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SINEAD O’CONNOR [Theology]


1992年「Saturday Night Live」の生放送で「Fight The Real Enemy!」と叫んでローマ法皇の写真を破り捨て世界中を敵に回してしまったあの有名な事件から早15年。

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しかし、なんとシネイド・オコナーは今カトリックの女性司祭となっているのです!これには驚きましたね。

そもそも精神的にも繊細すぎたのだと思う。正直に生きていくことがこれだけ難しい事だとは彼女も想像しなかったはず。彼女に今までのアルバムにはアイルランド的な美しさ以上にその繊細さが如実に表れていた作品ばかりでした。
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ただセンセーショナルではなくなると、メディアでは取り上げられなくなるのが世の常で、彼女もメディアというものからは遠ざかって久しいですが、その間にも実は素晴らしいアルバムを何枚も出しています(個人的には1997年の「Gospel Oak」というEPが大好きです。)

そしてこれもあまり取り上げられなかった事ですが、2003年にはJay-Zばりに音楽業界から引退。その後2005年にはJay-Zばりに復帰。復帰後には全編レゲエのカヴァー・アルバム「Throw Down Your Arms」を発表したりしています。
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彼女の精神は非常に「危うい」。ローマ法皇の写真を破り捨てた事件(中絶に反対するカトリックに抗議する意味だった)以外にも、アメリカ公演ではアメリカ国家を歌う事を拒否したり、レズビアンだとカミングアウトしたり、離婚したり、そのくせ女性司祭になるなど、その遍歴を見るだけでも彼女の「危うさ」が分かります。
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「危うさ」という点ではフィオナ・アップルにも同じことが言えるが、内へ内へ向かうフィオナ・アップルと違い、シネイド・オコナーは結構対外的。外へ外へ向かっています。ここが2人の決定的な違いであり、個人的に今のシネイドを評価する点です。2004年に発表されたアルバム「Collaborations」(今までシネイドが他アーティストに参加したり、関わってきた曲を集めた編集盤)を聴くと、U2Massive Attack、そしてPeter GabrielMobyAsian Dub Foundationなど錚々たるメンツと彼女は関わってきた事が分かります。

SINEAD O’CONNOR [Theology]_f0045842_23131125.jpgさてオリジナル作品としては2000年の「Faith And Courage」以来7年振りとなる新作「Theology」。基本的に彼女の音楽はデビュー当初から大きく変わってはいない。この新作もアイルランドの伝統音楽や教会音楽の要素をふんだんに含んだ透明感のあるトラッド・サウンドは健在ですが、シネイドの声は以前のそれとは大きく違っている。母性を感じさせるようになったその逞しい声は更に表現力を増しています。

今回のアルバム「Theology」では面白い趣向がなされています。2枚組となっているアルバムですが、それぞれの1枚ごとにサブタイトルが付けられている。1枚目には「London Sessions」、そして2枚目には「Dublin Sessions」と名付けられているわけですが、実は収録曲はほぼ同じ。「London Sessions」は様々な楽器、プログラミング、そしてオーケストラを使った何ともカラフルで豪華なサウンド。一方の「Dublin Sessions」は同じ曲をアコースティック・ギターとシネイドの声だけで録音したアンプラグド盤になっている。
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どちらのサウンドも優劣付けがたい素晴らしいものですが、個人的にはシンプルなサウンドでシネイドの美しく力強いヴォーカルが堪能出来る「Dublin Sessions」が良いですね。

実はこのアルバム、当初はアコースティック盤のみでリリースされる予定だったのですが、プロデューサーでもあるロン・トムシネイドの声の素晴らしさに感動し、シネイドを説得してこの「London Sessions」のヴァージョンが録音されることになったそうです。
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収録曲は自身のオリジナル曲以外にもカーティス・メイフィールドWe People Who Are Darker Than Blue、レゲエのクラシックRivers Of Babylon(映画「The Harder They Come」のサントラにもThe Melodiansの歌うヴァージョンが収録されていました)といった名曲カヴァーも入っています。両曲ともにシネイド色に染まった素晴らしいカヴァーになっています。(彼女自身のオリジナル曲がアイリッシュ感漂う素晴らしい出来なのは、今までの彼女の作品に触れた事のある人なら想像出来るでしょう。)

日本盤にはボーナス・トラックとして更に6曲のライヴ音源が収録されてるのでオススメ。レコードで聴く以上にシネイドのどっしりとした逞しさを感じることが出来るでしょう。
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今のシネイド・オコナーにはセンセーショナルさも、エキセントリックさも、斬新さありません。しかしそんな今だからこそ彼女の本当の姿に触れる事が出来ます。そこで触れられる彼女の姿は真の意味で孤高のアーティストだ。流行とは無縁の音楽だからこそ、この作品は後世になっても静かに聴き続けられる作品になるでしょう。
 
by Blacksmoker | 2008-03-24 00:36 | ROCK
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