシンギーニャが自身のジャズ・バンドでブラジル風ジャズを目指した時代の音源だ。ブラジルならではのアフロ・ジャズの原型がここで聴くことが出来ます。そしてこの中でも特筆すべきは32年の録音「Ainda Me Recordo」(邦題:覚えているよ)と、「Estou Voltando」(邦題:俺は戻っている)の2曲。これはグァルダ・ヴェーリャとの録音で、名義はグルーポ・ダ・グァルダ・ヴェーリャ(Grupo Da Guarda Velha)になっているが、ショーロの演奏をバックにアフロ・ジャズを融合させた画期的な演奏です。ブラス・バンド風ショーロみたいな素晴らしいダンス・ミュージック。この2曲は必聴です。

終盤にはラセルダとの共演曲なども収録されており、全ての時代のピシンギーニャの音源が満遍なく網羅されています。偉大なる「ブラジル音楽の父」の歴史を辿るには最適なアルバムです。よくぞ編集してくれました!是非ともブラジル音楽ファンはもとよりジャズ・ファン、そしてまだこれらの音楽に触れたことのない人たちに是非とも聴いて欲しい盤ですね。
f0045842_14152975.jpg
惜しむべくはジャケがダサすぎる事!もうちょっとマシなジャケにしてくれたらそれだけでも聴かれる人の幅は広がるはずだ。再発されるような事があるならジャケの再考だけはお願いしたいです。
[PR]
by Blacksmoker | 2007-01-17 14:16 | ブラジル
<< THE ROOTS @ Blu... MESHELL NDEGEOC... >>