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レゲエ馬鹿道場(VERSION) 第八回。


早くも夏が終わりましたね。今年の夏はクラブに行くのも、DJするのもダンスホール・レゲエが中心で、ルーツ・レゲエの方をすっかりお座なりにしておりました・・・。

しかしルーツ・レゲエを忘れてはいけません!ダンスホール・レゲエもルーツ・レゲエなくしては存在しないのです。

という訳で今年の夏の贖罪の意味を込めまして「レゲエ馬鹿道場」前回から1年半ぶりの再開です。

ではいってみましょう!久々のレゲエ馬鹿道場。第八回はこの人の登場。ちなみに今日は9月11日、いわゆる「911」。レゲエ界にとって「911」はこの人の命日でもあります。

PETER TOSH Equal Rights
 ピーター・トッシュイコール・ライツ

今回登場するのは大物ピーター・トッシュ。Blacksmokerの最もリスペクトするレジェンドを紹介しましょう。

レゲエ馬鹿道場(VERSION) 第八回。_f0045842_2243411.jpgボブ・マーリィの兄貴分にして、レゲエ界で最もパンク気質を体現する「歩くカミソリ」ピーター・トッシュ。1944年ジャマイカのキングストンにある貧困街トレンチタウンに生まれたピーター・トッシュは1962年に同じトレンチタウン出身のボブ・マーリィとバニー・ウェイラーらと共にコーラス・グループ「The Wailing Wailers」を結成。その後The Wailersに名前を変え、1970年にベースとドラムにカールトンアシュトンバレット兄弟らを迎えたバンドとなった彼らは1973年にアイランドからメジャー・デビュー盤「Catch A Fire」をリリース(下写真左がトッシュ)。
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ボブ・マーリィのカリスマ性で一躍人気を博しますが、2nd「Burnin’」リリース後の1974年にThe Wailersを脱退(同じくバニー・ウェイラーも脱退)。

脱退の原因はツアーに疲れ果てたという事だが、本当の理由はボブ・マーリィをメインにして「Bob Marley & The Wailers」として売り出したいアイランド・レコードとの確執が原因だと言われています。
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確かに1st「Catch A Fire」の中の400 YearsStop The Trainなどピーター・トッシュがリード・ボーカルを取る曲も収録されているくらいなので、この扱いには耐え難いものがあったのでしょう。

その後ソロになった彼は1976年に1stアルバム「Legalize It」をリリース。
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トッシュがマリファナ畑の真ん中で一服しているジャケットのインパクトが強烈ですが、サウンドの方もボブ・マーリィを除いたThe Wailersアイ・スリーズのコーラス隊までも参加)全員が参加していながらも、ボブ・マーリィのサウンドとは全く違うずっしりとヘヴィなレゲエでこれまた強烈なインパクトを与えました。
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そしてその翌年の1977年にリリースされた2ndアルバムが、この「Equal Rights」。このアルバムの特徴はズバリ、全曲捨て曲なし。こんな素晴らしい曲が詰まったアルバムはそうはない。トッシュの物悲しいメロディ・センスが爆発している素晴らしい曲ばかりだ。

そしてもう一つの特徴はあまりにもストレートに真理を突くそのレゲエ馬鹿道場(VERSION) 第八回。_f0045842_238481.jpg歌詞。前作「Legalize It」にあったWhy Must I CryKetchy ShubyTill Your Well Runs DryBrand New Second handといったラブ・ソングは一切なし。切なく哀愁のあるメロディに乗って歌われるのは、抑圧された者の怒り、自分を誇示するアイデンティティー・ソング、そしてJah賛歌のみ。かなりハードコア度の高い過激な歌詞になっている。「Legalize It」で新たな一歩を踏み出したピーター・トッシュが更に孤高の道を進み始めたと言ってもいいでしょう。

サウンドの方も、前作に参加していたThe Wailersの面々を一新し「Word Sound & Power」という名の自身のバンドを結成。ドラムとベースにはSly & Robbieを迎え、前作でのずっしりとヘヴィな土着的なサウンドよりもさらにドラムの音を強調し、さらにキーボードを全面に出す事でより曲に幅を持たせているのが特徴だ。コマーシャルになったという意味ではないがより聴き易くなっています。
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このアルバムの中で最も印象的なのがEqual Rights

誰もが平和を望むが 正義を望むものは誰もいない
誰もが天国に行きたがるが 死を望む者は誰もいない
俺には平和など必要ない
俺が欲しいのは平等の権利、そして正義だけだ
平和などいらない
平等と正義さえあれば犯罪もなくなる


こんなハングリーで真理を突いた歌詞はこれ以前にも以降にもお目に掛かった事がない。彼の視点でしか絶対に歌えレゲエ馬鹿道場(VERSION) 第八回。_f0045842_2494418.jpgない曲。世界的に名声を得てしまったボブ・マーリィには絶対歌えない歌でしょう。30年以上経った今でもこのメッセージの鋭さは全く衰えてないのが凄いです。レゲエ界屈指の名曲。そういえばAnthony B(右写真)が2001年にリリースしたアルバム「That’s Life」の中で、このEqual Rightsをカヴァーしていましたが、過激なラスタファリアンで有名なAnthony Bがこれを取り上げたのは至極納得が出来ますね。これも名カヴァーなので必聴です。

そしてオープニングを飾るGet Up, Stand Up。これはBob Marley & The Wailersの曲としてアルバム「Burnin’」のオープニングをボブ・マーリィのボーカルで飾っていましたが、ピーター・トッシュ版では「この曲を作ったのは俺だ!」という明確な意思表示をヒシヒシと感じます。「一体誰がボブ・マーリィにギターを教えたと思ってやがる!」という怒りが聴こえてきそうです。途中の歌詞が変えてあるのもトッシュの自己主張の表れでしょう。ちなみに同年1977年にリリースされたバニー・ウェイラー(下写真左)の2ndアルバム「Protest」にもこのGet Up, Stand Upが収録されています。
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We Want Truth!」という掛け声と、ホーンを加えてよりファンキーさを増したこのバニー・ウェイラー版も最高にカッコイイ(トッシュも参加)ので是非この3つを聴き比べてみるのも面白いでしょう。

そして映画「Rockers」のサントラに収録されていたStepping Razor。「俺は歩くカミソリ 俺は危険な男だ」と、まるでギャングスタ・ラップのように自分を誇示するトッシュのテーマ・ソングと言っても過言ではない曲だ。今では完全にトッシュの曲として認知されているが、この曲は実は若き日のThe Wailing Wailersに歌を教えた師匠ジョー・ヒッグス(左写真)の曲。今年になってジョー・ヒッグスレゲエ馬鹿道場(VERSION) 第八回。_f0045842_2543339.jpg名盤「Life Of Contradiction」が遂にCD化されましたが、私もこのアルバムを初めて聴いて分かったんですが、この曲というのはかなりジョー・ヒッグス特有のメロディを持った曲なんだという事が分かりましたね。自分を誇示する内容でありながらも「俺を正当に扱ってくれ」という歌詞が哀愁を感じますね。他にも「俺は俺以外の何者でもない」と歌うI Am That I Amでも「俺の能力を過小評価しないでくれ」という歌詞がとても切ない。

その他にも1977年の時点で人種差別政策を糾弾したApartheid、弾圧者に警告するDownpressor Manなどシリアスな内容の歌詞が、トッシュの低く伸びる声で歌われます。
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レゲエ界屈指の名曲ばかりが揃った超名盤。ルーツ・レゲエを聴くものなら避けては通れないアルバムです。ちなみにこのアルバムは日本盤として発売されているらしいのですが、レコード屋で売っているのは見たことがありません。もし廃盤になっているのなら、いち早く再発化されるべき作品ですよ。

この後トッシュローリング・ストーンズに認められ、彼らの主宰するレーベル「Rolling Stones Records」と契約し3枚目となる「Bush Doctor」をリリース、ボブ・マーリィと違った方向で世界的な人気を博していくわけですが、1987年9月11日の夜、自宅で何者かに射殺される。享年43歳。
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警察発表では「強盗」ということになっているが、ジャマイカではあまりにも過激な存在であるトッシュを警察が「暗殺」したという説が今でも有力だそうだ。1stアルバムに収録されているLegalize Itの中で「ラスタファリアンが神の贈り物として崇拝するマリファナを解禁せよ」という過激なメッセージを歌ったトッシュが過激なラスタの先導者として警察から敵視されていたのは容易に想像出来る。真相はどうにせよ、あまりにも惜しい死。もし彼が生きていたなら、今どんなレゲエを聴かせてくれていただろう。
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最後に一言。

数年前に日本で「タミフル」というインフルエンザに効く薬を飲んだ子供達が、言動がおかしくなってベランダから転落したりして死亡する事故が相次ぎましたが、この一連の事故を知った時に、Legalize Itの中でトッシュが「なぜインフルエンザにも効くのにマリファナを規制するんだ」と歌っていたのを思い出しました。症状からみても「タミフル」にマリファナの成分「THC」が入っていた事は間違いないんじゃないでしょうか?あまり言うと私も消されてしまいますのでこの辺で・・・。
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JAH RASTAFARI!!!

 
by Blacksmoker | 2008-09-11 01:39 | レゲエ馬鹿道場(VERSION)
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