PUNCH BROTHERS [Punch]


大袈裟ではなくコレは21世紀のブルーグラス最大の衝撃作です。

f0045842_1182240.jpg1940年代中頃にBill Monroe & His Blue Grass Boysがブルーグラスを演奏し始めてから既に60年。その間にブルーグラスという音楽は大々的に注目を浴びる事はなかったが、静かに人々に愛され続けてきた(2002年に「オー・ブラザー!」のサウンドトラックがグラミー賞の最優秀作品賞を受賞し一時的に注目を浴びた事はありましたが)。

もちろんその60年という長い長い歴史の中で、ブルーグラスに大きな変革をもたらすアーティストが現れている。例えばサム・ブッシュであり、ジョン・ハートフォードであり、デイヴィッド・グリスマンであり、彼らの存在がブルーグラスを様々なジャンルへと融合させ進化させていった。

そして2008年、21世紀のブルーグラスを更に新たな領域まで進化させる衝撃の作品が登場しました。それがこのパンチ・ブラザーズのデビュー・アルバムとなる「Punch」。この若いブルーグラス・ミュージシャン達が、ブルーグラスの歴史に大きな変革をもたらす事になるでしょう。

このパンチ・ブラザーズ・・・変な名前ですが、その名前はマーク・トウェインの短編小説から取られている。そしてこのバンドはある1人の男を中心とするプロジェクトなのです。

               その男の名はクリス・シーリ
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絶大な人気を誇りながらも2006年に解散したNickel Creekの若き天才マンドリン奏者クリス・シーリ(26歳!)が「自分の作りたい音を実現する」ために、それを実現できるミュージシャンを集めて結成したいわゆるスーパー・プロジェクトとも言える。
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クリス・シーリを含む5人編成(マンドリン、ギター、ベース、バンジョー、フィドル)で、そのメンバーにはJerry Douglas Bandにも在籍するフィドル奏者ゲイヴ・ウィッチャーや、昨年デビューした新鋭ブルーグラス・バンドInfamous Stringdustersのギタリストのクリス・エルドリッチも名を連ねている。まるで70年代のブルーグラス界を震撼させたスーパー・プロジェクトMuleskinnerの登場を彷彿させますね。

このメンバーは2006年に発表されたクリス・シーリの5枚目のソロ・アルバム「How To Grow A Woman From The Ground」(左写真)に参f0045842_1261446.jpg加していたメンバーで、クリスの脳内音楽を具現化出来る天才集団と言えます。僅か12歳でソロ・アルバムをリリースし、既に教則ビデオも出しているこの早熟な天才児ですから、その彼についていくだけでも相当な技術を持っていると言えます。ポップな方向へシフトしようとしたNickel Creekとは全く別次元のサウンドで、やはりNickel Creekの解散は致し方ない事だったのだろう。

そしてその達人たちを得たクリスは、とんでもない楽曲を完成させます。これはThe Blind Leaving the Blindと題された4つの楽章で構成された40分にも及ぶ壮大な組曲。これは何と言ったら良いだろうか、ブルーグラスの枠を超えた、クラシックというか・・・ジャズというか・・・何と言うか符合する言葉が出てこないんですが、とにかく既存のブルーグラスを超越した1つの『良質な音楽』として機能している。
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ブルーグラス・ファンなら耳が釘付けになる超絶な演奏を楽しむことも出来るだろうし、それ以外の音楽リスナーでも「新たなジャンル」としても十分に楽しめる。そして音楽をあまり聴かない人でのBGMとして心地良い穏やかさを与えてくれる不思議なサウンドだ。

しかし、もうコレはまさしく「プログレ」だ。ブルーグラス版のプログレ。起伏に富んだ曲展開、細部の僅かな弦の響きまでも計算されつくした演奏、そしてクリス・シーリによる若さの残る歌もしっかり入っているし、ブルーグラスの醍醐味である楽器同士のアンサンブルなどもう絶品の一言だ。アルバム全編がスタジオ・ライブ形式で録音されていて、その臨場感と緊迫感がダイレクトに伝わります。
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正直、一聴して理解出来るものではないかもしれない。コレは何度も聴くうちにその凄さが理解出来てくると思います。天才のやることは凡人にはすぐ理解出来るものではありません。

そしてThe Blind Leaving the Blind以外にも他に4曲が収録されていて、こちらは幾分かリラックスした雰囲気を持っていてコチラもとても楽しめます。
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とにかく全てのカントリー/ブルーグラス・ファンだけでなく、全ての音楽ファンに聴いてもらいたい一大傑作と言えるでしょう。スルー厳禁!

ちなみにこのアルバムのリリース元は何とあのNonesuchからのリリースというのにも注目です。ワールド・ミュージックのレーベルでユッスー・ンドゥールカエターノ・ヴェローゾWilcoデイヴィッド・バーンといった一癖も二癖もあるアーティストを抱える信頼の置ける重要レーベルで、このレーベルからリリースされるものは全て素晴らしいと言っても過言ではない。
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そしてこのパンチ・ブラザーズNonesuchからのリリースというのも非常に納得出来る話ですね。
 
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by Blacksmoker | 2008-04-05 00:58 | COUNTRY / BLUEGRASS
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