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THE DIRTY DOZEN BRASS BAND [What’s Going On]



「ニュー・オーリンズはまだ復興なんてしちゃいないんだよ!」というf0045842_22462214.jpgメッセージが込められたジャケットが非常に印象的なザ・ダーティ・ダズン・ブラス・バンドの新作「What’s Going On」が発売されました。ダーティ・ダズンにとってはハリケーン・カトリーナの被害の後に初めてリリースするアルバムです。このアルバムは何とあのマーヴィン・ゲイの歴史的傑作「What’s Going On」を丸ごとカヴァーしたアルバムなんです。

実はマーヴィン・ゲイの「What's Going On」(下写真)が発売されて今年で35周年だそうです。あのアルバムはベトナム戦争の退廃ムードを反映した反戦アルバムとしても有名ですが、ダーティ・ダズンの連中にとってはカトリーナによる被害に対するアメリカ政府へのアンチを唱える意味合いが大きいだろう。インナースリーブの写真も倒壊した家の前で怒りとやるせなさの両方を持った何とも言えない表情で佇む人の写真が使われている。何とも感慨深い。
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そして中身は単なるカヴァー・アルバムの域を超えてもはやオリジナル・アルバムと言っても差し支えないほどの力作に仕上がっている。何たってあのアルバムのサウンドをブラスで表現するんだから、オリジナルとは全然違った仕上がりですよ。そして数曲にボーカルとしてゲスト・ミュージシャンを迎えている。
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まずは1曲目「What’s Going On」に登場するのは、チャックD!こういう趣向のアルバムのオープニングを飾るのは、この人が最も相応しいでしょう。しかももはや原曲のイメージとは全く違ったアレンジです。ダーティ・ダズンf0045842_22573621.jpg面々のタメまくった余裕のブロウから放たれるやくざな大人のオーラにシビレまくります。「チョイ悪」どころか「極悪」です。そんなサグな爺さん達をバックにチャックD先生が「常識が常識であった時はもうどっかへ行っちまった」(聴き取りなんで合ってるか自信ないですが…)とラップする。最後は「That’s going on」を連呼。チャックD先生による久々の熱すぎる一撃です。

最近かなり再評価の兆しを見せている女性f0045842_2324023.jpgソウル・シンガーのベティ・ラヴェットを迎えての「What’s Going On」のパート2ともいえる「What’s Happening Brother」も一聴するだけでは原曲だと分からないですね。御歳60歳を超えるベティ・ラヴェットのソウルフルな歌声が響き渡ります。「Flyin’ High(In The Friendly Sky)」や「Save The Children」も新しいコーラスなどを入れて大幅にアレンジが変わっててバリトン・サックスス-ザフォントランペットの音が暴れまくってます。

続く「God Is Love」ではネヴィル・ブラザーズf0045842_235755.jpgアーロン・ネヴィルの息子アイヴァン・ネヴィル(今はアイヴァンもネヴィル・ブラザーズの正式メンバー)を迎え、普遍的な神への愛を歌う。アイヴァンのハスキーでソウルの滲み出た声にブラスが絡んで盛り上がります。ここでも出てくる「Father」という言葉はマーヴィンの父親(神父でもある)に向けた言葉ですよねぇ。その父親にその後射殺される事になるなんて何とも皮肉だなぁ。

そしてお待ちかねの「Mercy Mercy Me(The Ecology)」ではG.ラヴが登場。ニューオーリンズ・スタイルとフィラデルフォニック・スタイルの融合です。たしかG.ラヴのドラマーf0045842_23943100.jpgジェフがニューオーリンズ出身だったかな。この曲ではダーティ・ダズンのオヤジ達のパワーに押されてかG.ラヴ少しおとなし目ですね。「Mercy Mercy Me」には副題で「The Ecology」とあるように、35年前にいち早く環境問題について歌ったプロテスト・ソングです。原曲ではドラムやヴォーカルにリヴァーヴのかかった憂いのある曲が、カラッカラの乾いた音のアレンジになってる対比が面白いです。

Right On」はやっと原曲の臭いが感じられてるかな?「Wholy Holy」も全く違ったセカンドラインの曲に生まれ変わり、まるでニューオーリンズの葬行曲です。余裕が感じられる素晴らしいアレンジに脱帽です。

ラストを飾る「Inner City Blues」は原曲でのあの都会の退廃的ムードを表現したような雰囲気はそのままf0045842_23133462.jpgGang Starrグールーをラッパーに迎えて、そして不穏な雰囲気はスーザフォンでベースラインを表現することで、原曲のイメージを崩すことなくダーティ・ダズンの曲にしてしまった名曲です。ブラスなのにパーカッシヴさを出していますね。ラストを飾るに相応しい重厚な曲です。DJプレミア先生はクリスティーナ・アギレラと仕事をするようになっても、グールーのハードコア度は変わってないですね。早くGang Starrも新作を出して欲しいところです。

このように歴史的傑作のカヴァー・アルバムでありながら、全くの新作といっても過言ではない素晴らしいアルバムです。そして、このアルバムの根底にあるのはマーヴィン・ゲイの言う「war is not the answer, for only love can conquer hate(戦争は答えじゃない、愛だけが憎しみに打ち勝つ)」に他ならない。エンターテインメントとしても成立し、同時に人々を啓発するアルバムとしても機能する希有な傑作。
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ちなみにこのアルバムの売上金の一部は「The Tipitina’s Foundation」に寄付されるとの事。

 
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by Blacksmoker | 2006-09-24 00:02 | NEW ORLEANS

V.A.[Our New Orleans]

これは1月にNonesuchからリリースされたハリケーン・f0045842_118511.jpgカトリーナ災害のベネフィット・アルバム 「アワ・ニュー・オーリンズ」。2005年8月アメリカ南西部を襲ったこのハリケーン被害はブッシュ政府の災害対策の遅れなど甘さが露呈した、「天災」というよりもむしろ「人災」として記憶される出来事でした。カニエ・ウェスト「ジョージ・ブッシュは黒人の事なんか気にしちゃいない」 とTVで発言し話題となったがあれはまさしく黒人の代弁だったに違いない。

そして、あれはもう既に過去の話かといえば全くそんな事はない。時々TVで復興しているような様子が取沙汰されるがあれは被害の少なかったごく一部の箇所が元に戻ったというだけの話で、今まだ避難所暮らしを余儀なくされている人達がほとんどという現状は3年間ニュー・オーリンズ在住の生活を送っていたアン・サリーのHPを見れば一目瞭然です。まだまだニュー・オーリンズ復興の道のりは長い。

さて、このアルバムは年末からいろいろリリースされた「カトリーナ災害」のベネフィット・アルバムの中でも一際輝きを放つアルバムです。Nonesuchが出しているというだけでも触手の動く人もいるくらいハズレなしの超良質のレーベルですし、しかもこのアルバムがレコーディングされたのはカトリーナ被害直後の9月後半から10月にかけて。かの地の生き証人ドクター・ジョン 、そしてニュー・オーリンズの重鎮アラン・トゥーサン による「Yes We Can Can」 (2月9日に行われたグラミー賞授賞式のラストでドクター・ジョン、ボニー・レイット、エルヴィス・コステロを従えこの曲を演奏していたのが印象的)、その他にも大御所ワイルド・マグノリアス、この地のセカンドラインを演奏するのはこの人達抜きには考えられないダーティ・ダズン・ブラス・バンド「聖者の行進」 を見事に歌い上げたエディ・ボーなどニュー・オーリンズ在住のアーティストの現在を伝えるアルバムなのです。

そして是非聴いてもらいたいのが、楽しいながらも悲しみを携えたこの意義あるアルバムのラストを飾るランディ・ニューマンによる「ルイジアナ 1927」 。ニュー・オーリンズ生まれの彼の1974年のアルバム「Good Old Days」 に収録されている曲ですが、これを再レコーディングしたのには訳があります。まずはこの曲の歌詞を見ていただきたい。

ここで起こったことといえば
風向きが変わったことと
北方から雲がまきあがり、雨が降ってきたことだ
激しい雨は、長く長く降り続いた
エヴァンジェリンの通りは
6フィートの水に覆われてしまった

川の水かさは一日中増すばかり
川の水かさは一晩中増すばかり

あるものは洪水のために行方不明となり
あるものは洪水から逃げおおせた
川はプラグマインの堤防を打ち壊し
エヴァンジェリンの通りは
6フィートの水に覆われてしまった

ルイジアナ ルイジアナ
あらゆるものが我々を押し流そうとしている
あらゆるものが我々を押し流そうとしている

クーリッジ大統領が列車に乗って視察に来た
書類を手にした太った小男をともなって
大統領は太った小男に言った
「おい、おデブさん。河はこの貧乏白人の土地に
何てひどいことをしたんだろうねぇ」

ルイジアナ ルイジアナ
あらゆるものが我々を押し流そうとしている
あらゆるものが我々を押し流そうとしている

ルイジアナ ルイジアナ
あらゆるものが我々を押し流そうとしている
あらゆるものが我々を押し流そうとしている

Randy Newman「Louisiana 1927」


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ニュー・オーリンズは1927年と1965年に洪水による災害に見舞われている。この歌の歌詞は1927年にルイジアナを襲った洪水被害を歌ったものです。この中に出てくるクーリッジは当時の合衆国大統領。「書類を手にした太った小男」は次期大統領のフーヴァー。クーリッジは「小さな政府」をスローガンに、救済には一切の資金援助や物質援助を行わなかった。そして9割を黒人が占めるこの地域で「貧乏白人」との発言はこの時代に黒人には人権などなく全く無視されていたのが分かります。黒人が白人より先に避難することは許されず、先に避難しようとした黒人は射殺されました。これを契機に世論の反発からフーヴァーの後任大統領ルーズベルトから弱者を助ける「大きな政府」が作られていくわけです。「あらゆるものが我々を押し流そうとしている」という歌詞は原文では”They're tryin' to wash us away”。Theyという言葉が何故複数形なのか?これは「洪水」と「当時の政府」を一まとめに総称した言葉なんじゃないかと思います。この曲は優しいメロディと痛烈に当時の政府を批判した歌詞が何ともミスマッチな名曲です。この曲を新たにルイジアナ・フィルハーモニック・オーケストラニューヨーク・フィルハーモニック・オーケストラを従えて再び歌わなければならなかったランディ・ニューマンの心情は推して知るべしでしょう。この曲からは彼の悲しみの声が聞こえるようです。今回のカトリーナ被害は「人災」なのだと。

このアルバムはベネフィット・アルバムと同時にブッシュ政府に対してのアンチテーゼです。
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by Blacksmoker | 2006-02-16 01:50 | NEW ORLEANS