カテゴリ:COUNTRY / BLUEGRASS( 20 )

KRIS KRISTOFFERSON [Closer To The Bone]


クリス・クリストファーソンという名前を聞くと、僕個人としてはミュージシャンというより映画俳優という印象が強い。
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古くは1973年サム・ペキンパー監督の映画「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」のまだ初々しいビリー役として、そしてここ最近の当たり役と言えばやはり、ウェズリー・スナイプス主演のSFアクション映画「ブレイド」でしょう[下写真]。ブレイドの相棒役として3シリーズ全てに出演している人気キャラだったので覚えている人も多いでしょう(だから「ブレイド3」であのあっけない死に方をさせた脚本は許せん!)。
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しかしクリス・クリストファーソンという人は、映画俳優以上に本国アメリカではカントリー・ミュージシャンとしてウィリー・ネルソンジョニー・キャッシュ、そしてボブ・ディランらと並び賞されている偉大な人なんです。ジャニス・ジョプリンの1971年の名作「Pearl」の中でも有名なMe And Bobby McGeeや、ジョニー・キャッシュのカヴァーしたSunday Morning Coming Downもこのクリス・クリストファーソンの曲なんですよね。

f0045842_143082.jpg今回紹介するのは、そのクリス・クリストファーソンの3年振りの新作「Closer To The Bone」(右写真)。「俺も死に近づいている」という意味でしょうか。意味有りげなタイトルです。ジャケットに写る白髪で皺の刻まれた顔の御大も現在73歳。71歳で逝去した盟友ジョニー・キャッシュを思うとこのタイトルにも納得がいくというものです。

さて中のブックレットを見て驚いたのですが、「このアルバムをソウル・ブラザーのスティーヴン・ブルトンの魂に捧げる」という一節とその彼の写真が載っていました。テキサス出身のシンガー・ソングライターのこのスティーヴン・ブルトン(下写真)。私は2006年にThe Resentmentsのメンバーとして来日した時に彼を観てるんですが、どうやら2009年に50歳という若さで癌で亡くなっていたようです。
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The Resentmentsのライヴに感動しただけに(その時のレポートはコチラ)、彼の死をこういう形で知ったのはショックでしたね。今年のアカデミー賞でジェフ・ブリッジスが主演男優賞を獲った映画「Crazy Heart」なんて、このスティーヴン・ブルトンをモデルにしているみたいだし何とも残念な話だ(サントラ盤も彼が担当している)。そういう事実を知ると、この「Closer To The Bone」というタイトルは更に重く響きます。
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内容はほぼクリス・クリストファーソンによる弾き語り(クレジットを見るとドン・ウォズがベースを担当し、ジム・ケルトナーがドラム、スティーヴン・ブルトンがギターと意外と豪華な面子が揃っているんですが、クリス・クリストファーソンの声とギター以外はほとんど印象に残りませんね)。全てがオリジナル曲だ。これくらいの歳になるとカヴァー曲やスタンダード曲ばかりが目立つようになるミュージシャンの中で、全てオリジナル曲が占めるアルバムをリリースするなんて、この人の才能はまだまだ枯渇していないようです。

クリス・クリストファーソンの激渋の深い声、一発録りのようなアコースティック・ギターの生々しい響きなどムダを削ぎ落としたシンプル極まりないサウンドは、ジョニー・キャッシュの晩年の作品「American」シリーズを思わせる。確かに晩年のジョニー・キャッシュの声と、今のクリス・クリストファーソンの声はどこか共通するものを持っていますね。
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ただ、かと言ってクリス・クリストファーソンがもうすぐ死ぬんじゃないかと言う話ではない。僕が言いたいのは、この歳になってもまだまだこんな素晴らしい音楽を創る彼の凄さなんです。人生訓を含んだ含蓄のある歌詞、さらにヴォーカルの圧倒的な説得力など聴いていて心に迫ってくるものがありますね。実に渋く、そして実に深い魂の一枚です。

そういや今作にはSister Sineadという曲が収録されています。歌詞を読むと、これはシネイド・オコナーがローマ法王の写真を破いた事件の事を歌っています。1992年のボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートのTV中継の時、シネイド・オコナーがその事件のせいで大ブーイングを受け歌えなくなった時に、唯一彼女を介抱していた優しい男がこのクリス・クリストファーソンだったのを思い出しました。
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この曲を聴いてシネイド・オコナーは涙を流しているに違いない。

  
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by Blacksmoker | 2010-05-22 00:01 | COUNTRY / BLUEGRASS

BILL FRISELL [Disfarmer]


Unsung」という言葉をご存知だろうか?

生きている時には全く日の目を見ることはなかったが、亡くなって後に評価されるようになった人のこと。例えばヴィンセント・ヴァン・ゴッホであったり、日本でなら山下清であったりする人ですね。個人的には、架空の少女「ヴィヴィアン・ガールズ」を人知れず描き続けたヘンリー・ダーガー(昨年、彼の生涯を追った映画「非現実の王国で」もありました)が思い浮かべられますね。

そんな「Unsung」の1人、マイク・ディスファーマー(1884-1959)。
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アーカンソー州の山間部にあるハーバー・スプリングスという小さな街で1917年から写真館を40年間営み、街の人々の写真(ポートレイト)を撮り続けた男で、その後独りでその写真館の中で死んでいるのを発見されている。1974年にこの写真館を買い取った夫婦によって、ディスファーマーの撮った写真が大量に発見され、これが近年になってもの凄い評価を受けるようになったのです。
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マイク・ディスファーマーという人はとても変わった偏屈な人物だったようで、どんな時でも黒いスーツと、黒い帽子に、コートを着て、毎夜街を徘徊し、子供達を脅かしたりしていたそうです。そして誰とも口を利かず、住人からは恐れられていたようですね。実は彼の本名はMike Meyersという名前でしたが、Meyersがドイツ語で「農夫」=Farmerという事を嫌がって、「非農夫」=Disfarmerに変名したというエピソードもあります。
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彼は写真を撮る方法も一風変わっており、天井からの自然光を使い撮影していたそうで、納得のいく写真が撮れるまで一時間以上もカメラの前に立たせたりしたこともあったと言われている。その独特な手法によって、彼の写真は一際異彩を放つものになっているのです。ただ、ディスファーマーはこれらの写真を別段外に向けて発表しようとしたわけでなく、ただ黙々と自分の為に撮り続けていたというのが興味深い。
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さて、そんなマイク・ディスファーマーの残された写真にインスパイアされ音楽を付けたのが、今回の主人公であるビル・フリーゼル(下写真)。
Blacksmokerの最も好きなギタリストです。
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このアルバム「Disfarmer」(右写真)は、ビル・フリーゼルを中心とし、彼を含めた4人のミュージシャンが、ディスファーマーの写真の中に写った人物達の背景や感情を音楽によって表現するというとても興味深い作f0045842_1542765.jpg品だ。Cuong Vuのアルバムや、さらにはEarthのアルバムなどにも参加したりとアヴァンギャルドな方向にも足を突っ込みつつも、最近はアメリカン・ルーツ・ミュージックへの傾倒をあらわにしているビル・フリーゼル(その動きはライ・クーダーとも共振しているようにも思えます)。そしてこのアルバムは、そのビル・フリーゼルのアメリカン・ルーツ・ミュージックへの傾倒の最もたる作品になるであろう素晴らしい作品です。もちろんNonesuchからのリリース。

注目すべきはビル・フリーゼル以外の3人のミュージシャン。これがルーツ・ミュージック好き(ちょっと上級編)なら唸るほどの実力派揃いのメンバー。

まずはグレッグ・リース
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もうビルの作品ではお馴染みのスティール・ギター・プレイヤー。最近ではジョー・ヘンリーのアルバムでも素晴らしい働きを見せていたし、Eaglesの再結成アルバムにも参加していたりしてましたね。個人的にはクレジットにこの男の名前を見るだけでも安心してしまうほど信頼感があります(ちなみにビル・フリーゼルの組んだ弦楽器5本によるバンドThe Intercontinentalsのアルバムの中に入っているListenという曲でのグレッグ・リーズの弾くスティール・ギターがホントに素晴らしいので是非聴いてみて欲しいです)。

そしてもう一人は、ヴァイオリン奏者のジェニー・シェインマン
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この女性は要注目です。ジョン・ゾーンらとも交流を持つNYアヴァンギャルド・ジャズ・シーf0045842_27641.jpgン出身の人でありながら、ノラ・ジョーンズらとも親交を持つ実力派。既に自身のソロ・インストゥルメンタル・アルバムも何枚もリリースしており、昨年は何とヴォーカル・アルバム「Jenny Scheinman」(右写真)までリリースするという凄い女性なのです(しかも歌も上手い)。そのヴォーカル・アルバム「Jenny Scheinman」はかなり素晴らしい出来なので絶対にチェックして欲しい作品です。

そして最後の一人は、ベースのヴィクター・クラウス
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知る人ぞ知る名ベース・プレf0045842_2141276.jpgイヤーであり、シンガーソングライター。さらには、あのアリソン・クラウスの弟という凄い血統なのです。そしてジェニー・シェインマンに続いて、この人も歌えるんです。2004年にNonesuchからリリースされた彼のソロ・アルバム「Far From Enough」(右写真)は個人的に、アメリカーナを代表するシンガーソングライターの大傑作だと思いますね。これも是非チェックして欲しいです。

さて、そんな3人の実力派のミュージシャンを従えてビル・フリーゼルは雄大に、時には繊細にディスファーマーの写真から感じ取られる印象を音にしていきます。ビル以外の3人のミュージシャンも、個々がかなりの実力派でありながら、ここではあくまで主人公であるビル・フリーゼルのギターの音色を最大限に活かし見事にサポートしています。その音の映像喚起力はとてつもなく冴えています。
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ビル・フリーゼルDisfarmer Themeという1つのテーマ曲を作り上げ、その曲を色々とアレンジして、違った曲に変えている曲が多く、耳慣れたフレーズが何度も出てきてとても心地良いです。これらの曲を作るためにビルはノース・キャロライナからサウス・キャロライナ、さらにはジョージアからミシシッピを車で廻り、ディスファーマーの生きたアーカンソーのハーバー・スプリングスまで赴いたそうです。そうする事により、その空気感までもこの楽曲の中に映し出す事に成功しているように思えます。
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このアルバムにはビルの自作の曲以外にも、アーサー・クルーダップ作のエルヴィス・プレスリーがカヴァーした事でも有名なThat’s Alright, Mama、さらにはハンク・ウィリアムスLovesick BluesI Can’t Help It(If I’m Still In Love With You)のカヴァーを挟み、どちらかと言うと、とりとめもなくゆっくりと流れるアルバムの音楽にメリハリを付けていますね。

さらに終盤に出てくるArkansas Part.1からPart.3の連続する3曲は、1949年から1963年にアーカンソー州の州歌だったArkansas Travelerを基にビルが自ら作った素敵な曲です。
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どの曲もディスファーマーの写真のようにコンパクトでありながらも情景の浮かんでくる非常に映像的なサウンド。時間を忘れてしまう程の気持良さがあります。写真に写った人の表情の奥にあるものに想像しながら聴くのが、このアルバムの最も正しい聴き方なのでしょう。
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さらには、ディスファーマーがどんな事を考え、どんな思いを込めてこれらの写真を撮ったかということにも思いを巡らせて聴くのも面白いでしょう。私もディスファーマーの写真集が欲しくなってきましたね。
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是非ともディスファーマーの写真と共に聴いて頂きたい素敵な作品です。

   
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by Blacksmoker | 2009-11-08 01:08 | COUNTRY / BLUEGRASS

RY COODER [I, Flathead]


f0045842_0412624.jpg前作「My Name Is Buddy」の中の1曲Three Chords And The Truthという曲の中に、とあるバーで演奏する架空のバンドが登場する。そのバンドの名はキャッシュ・バック&ザ・クラウンズ

ライ・クーダーの新作「I, Flathead」はサブ・タイトルに「Songs Of Kash Buk & The Klowns」とあるように、そのキャッシュ・バック&ザ・クラウンズが主人公の物語。そしてこれはライ・クーダー初の長編小説のサウンドトラック盤でもあります(日本盤は残念ながらCD盤のみですが、輸入盤にはその100ページにも及ぶ小説が付いた限定盤も出ています)。

しかし最近のライ・クーダーの作品というのは本当に毎回面白いものばかりだ(特にNonesuchからの作品が個人的には好きです。メイヴィス・ステイプルズの素晴らしい作品「We’ll Never Turn Back」も忘れてはいけない!)。そして今作も非常に面白く素晴らしいアルバムです。
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前作「My Name Is Buddy」は30年代~50年代のカリフォルニアを舞台に一匹の猫と一匹のカエルが旅をする物語で、擬人化された彼らの左翼的な目線で、今は失われてしまったもの(労働組合や公民権運動などなど)を回顧する内容だったし、前々作「Chavez Ravine」はこれまた今は存在しないカリフォルニアのチカーノ・コミュニティを音楽的に描いた内容だった。いずれも共通してしるのは今は亡き失われた「カリフォルニア」というものを作品の中で甦らせている事だ。今作はライ・クーダー曰く、その前々作と前作に続く「カリフォルニア3部作の最終章」という位置付けの作品だそうだ。
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今回の新作「I, Flathead」の舞台となるのは50年代のカリフォルニア。カントリー/ホンキー・トンクが全盛の時代。つまりライ・クーダー自身が育った時代のカリフォルニアだ。そして主人公であるキャッシュ・バックはホットロッド・レーサーでもあるという設定。ホンキー・トンクやホットロッド・レーシングなど今はもうカリフォルニアにはほとんど存在しないものばかりだ。カリフォルニアに育ったライ・クーダーの郷愁が描かれている。

演奏はもうライ・クーダーのアルバムには欠かせないドラマーのジム・ケルトナー、そしてライの息子のホアキン・クーダー、そしてレネ・カマロなどお馴染みの面子。キャッシュ・バック&ザ・クラウンズ自体が3人組という設定なので各曲の演奏メンバーも最小限の人数によるシンプルな演奏に抑えられている。そこにホーンやアコーディオンが華を添え、当時の時代を再現しています。

歌詞は小説の内容に沿って書かれているため、小説を読めばより楽しめるだろうが、それなしでも十分に楽しめる。

ライ・クーダーの曲の歌詞には色々と実名(時には変名)で、偉大なミュージシャン達が良くでてきます。しかもそれがまた全然知らない名前だったりして、なかなか勉強させられる事が多い。今f0045842_0471549.jpg回もSteel Guitar Heavenという曲では、カントリーの偉人達の名が連なるが、全く聴いたことない名前ばかり・・・(ホアキン・マーフィージミー・デイスピーディ・ウェストポール・ビクスピーなど)。正直私はスペード・クーリー(左写真)くらいしか分かりませんでした。まだまだ知らない事が多いです。色々と聴いてみたくなりましたね。

そして前作「My Name Is Buddy」では、そのものズバリのHank Williamsという曲がありましたが、今回のアルバムにもその名もズバリJohnny Cashという曲があります。アップなホンキー・トンクに乗ってジョニー・キャッシュ(右写真)のf0045842_0481490.jpg曲や歌詞の一節を盛り込んでジョニー・キャッシュが活躍した時代に子供時代を過ごした自分を振り返ります。コーラスはジョニー・キャッシュのデビュー曲Hey Porterの一節を引用。この他にも映画「Walk The Line」でも取り上げられていたFolsom Prison Bluesの中の「俺はリノで男を撃った」という一節も登場します。ラジオにしがみついて聴いていたという歌詞からみて、これはキャッシュ・バックという男の視線を借りたライ・クーダー自身の回顧録ですね。
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個人的に大好きなのが5000 Country Music Songs。結婚して田舎のトレーラーハウスの中で生活しながらスターになる事を夢見てナッシュビルに曲を送り続けるキャッシュ・バック。それでもうだつのあがらないキャッシュ・バックが「俺に残ったのは5000曲のカントリー・ミュージックだけだ」と歌います。途中で奥さんが出てきて「あなたの歌が聴きたい」というくだりがありますが、最後まで曲を聴くとその奥さんはもうキャッシュ・バックの元にはいない事が分かります。亡くなったのか捨てられたのか分からないですが、とても物悲しくも素敵な1曲です。
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人種を超えたフィリピン人の娘との恋によって周囲の人たちから白い目で見られるFilipino Dancehall Girl、ホットロッド・カーの修理代が払えなくなって、金を稼ぐためにレコーディングするというFernando Sezなど、もはやキャッシュ・バックという架空の人物ではなくライ・クーダー本人の体験談も入っているような気もしますね。

そしてアルバムの最後を飾るLittle Trona Girlでヴォーカルをとf0045842_059396.jpgJuliette Commagere(左写真)の可愛くも切ない歌声。失われたカリフォルニアを題材にしたこの3部作を締めくくるに相応しいですね。ちなみに彼女は、ライの息子ホアキン・クーダーがドラムを務めるバンドHello Strangerのボーカリスト。彼女は前々作「Chavez Ravine」の中の曲El UFO Cayóにも参加していましたね。その他にも、このHello Strangerというバンドは、ライ・クーダーが手掛けた映画「My Blueberry Nights」のサントラ盤にも収録されていてこれもとても良い曲なので気になった人はチェックしてみて下さい。

ここ数年はまるで自分の人生を振り返るような活動をしているライ・クーダー。個人的には彼が人生を振り返れば振り返るほど、私自身まだまだ知らないアーティストを知ることが出来る。
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ライにはもっともっと素晴らしいアーティストを教えてもらいたいものです。
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by Blacksmoker | 2008-08-27 00:13 | COUNTRY / BLUEGRASS

PUNCH BROTHERS [Punch]


大袈裟ではなくコレは21世紀のブルーグラス最大の衝撃作です。

f0045842_1182240.jpg1940年代中頃にBill Monroe & His Blue Grass Boysがブルーグラスを演奏し始めてから既に60年。その間にブルーグラスという音楽は大々的に注目を浴びる事はなかったが、静かに人々に愛され続けてきた(2002年に「オー・ブラザー!」のサウンドトラックがグラミー賞の最優秀作品賞を受賞し一時的に注目を浴びた事はありましたが)。

もちろんその60年という長い長い歴史の中で、ブルーグラスに大きな変革をもたらすアーティストが現れている。例えばサム・ブッシュであり、ジョン・ハートフォードであり、デイヴィッド・グリスマンであり、彼らの存在がブルーグラスを様々なジャンルへと融合させ進化させていった。

そして2008年、21世紀のブルーグラスを更に新たな領域まで進化させる衝撃の作品が登場しました。それがこのパンチ・ブラザーズのデビュー・アルバムとなる「Punch」。この若いブルーグラス・ミュージシャン達が、ブルーグラスの歴史に大きな変革をもたらす事になるでしょう。

このパンチ・ブラザーズ・・・変な名前ですが、その名前はマーク・トウェインの短編小説から取られている。そしてこのバンドはある1人の男を中心とするプロジェクトなのです。

               その男の名はクリス・シーリ
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絶大な人気を誇りながらも2006年に解散したNickel Creekの若き天才マンドリン奏者クリス・シーリ(26歳!)が「自分の作りたい音を実現する」ために、それを実現できるミュージシャンを集めて結成したいわゆるスーパー・プロジェクトとも言える。
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クリス・シーリを含む5人編成(マンドリン、ギター、ベース、バンジョー、フィドル)で、そのメンバーにはJerry Douglas Bandにも在籍するフィドル奏者ゲイヴ・ウィッチャーや、昨年デビューした新鋭ブルーグラス・バンドInfamous Stringdustersのギタリストのクリス・エルドリッチも名を連ねている。まるで70年代のブルーグラス界を震撼させたスーパー・プロジェクトMuleskinnerの登場を彷彿させますね。

このメンバーは2006年に発表されたクリス・シーリの5枚目のソロ・アルバム「How To Grow A Woman From The Ground」(左写真)に参f0045842_1261446.jpg加していたメンバーで、クリスの脳内音楽を具現化出来る天才集団と言えます。僅か12歳でソロ・アルバムをリリースし、既に教則ビデオも出しているこの早熟な天才児ですから、その彼についていくだけでも相当な技術を持っていると言えます。ポップな方向へシフトしようとしたNickel Creekとは全く別次元のサウンドで、やはりNickel Creekの解散は致し方ない事だったのだろう。

そしてその達人たちを得たクリスは、とんでもない楽曲を完成させます。これはThe Blind Leaving the Blindと題された4つの楽章で構成された40分にも及ぶ壮大な組曲。これは何と言ったら良いだろうか、ブルーグラスの枠を超えた、クラシックというか・・・ジャズというか・・・何と言うか符合する言葉が出てこないんですが、とにかく既存のブルーグラスを超越した1つの『良質な音楽』として機能している。
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ブルーグラス・ファンなら耳が釘付けになる超絶な演奏を楽しむことも出来るだろうし、それ以外の音楽リスナーでも「新たなジャンル」としても十分に楽しめる。そして音楽をあまり聴かない人でのBGMとして心地良い穏やかさを与えてくれる不思議なサウンドだ。

しかし、もうコレはまさしく「プログレ」だ。ブルーグラス版のプログレ。起伏に富んだ曲展開、細部の僅かな弦の響きまでも計算されつくした演奏、そしてクリス・シーリによる若さの残る歌もしっかり入っているし、ブルーグラスの醍醐味である楽器同士のアンサンブルなどもう絶品の一言だ。アルバム全編がスタジオ・ライブ形式で録音されていて、その臨場感と緊迫感がダイレクトに伝わります。
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正直、一聴して理解出来るものではないかもしれない。コレは何度も聴くうちにその凄さが理解出来てくると思います。天才のやることは凡人にはすぐ理解出来るものではありません。

そしてThe Blind Leaving the Blind以外にも他に4曲が収録されていて、こちらは幾分かリラックスした雰囲気を持っていてコチラもとても楽しめます。
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とにかく全てのカントリー/ブルーグラス・ファンだけでなく、全ての音楽ファンに聴いてもらいたい一大傑作と言えるでしょう。スルー厳禁!

ちなみにこのアルバムのリリース元は何とあのNonesuchからのリリースというのにも注目です。ワールド・ミュージックのレーベルでユッスー・ンドゥールカエターノ・ヴェローゾWilcoデイヴィッド・バーンといった一癖も二癖もあるアーティストを抱える信頼の置ける重要レーベルで、このレーベルからリリースされるものは全て素晴らしいと言っても過言ではない。
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そしてこのパンチ・ブラザーズNonesuchからのリリースというのも非常に納得出来る話ですね。
 
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by Blacksmoker | 2008-04-05 00:58 | COUNTRY / BLUEGRASS

CAROLINA CHOCOLATE DROPS [Heritage]


ノース・キャロライナのピードモント出身のアフリカン・アメリカンの男女3人によるストリング/ジャグ・バンド、Carolina Chocolate Drops。なかなかライブが面白そうなバンドだが、まだまだ日本では体験出来そうにないようだ。彼らのライブ・スケジュールは既に2009年までいっぱいだ。
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Yonder Mountain String BandAsylum Street Spankersなどこの手のバンドはライブが最高に上手い。このCarolina Chocolate Dropsも音を聴く限りでは生粋のライブ・バンドである事が分かります。

f0045842_1213514.jpgそのCarolina Chocolate Dropsの3rdアルバムとなる「Heritage」。「遺産」と名付けられたこのアルバムで、彼らは過去のアメリカの偉大なルーツ・ミュージックの源流まで遡る。そこにあるのはThe Carter Familyであり、Charlie Pooleであり、Jimmie Rodgersといったカントリー以前の偉人達の音楽。そして更にはその偉人達の源流が黒人によるものだと言っているようにも思えます。

5弦バンジョーやフィドルを操り男前な声で歌う女性リアノン・ギデンスを中心に据え、フィドルとボーカル担当のジャスティン・ロビンソン、そしてパーカッション担当のドン・フレモンズという男2人が両端を固める編成で、この3人が見事な演奏のアンサンブルを見せてくれます。ボーカルも三者三様。時折見せる3人のボーカル・ハーモニーも素敵です。
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彼らが旅で出会った曲、古いレコードから教わった曲などを中心に20年代~30年代のブルースやスピリチュアル(ゴスペル)の曲を取り上げています。その曲達が時を越えて現代で演奏される事により、新たな生命を持った曲として新鮮に響きます。
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何よりも感情を大きく刺激してくれる楽曲が良い。特にブルーグラス的なアップテンポな曲では自然と体が動く楽しさが満載。哀愁のある曲ではフィドルやバンジョーの響きが心に染み入ります。そして目線は徹底して庶民レベル。小難しい事を抜きに嫌な事を忘れて、ひと時を楽しめる素敵な音楽です。このアルバムのサウンドがスピーカーから流れ出ると時間の流れが穏やかになるように感じます。
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終盤のBanjo Dreams/Jalidongではリアノンの姉によるポエットリー・リーディングと共に爪弾かれる2本のバンジョーの弦の優しい響きが印象深い。

その中の一節はこうだ。

In my dream
Street corners are filled with groups of little Black boys and girls
Throwing down their basketballs and bookbags
To make up string band quartets
paying homage
To those earliest of doo wop pioneers


とても素敵な詩ですね。彼らが夕陽の沈むミシシッピの自宅の庭で演奏している姿が目に浮かびます。
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遥か昔に忘れ去られた昔の曲が、若いアフリカン・アメリカンによって新たに息を吹き返して現代に蘇ります。こうやって、これらの歌は時を越えてまた未来へ歌い継がれていくのですね。
 
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by Blacksmoker | 2008-03-21 00:58 | COUNTRY / BLUEGRASS

MARY GAUTHIER [Between Daylight And Dark]


f0045842_1154883.jpg前回紹介したジョー・ヘンリーの素晴らしい新作「Civilians」と同日に発売されたこのアルバム。このアルバムもそのジョー・ヘンリーによるプロデュース作品。ルイジアナ出身の女性シンガー・ソングライター、メアリー・ゴウシェの新作「Between Daylight And Dark」。現代オルタナティヴ・カントリーの名門レーベル「Lost Highway」からリリースとなるこの作品ですが、いやぁこれも素晴らしいです!

モノクロームな写真に物憂げに写るこのメアリー・ゴウシェ。あまり日本では知られてない人ですが、実はあのボブ・ディランも認める才能で、アメリカのカントリー界でも一目置かれる存在です。

さてこのメアリー・ゴウシェですが、実は曲作りを始めたのが35歳からという超遅咲き。しかもその前はアルコール中毒などにもなっていたそうで、かなりの破天荒な生活を送っていたようです。しかしこういうメチャクチャな人生を送ってきた人間が更正した時に生み出される音楽というのは実に説得力があります。人生のどん底から這い上がって来た者のみが表現出来る非常に業の深い音。ハスキーだが穏やかな声がじんわりと心に響きます。
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音楽的には、一言で言ってしまうと「カントリー」という事になるのだろうが、全くそういう次元を超越した、純粋に素晴らしい音楽を聴かせてくれます。「カントリーの枠を超えた」という点においてはまさにそのサウンドはエミルー・ハリスに近いかもしれませんが、エミルーのような色気のある女性的な声ではなく、メアリーのそのしゃがれた声にはルシンダ・ウィリアムスと同種の「やさぐれさ」を感じます。実に穏やかなんですが、実に説得力のある声。まあ普通の生活を送っている人間には絶対出せない声ですね。
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そしてこのメアリー・ゴウシェのバックを務める演奏陣の素晴らしいこと。基本的にジョー・ヘンリー「Civilians」でバックを務めていた演奏陣とほぼ同じ(ビル・フリーゼルだけはいませんが)。ヴァン・ダイク・パークスも1曲参加していますし、ラウドン・ウェインライトもコーラスで参加という、ゲストに至るまでほぼ「Civilians」と同じ布陣なので、おそらく「Civilians」と同時進行的に録音されたのでしょう。グレッグ・リースの弾くスティール・ギターも表情豊かに深くて美しいし、パトリック・ウォーレンの格調高いピアノやハモンド・オルガンの懐かしい音も実に雄大です。特に素晴らしいのはこのパトリック・ウォーレンで、ヴァン・ダイク・パークス以上に格調高いピアノでこのメアリー・ゴウシェのサウンドを更に情感豊かなものにしていますね。

とにかく「ジョー・ヘンリー・サウンド」と呼んでもいい、弦の鳴りを強調したサウンドとメアリー・ゴウシェの歌声がかなり高次元で混ざりf0045842_125392.jpg合って、泣きそうなぐらい素晴らしいサウンドを聴かせてくれます。ジョー・ヘンリー「Civilians」の感動的な出来にも参りましたが、このメアリー・ゴウシェのアルバムも全くそれに退けを取らない傑作です。特にトーキング・スタイルで歌われるカントリーLast Of Hobo Kingsの素晴らしさは是非聴いてもらいたい。

正直、この作品は大々的に宣伝される事もないだろうし、話題に上ることもないだろう。だからあまり聴かれる事なく終わってしまうかもしれない。しかし、これはアメリカ音楽の懐の深さを改めて実感させてくれる作品であり、真摯なブルーズ・アルバムとも言えるでしょう。
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人々に聴かれる事なく終わったとしても、私の中には確実に深く刻み込まれる作品になる事でしょう。
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by Blacksmoker | 2007-11-03 00:55 | COUNTRY / BLUEGRASS

JOE HENRY [Civilians]


最近至るところでその名前を見かけていて気になっていた男、ジョー・ヘンリー
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ソロモン・バーク「Don't Give Up On Me」や、アニー・ディフランコ「Knuckle Down」などの光る作品をプロデュースしていて、その名前だけはとても印象に残っていました。そしてプロデュースだけでなく、自身もシンガー・ソングライターとして実は1989年にデビューしていて、今までに9枚ものソロ・アルバムをリリースしているようで、2003年にリリースした前作はAntiからのリリースという事で気になっていましたが、なかなかチェック出来てませんでした。今年に入ってジャム・バンド勢、カントリー勢が大挙して参加したザ・バンドのトリビュート・アルバム「Endless Highway」にも参加していましたが、惜しい事にジョー・ヘンリーの曲は日本盤のみのボーナス・ディスクにだけしか収録されてなかったので、輸入盤を先に買っていたため、ここでもジョー・ヘンリーの音に出会う事が出来なかったのです。

f0045842_164699.jpgそして遂に聴く事が出来たジョー・ヘンリーの最新作「Civilians」。彼にとって10枚目となるソロ・アルバムです。もうジャケットからして名盤の匂いが漂っていましたが、内容の方も間違いなく名盤でした。オールドタイムなアメリカン・ルーツ・ミュージックの最も素晴らしく、そして郷愁的な部分を上手く取り出した芳醇なそのサウンドは絶品という他ありません。バーボンやウィスキーを傾けながらゆっくりと味わって聴きたい音ですね。アコースティック・ギターとピアノの優しい音色がどんな状態の心も穏やかにしてくれます。ゆったりと静かにたゆたうこのヴィンテージ感のあるサウンドはやはり10枚ものソロ・アルバムをリリースしているジョー・ヘンリーのキャリアのなせる技でしょう。そしてジョー・ヘンリーの声は、予想以上に若々しくエルヴィス・コステロのような声でもありますね。
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アルバムの全編に渡ってアコースティック・ギター、そしてスライド・ギターの絡み合うサウンドにほんとにウットリさせられるのですが、今回その素晴らしいギターを聴かせるのはビル・フリーゼルグレッグ・リース。この2人の名前を見てピンと来る人は間違いなくこのアルバムは買ったほうが良いですね。しかしこの2人が感動的なギターの音色を聴かせてくれます。

まずはビル・フリーゼル
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最近のビル・フリーゼルはジャズの枠に囚われることなくアメリカン・ルーツ・ミュージックに傾倒していますが、ここでも静かなタッチだが実に情感のある表情豊かなギターを披露しています。もの凄い控えめなんですが、確実に印象に残る音です。ビル・フリーゼルが2002年に組んでいた弦楽器奏者5人からなる無国籍バンド、THE INTERCONTINENTALSのあの幽玄なサウンドを思い起こさせましたね。

そしてグレッグ・リース
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ジョニ・ミッチェルなど数々の有名ミュージシャンと共演し、前述のビル・フリーゼルTHE INTERCONTINENTALSのメンバーでもあるスティール・ギター奏者グレッグ・リースの弾くギターも情感たっぷりで実に素晴らしいです。このビル・フリーゼルグレッグ・リースの2人のギターの絡みがこの作品を特別なものにしていると言って良いでしょう。

その他のゲストも良い仕事をしています。中でもヴァン・ダイク・パークスが参加した2曲Civil WarI Will Write My Bookは白眉。クラシック側からアメリカン・ルーツ・ミュージックへとアプローチを図ったヴァン・ダイク・パークスの美しく格調のあるピアノの調べはもうそれだけで十分な素晴らしさなんですが、ビル・フリーゼルグレッグ・リースの2人の最小限の音で、最高の表現力を持つギターの音色が加わり更に素晴らしいものになっています。ついつい聴き入ってしまいます。

その他の曲もジャズやカントリーなf0045842_130282.jpgどのオールドタイムなアメリカン・ルーツ・ミュージックを現代に新たに蘇らせたような素晴らしい名曲ばかりです。ラウドン・ウェインライト3世(あのルーファス・ウェインライトの父親)なんてレジェンドもバッキング・コーラスでさらっと参加しているのにも注目です。ちなみにラウドンYou Can’t Fail Me Nowジョー・ヘンリーと共作も行っています。

アルバムは全曲ジョー・ヘンリーによる曲。この男、とてつもない才能の持ち主ですね。このアルバムや彼のプロデュースした諸作品を聴くと弦楽器の響きを非常に大切にしてるサウンドだと分かります。実に素朴で穏やかだが、じんわりと心の奥底まで届く深く雄大なアルバム。是非ともアメリカン・ルーツ・ミュージックを愛する人は手にとってみて頂きたい素晴らしき名盤です。
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いやぁ、こんな素晴らしい人だとは思いませんでした。他の作品も聴いてみよう。
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by Blacksmoker | 2007-10-30 00:24 | COUNTRY / BLUEGRASS

RY COODER [My Name Is Buddy]


90年代に入ってからのライ・クーダーの活動には素晴らしいものがありますね。
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世界的大ブームとなったブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブはもちろん、その他にも映画のスコアや、アリ・ファルカ・トゥーレマニュエル・ガルバンとのアルバム、そしてニック・ロウジョン・ハイアットジム・ケルトナーと結成したバンドLittle Villageでも地味ながらも素晴らしい作品を残しています。そう言えばベン・ハーパーもデビュー時は「黒いライ・クーダー」と言われていましたね。

f0045842_23562457.jpg2005 年の前作「チャベス・ラヴィーン」は、1940年代後半に実在したメキシコの街Chávez Ravineを題材にした物語をチカーノ音楽と共に綴った素敵な作品でしたが、前作から2年。早くもライ・クーダーの新作「My Name Is Buddy」が登場です。前作のコンセプトも面白かったですが、今回のアルバムもかなり面白くて気合いが入った傑作です。そしてもちろん今作もNonesuchからのリリース。Nonesuchからのリリース作品に全くハズレはないですね。前作のタイトルには[a record by Ry Cooder]というサブ・タイトルが付いていましたが、今回のアルバムには[Another record by Ry Cooder]というサブ・タイトルが付いていて前作との類似性を感じさせます。

さてこの新作ですが、アメリカン・ルーツ・ミュージックが好きな人には超オススメの1枚です。今回のコンセプトは「過ぎし時代のアメリカ」。時代設定は明確ではありませんが、1930年代~50年代のアメリカが舞台の物語です。本の装丁になっていて曲に付随する物語やイラストなどが描かれているので、本を読みながら楽しめる作品になっています。この時代の音楽、つまりゴスペルやカントリーやフォーク、そしてテックス・メックスなどのどこかで耳にした事のあるようなの伝承歌を下敷きにした曲が並んでいます。作風としてはアメリカン・ルーツ・ミュージックの歴史を俯瞰したボブ・ディランの昨年のアルバム「Modern Times」や、プロテスト・ソングや労働歌を歌ったフォーク・シンガーのピート・シーガーが取り上げた曲を見事現代に蘇らせたブルース・スプリングスティーンの力作「We Shall Overcome : The Seeger Sessions」に近いですね。
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さてこの物語の主人公はタイトルとジャケットの通りバディという名の一匹の猫。そんバディ君を擬人化し、彼がスーツケースを片手に、その中で寝泊りしながらこの時代のアメリカを旅する物語が綴られています。そこで出会う人や当時の労働者組合の様子、KKKの話など当時の状況が描かれているのが面白い。もう一人バディと旅を共にするのがネズミのレフティバディよりも頭が良いこのレフティバディの良き相棒となっています。そしてもう一人途中で登場するのが盲目のカエル、トム・トード牧師。「トム・トード」という名前で分かる人も多いでしょう。あのジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」の主人公であるトム・ジョードのパロディですね。ブルース・スプリングスティーンの曲にもトム・ジョードの事に触れたThe Ghost Of Tom Joadという曲があります(この曲はレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンもカヴァーしてましたね)。ちなみにボブ・ディランの師事したウディ・ガスリーの曲にもこのトム・ジョードについて歌ったTom Joadという曲があります。この「怒りの葡萄」の中で描かれている30年代の砂嵐で荒廃した農地の時代を歌った曲はたくさんありますね。

そしてバディレフティトム・トード牧師という3人での旅を通じて今のアメリカが失くしたものを思い起こさせてくれるのです。悪名高きFBI長官フーヴァーf0045842_0134137.jpg事、黒人を排除した街サンダウン・タウンの事、ハンク・ウィリアムスの事、選挙投票の事、農場で働く少女との会話などについての曲が語られています。ライ・クーダー個人ではなくバディという猫の新たな目線で語る事によって非常に辛辣でありながら面白い表現になっています。特にバディハンク・ウィリアムス(左写真)との思い出について歌うHank Williamsでは、「俺がもっと良い友達になれば良かった」とか、「あんたらとってはハンクは英雄だが、俺にとってはただの友達さ」「あんたらはハンクの事を俺ほど知ってはいないのさ」と言ったバディならではの視点での面白い歌詞が楽しめます。

他の歌詞の方も昔の伝承歌からのフレーズも多数用いらf0045842_0151871.jpgれています。Cat And Mouseに出てくる歌詞「which side are you on?」なんかは1930年代の有名な労働歌の一節。ピート・シーガー(右写真)やアルマナック・シンガーズもこの一節を歌っていましたね。ボブ・ディランDesolation Rowの中でこの一節を引用しています。最近では労働者階級の我らが頼れるアイリッシュ・パンク・バンド、ドロップキック・マーフィーズWhich Side Are You Onで思いっきり使ってましたね(この曲は最高です!)。超有名フレーズです。

アルバム中には前述の伝説のフォーク・シンガー、ピート・シーガーとその弟マイク・シーガーの2本のバンジョーを使ったセッションがあったり、ヴァン・ダイク・パークスがピアノで参加していたり、盟友ジム・ケルトナーマイク・エリゾンドフィオナ・アップルの3rdを作った人)らも参加しています。フィドルやマンドリン、バンジョー、ピアノ、ハーモニカ、アコーディオン、ホイッスルなどで華やかに彩られ、古き良き日のアメリカが表現されています。途中に入るジャズ・ナンバーも良いアクセントになっています。ライ・クーダー自身が主にヴォーカルを執り、その味のあるしわがれた声を聴かせてくれるが数曲にはゲスト・ヴォーカルも加えてとても賑やかなアルバムですね。
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このアルバムを聴いてあの時代のアメリカを想像するのも良いし、このアルバムから古いフォークやブルース、ゴスペルを遡ってみるのも良いし、物語を読みながらバディ達の旅を見守るもの良いし、様々な楽しみ方が出来る素晴らしい作品です。

日本盤には全ての英文訳と注釈付きの解説が付いているのでよりこのアルバムへの理解が深まるでしょう。是非日本盤でチェックして下さい。どのレコード会社もこういう丁寧な仕事をして欲しいものですね。
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by Blacksmoker | 2007-04-23 00:28 | COUNTRY / BLUEGRASS

VINCE GILL [These Days]

先月2/12にNHK FMで放送された「今日は一日カントリー三昧」という13時間に渡る番組を聴かれた人はいるでしょうか?

私は都合で最後の4時間くらいしか聴けなかったんですが、もの凄い濃い番組でした。カントリー・ミュージックの歴史から、現在のカントリー・ミュージックまでも網羅した素晴らしすぎる選曲でもう感動しっぱなしでした。まさしく永久保存版。全部録音してる人がいましたら売って欲しいくらいです。

その中で「現在のカントリー・ミュージック」を特集していたのですが、今まであまり自ら聴いてみようとは思わなかったアラン・ジャクソンジョージ・ストレイト、そしてもっと若手のキース・アーバンニコール・キッドマンの旦那)やティム・マッグロウフェイス・ヒルの旦那)、トビー・キースなどカントリー界のスター達の音が、実は意外と良かったりして、かなりの収穫のある番組でした。

その中で個人的に最も誤解していたアーティストで、今回の番組で改めて素晴らしいアーティストなんだという事に気が付いたのが今回紹介するこの人です。

現代カントリー界のスター、ヴィンス・ギル
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かなり誤解してました!ごめんなさい。だって見た目もちょっとアレだし、何かちゃんと聴いてみようという気が中々起きないですよね、このユルいヴィジュアルは。でも改心しましたので許して下さい。前回紹介したサイプレス上野とロベルト吉野の時もそう思いましたが、やはり見た目で判断してはいけません。

さて、このヴィンス・ギル。1957年オクラホマ州ノーマン生まれの現在50歳。今やカントリー界のトップに君臨する存在ですが、彼がシーンに登場したのがピュア・プレイリー・リーグというカントリー・ロックバンドのリード・ヴォーカリストとして。1979年の事です。このバンドで「Let Me Love You Tonight(日本語タイトル:恋のスターライト)」などの大ヒット曲を放ちます。その後80年代はカントリー・ロックというよりAOR的な曲で人気を果たしましたが、その後1983年にヴィンス・ギルはこのピュア・プレイリー・リーグを脱退してソロに転向します。その後はほぼ毎年アルバムをリリースしています。

f0045842_2236403.jpgそんなヴィンス・ギルの最新作「These Days」ですが、何とCD4枚組全43曲!しかも全て新曲というハンパない超大作。超大物のアルバムとなればトラディショナルのカヴァーなどで丸まる1枚アルバムを作ってしまうのが一般的なこのカントリー界において43曲もの新曲を一気にリリースするなんて前代未聞です。まさしくヴィンス・ギルの活動の集大成的アルバムですね。

実は4枚のレコードにはそれぞれ次のようなタイトルが付けられています。

Disc 1: The Rockin’ Record
Disc 2: The Groovy Record
Disc 3: The Country & Western Record
Disc 4: The Acoustic Record

上記のタイトル通り、それぞれのレコードが趣向が違った音楽になっているのです。要するに1枚目はロック、2枚目はジャズ、3枚目はカントリー、4枚目はブルーグラスというアルバムなのです。こんなアルバムを一気に作ってしまうとはヴィンス・ギルの創作意欲は彼の長年の活動の中でも今がピークにあるようです。
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ヴィンス・ギルという人はカントリー界でも正統派中の正統派。そんな彼が今までの彼の正統派的イメージを払拭するかのようなアルバムを作ってきたのは実に興味深いです。幅を広げながらも、足元はしっかりと根を張っているので、実にワクワクしながらも安心して聴ける作品なのです。

そして前述したように「ヴィンス・ギルの集大成的アルバム」というのはこのアルバムに参加した面子を見るだけでも一目瞭然。

グレッツェン・ウィルソン
マイケル・マクドナルド
デル・マッカリー・バンド
リアン・ライムス
アリソン・クラウス
ボニー・レイット
シェリル・クロウ
ダイアナ・クラール
ジェニー・ギル
トリーシャ・イヤーウッド
エイミー・グラント
パティ・ラヴレス
エミルー・ハリス
リー・アン・ウォーマック
ジョン・アンダーソン
レベッカ・リン・ハワード
ガイ・クラーク


こんな風にカントリー界の大物達が入れ替わり立ち代り登場する凄過ぎるアルバム。そしてこのヴォリュームでありながら、まったくダレることなく最後まで聴かせるアルバム構成とソングライティングのセンスには脱帽するしかありません。ヴィンス・ギルのセルフ・プロデュースで、自身もアコースティック・ギターやマンドリンを演奏しているというもの凄い働きぶりです。
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この4枚のアルバムとも全てが素晴らしいのですが、特にオススメしたいのはDisc3Disc4カントリー盤ブルーグラス盤です。この2枚は泣けますよ。高級ワインのように極上の香りがしてくるような美しいアコースティックなサウンドと共に、女性シンガー達が綺麗な歌声やコーラスで華を添えています。実に感動的です。決して誰も聴いたことのないような革新的なサウンドに挑戦している訳ではないし、やっているのはいつものアメリカン・ルーツ・ミュージックですが、染み付いた経験と貫禄が至る所から漂ってきます。

そしてやはりこの豪華なゲストを迎えながらも最も印象に残るのはヴィンス・ギル自身のウットリするような歌声。中音域で全く自然に溶け込んでくる美しい声ですね。ブルーグラスでもゴスペルでもジャズ・バラードでも完全にヴィンス・ギルの世界が創られていきます。まさに良質な現代アメリカン・ルーツ・ミュージックの見本のようなアルバムですね。

これはヴィンス・ギルのキャリアの頂点を極めた作品であり、現代カントリーの頂点を極めた作品でしょう。今年のグラミー賞でも[Best Male Country Vocal Performance]部門を受賞しています(よく分からん部門ですが・・・)。
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4枚組というヴォリュームに聴く前は一瞬躊躇しましたが、完全に杞憂だったようです。価格も¥3,800くらいだったので4枚組としては格安です。是非ともオススメしておきます。ヴィンス・ギルのサイトでも全曲視聴出来るので是非聴いてみてください。

決して見た目で判断しないように!

 
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by Blacksmoker | 2007-03-26 00:13 | COUNTRY / BLUEGRASS

SOLOMON BURKE [Nashville]

さて前回は「ソウル界の巨人ソロモン・バークの1968年のアルバム「King Solomon」を紹介しましたが、今回紹介するのはそのソロモン・バークの昨年出た最新作「Nashville」を紹介します。これが非常に良いのです。

f0045842_23232432.jpg「King Solomon」の頃は28歳ですが、この2006年の「Nashville」の時にはソロモン翁も既に67歳!でもここ最近はアルバム出したり、ライブやったり、様々なアーティスト達と競演したりとかなり精力的な活動をしています。体がデカくなりすぎていて、杖をつきながらしか歩けないし、ライブでもイスに座ったままでしか歌えませんが、その圧倒的な歌声は全くもって健在です。

そんな御大が出したアルバムはその名もズバリ「ナッシュビル」。読んで字の如くソロモン・バークがテネシー州ナッシュビルに赴き、プロデューサーであるバディ・ミラーエミルー・ハリスのバンドのギタリストでもあり、ディキシー・チックスも手掛けてます。)と共に10日間で録音したカントリー・アルバムです。
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そして御大の為にナッシュビルに駆けつけた様々なカントリー系アーティスト達をゲストに迎え、そのアーティストが御大の為に書き下ろした新曲や、カヴァー曲も交えてセッションしたアルバムになっています。前回の「King Solomon」の所でも触れましたが、ソロモン・バークという人は昔からソウルという枠には収まりきらないヴォーカリストで、ゴスペルやカントリーもお手のものなので、この全編カントリーのアルバムも違和感など微塵もありません。

カントリー界というのはおそらく想像以f0045842_23282683.jpg上の「タテ社会」かと思うので、御大の為に駆けつけたアーティストも非常に豪華なラインナップ。ドリー・パートンエミルー・ハリスという女性カントリー・シンガーの二大巨頭はもちろん、更にはベテランのギリアン・ウェルチ(左写真)やパティ・グリフィン、そしてパティ・ラヴレスも参加。各人がデュエット及びコーラスでガッチリと親分をサポートしています。まさしく万全の体制。ギリアン・ウェルチパティ・グリフィンは日本ではあまり馴染みが薄いですがアメリカでは絶大な支持のある実力派。彼女達のアルバムは素晴らしい作品ばかりですので一度は聴いてみて欲しいですね。

曲の方はほとんどが古いカントリーのクラシックのカヴァーですが、古すぎてよく知らない曲が多くてほとんど新曲に聴こえますね(ドリー・パートンTomorrow Is Foreverと、ブルース・スプリングスティーンAin’t Got Youくらいしか知りませんでした・・・)。ちなみにパティ・グリフィン(下写真右)は新作からのナンバーを御大とデュエットしています。
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さて御大のヴォーカルですが非常に「深い」。深みがあるという言い方も出来るが、業が深いと言った方が良いかもしれない。人生の酸い甘いを体験しきったような重みのあるズシンとした声が凄いですね。もちろん声にエコーかけたり、オーヴァーダブするような事は一切行っていないので、生々しさの塊のようなRAWな録音になっています。ソウル度たっぷりな声で歌われる哀しいカントリー・ソングには自然と涙が零れます。
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このアルバムは何年にも渡って愛聴盤になるでしょう。まだまだソロモン・バークには現役で作品を残して欲しいですね。
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by Blacksmoker | 2007-03-20 00:12 | COUNTRY / BLUEGRASS