カテゴリ:FOLK( 15 )

畠山美由紀 [Summer Clouds, Summer Rain]


f0045842_177100.jpgさて前回紹介したジェシー・ハリスの新作「Feel」と同時にリリースされたこの畠山美由紀の新しいアルバム「Summer Clouds, Summer Rain」。これは何とジェシー・ハリスが全面プロデュース。ジェシーはプロデュースだけでなく、ソングライティング、演奏も全てジェシーが担当。メインでヴォーカルをとる曲もあり、プロデュースというよりもコラボレーションと言った方が良いでしょう。実はこのアルバムはジェシー畠山美由紀のたった2人だけで作られているのです。まるで畠山美由紀を主人公にしたジェシー作のヴォーカル・アルバムのような出で立ち。

さて、ジェシー・ハリスという人は自分の曲以外に、女性アーティストに提供した曲も非常に多い。
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言わずもがなのノラ・ジョーンズを筆頭に、リズ・ライトマデリン・ペルートリスタン・プリティマンサーシャ・ダブソンといったNYのシンガー達だけでなく、日本人アーティストではbirdなどもジェシーが曲を提供しています。その愛され方を見ると、彼の曲は女性に好まれるという証明です。

そして本編の主人公、畠山美由紀に話を戻しましょう。
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実は個人的には日本の女性シンガーの中では最も好きな人の一人でもあります。Port Of Notes時代からソロに転向してのアルバムは全て持っています。その他にもDouble Famousをはじめとして数々のユニットにヴォーカリストとして参加していますが、その包容感があって母性を感じさせる畠山美由紀の歌声は日本にはなかなかいないタイプのシンガーです。更に言うと日本語詞よりも英語詞による歌の方が映える日本人離れした希有なシンガーだと思います(個人的にはソロ転向後も悪くないですが、Port Of Notesの時の畠山美由紀が好きですね。実は彼女の中で一番好きなのはPermafrostで歌ったAfricaです)。

この新作「Summer Clouds, Summer Rain」は、そのカヴァー曲の選曲センスもなかなか秀逸。

ビートルズBlackbirdビリー・ホリディI Cover The Waterfrontなどはスタンダードf0045842_1202774.jpgだが、ニール・ヤングWonderin’なんてマニアックなものや、マリーザ・モンチUniverso ao meu redorなんて新鮮なカヴァーや、大正時代の唱歌浜辺の歌なんてのも。このバラバラな選曲が畠山美由紀の声によって同一線上にしっかり収まっているのも見事。ハンク・ウィリアムズの「I’m So Lonesome I Could Cry」のカヴァーなんてのもやってます。まあこのI’m So Lonesome I Could Cryのカヴァーはハンク・ウィリアムズのトリビュート・アルバム「Timeless」でのケヴ・モによるカヴァーの素晴らしさに勝るものはないですが、今回のカヴァーも素朴ですがハンク・ウィリアムズのソングライティングの秀逸さを浮き立たせる良いカヴァーですね(まあ、ケブ・モのカヴァーの方が20億万倍素晴らしいですけどね)。

そしてジェシー・ハリス作の新曲3曲もなかなか素朴だが侮れません。畠山美由紀による日本語詞も実に自然にはまってます。
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フォーキーなまぼろし、ボサ・ノヴァ調のSummer Clouds, Summer Rain、そして前半をジェシーが歌い、後半に畠山とのデュエットを聴かせるAlways Seem To Get Things Wrongは完全にジェシー色に彩られてます。最近のお気に入りなのかバンジョーを使った曲が多いですね。あとジェシーの以前のアルバムにも入っているWhile The Music LastsThis Is Goodbye畠山美由紀による日本語詞でリメイク。新たな魅力で蘇っていて面白い。唯一の畠山美由紀作詞・作曲によるあなたみたいも素晴らしいので必聴です。
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従来よりも抑え気味の歌い方は彼女のアルバムの中でも異色ではありますが、彼女の魅力を堪能出来る素敵なアルバム。長く愛聴していくアルバムになりそうです。
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by Blacksmoker | 2007-08-23 00:56 | FOLK

JESSE HARRIS [Feel]


アメリカで成功するのに必要なエンターテインメント的な部分は僕は備えていないから商業的アーティストにはなり得ないと思う。

これがジェシー・ハリスの自分評。
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なるほど的確に分析してます。彼のファンも、もはやジェシーには商業的成功以上に良質な作品を作り続けていってくれる事を望んでいます。

f0045842_1792212.jpg素晴らしい傑作となった(といってもジェシーの作品は全てハズレなしですが)前作「Mineral」から僅か1年で早くも新作「Feel」が登場です。ファンの期待通り素晴らしい曲が詰まったアルバムです。

その前に、ここで少し話を遡ります。今、手元に今年の3月に行われたジェシー・ハリス&リチャード・ジュリアン&サーシャ・ダブソンの来日公演でのジェシーのセットリストがあるんですが、そのセットリストにはこうあります。

[Jesse Harris @ Kyoto Taku Taku 21.03.2007]

①Slow Down
Shadow
The Wind
④It Will Stay With Us
I Would
Feel
⑦Start All Over
You And Me

披露された8曲中、ピンク色の5曲がこの新作「Feel」に収録されていたのです。どうりで聴いた事のない曲が多かったわけですね。
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さて、その新作「Feel」ですが、いつもながらに繊細で優しい曲が17曲。どれもがこれぞジェシー・ハリスといった素敵な曲ばかりです。前作で大きくフィーチャーされていたハモンドB3オルガンの郷愁的な音色は今作では影を潜めており、代わりにラテン・パーカッションが使われた曲が多く見られます。今作に参加しているブラジル人パーカッショニスト、マウロ・レフォスコの存在が大きな役割を担っていると言えます。ジェシー・ハリスの書く曲と、このマウロ・レフォスコによるラテン・f0045842_17155495.jpgパーカッションのリズムの融合がとても面白いです。でも以前に紹介したカルリニョス・ブラウンの新作「A Gente Ainda Não Sonhou」と同様に、パーカッションがメインではなく味付け程度。基本はジャジーでソフトなアコースティック・フォーク・ミュージック。音数の少ない空間の多い音作りはいかにもジェシー・ハリスらしいです。先の来日公演にも参加していたリチャード・ジュリアンや、ベースのティム・ランツェルも参加していますね。そしてライヴでも使っていたバンジョーを使った曲もあり、なかなか楽しませてくれます。

ソングライティングにかけては、もはや説明の必要もない天才的センスが十分に発揮されていますので、クオリティも申し分ない出来映えです。しかしいつも思うのですが、ジェシーの曲というはほんとに宝石のような輝きを放っていますね。そして、その輝きの中には必ず優しさが含まれています。そこいらのシンガーソングライターなんかが10年掛かっても書けない曲を1年そこらで何十曲もさらっと書いてしまう物凄い天才ですね。
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そしてジェシー・ハリスのファンにとってはまたも素晴らしい傑作の誕生でしょう。まだジェシーを聴いた事のない人は早くこの才能に触れてみて欲しいと思います。
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by Blacksmoker | 2007-08-16 00:36 | FOLK

COCOROSIE [The Adventures of Ghosthorse and Stillborn]


f0045842_12333396.jpgディヴェンドラ・バンハートアニマル・コレクティヴアントニー&ザ・ジョンソンズらのブレイクと共に、2年程前から世界的に注目されてきた「フリー・フォーク・シーン」。その彼らと深く交流を持ち、シーンの中核に位置するこの姉妹デュオ、ココロージーの2年振りの新作「The Adventures of Ghosthorse and Stillborn」を紹介しましょう。まさしくジャケットの絵の通りの音ですね。幻想的でありながらも、少しグロテスクさも含んだグリム童話のような世界です。

ニューヨーク在住のシアラビアンカのキャサディ姉妹によるこのユニット。シアラの愛称ココと、ビアンカの愛称ロージー。合わせてココロージー。彼女らの音楽は非常に独特です。
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シアラが担当するハープやピアノを主体にして、その上からビアンカが奇抜なサンプリングのサウンド・コラージュを施して何とも不気味でカワイイ童話の世界のような空間を作り上げています。ヴォーカルは2人が担当。ビョーク(金の亡者)とかジョアンナ・ニューサムと同種の浮世離れした浮遊感のある声がこれまた魅力でもあります。

一気に注目を浴びる事になった前作「Noah’s Ark」では、そんな事お構いなしな独特なマイ・ワールドぶりを発揮して完全に完成された彼女達だけの閉ざされた箱庭空間を見せ付けてくれましたが、今作では非常にオープンな作風。グリム童話的な独特の音世界は今作でも健在だが、メロディの良さが格段に増しています。
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今までは掴み所のないメロディが多かったですが、輪郭のくっきりしたメロディやサウンド・プロダクションによって非常に聴きやすくなっています。ビョークの作品を手掛けるヴァルゲイル・シグルドソンによるプロデュースによるアイスランド録音が功を奏していますね。今まで完全に閉じこもった自分達だけの世界を創り上げてきた彼女達のベクトルを外界へ向ける事に見事に成功しています。

1曲目Rainbowarriorsから今までとf0045842_12433348.jpg気色が違います。輪郭のハッキリした打ち込みのビートにラップのようなビアンカ(左写真)のヴォーカルに、浮遊感のあるシアラの幻想的なコーラスが被さる今までのココロージーには無かった明るくキャッチーな素敵な曲に仕上がっています。まるでEELSのようなカンジですね。でもスクラッチ音、馬の鳴声、ホイッスル、口笛、電子音、シンセサイザー、おもちゃのサイレンなど無数のコラージュがされているのは相変わらずで聴いていて面白いですね。

みんな日本に行きたがってる」と歌われる童謡のようなメロディのJapan、おもちゃのピアノの幻想的な旋律をバックにシアラ(下写真)の美声が映えるWerewolfジョアンナ・ニューサムのようにビアンカがグランド・ハープを弾き語るAnimalsなど非常に良い曲が多いですね。
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その一方で今までの彼女達の世界観を踏襲するオルゴールの単音をバックにシアラが消え入りそうに歌うBloody Twinsや、メロディカにこれまたシアラのフィールド・レコーディングのヴォーカルが入ったBlack Poppiesなどの曲もしっかり入っています。今回特に気が付いた事は、シアラの歌が非常に上手いという事。ビアンカのラップのような歌との対比もしっかりされていて非常に良いですね。

彼女達の作品の中で、最もメロディの際立った開かれた傑作です。即効性はありませんが、じわじわ効いてくる良盤です。前述したRainbowarriorsのPV(何と監督はミッシェル・ゴンドリー!)がココで観れますので是非チェックして下さい。

f0045842_1257965.jpgそしてもう1つオススメなのが、ココロージーシアラMatteah Baimによるプロジェクト、Metallic Falcons(メタリック・ファルコンズ)。東欧圏のメタル・バンドのようにイカつい名前ですが、音は全然違います。こっちはココロージーよりももっとフリークアウトしたサイケデリック・フォーク。2006年に1stアルバム「Desert Doughnut」(右写真)がリリースされていますが、こちらも相当歪んだ幻想的なフォークです。

ココロージーが気に入った人はコチラもチェックしてみて下さい。
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by Blacksmoker | 2007-06-13 00:12 | FOLK

AMOS LEE [Supply And Demand]

このアルバムって売れたのかな?

2005年の1stアルバムで一気に注目を浴びたエイモス・リーブルーノートが契約した大型新人(しかもトップ・プライオリティ・アーティスト)という形で、ノラ・ジョーンズリー・アレキサンダー(ノラの片腕)がバックアップしたデビュー・アルバム「Amos Lee」が大ヒット。その後はボブ・ディランのツアーのオープニング・アクトにも抜擢されたりと、かなりのブレイクを果たしたフィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター。
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実は裏話があり、ノラ・ジョーンズで特大ヒットを飛ばしたブルーノートが、次に契約を狙ったのがジェシー・ハリスだったそうです。でも、そのジェシーにあっさりとフラれてしまった為、代わりに白羽の矢を立てたのがエイモス・リーだったようですね。

しかし、そんなトピックを打ち消すように彼のデビュー・アルバムは「次のノラ・ジョーンズ的サウンド」を求めるファンに応えるような音楽性と、ラジオ・ヒットも望めるキャッチーな楽曲群、そしてエイモス・リーの誰にも拒絶されることのない優しい声も相まって見事にヒットしました。ちなみにその後、同時期に別々に行われたジェシー・ハリスエイモス・リーの来日公演では集客数においてエイモス・リーが圧勝していたのも印象的です。

f0045842_15295039.jpgそのエイモス・リーの昨年出た1年半振りの2ndアルバム「Supply And Demand」。このアルバムは昨年結構ひっそりとリリースされていたような気がします。話題になったのかならなかったのか分からないのですが、かなり素晴らしいアルバムです。1stアルバムの時はノラ・ジョーンズ周辺の人脈のミュージシャンがガッチリとサポートしていましたが、今回は打って変わった制作布陣。今回は地元フィラデルフィアのミュージシャンを起用。そしてプロデューサーには元ザ・ウォールフラワーズボブ・ディランの息子ジェイコブ率いるあのバンド)のメンバーでもあるバリー・マグワイアを迎えて制作されています。

そのせいか、1stアルバムでの隙間を活かしたジャズっぽい音から、よりフォーク・ロック的アプローチの曲が格段に増えています。以前の跳ねるような躍動感に溢れた歌い方から、地に足の着いた堂々たる歌い方になってきていますね。
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1曲目の1stシングルにもなったShout Out Loudからジャラジャラしたアコースティック・ギターの王道たるコード進行からして前作とは気色が違います。前作と比べてグッと深みと存在感を増したエイモス・リーの歌声。最初にこの声を聴いた時、その深みを増した声に驚きましたね。その声で歌われるフォーク・ロックにはザ・ウォールフラワーズの影響も感じられますね。しかもサビのメロディが非常にキャッチーでラジオ・フレンドリーな曲。「Shout It Out Loud」といえばKISSだが、Shout Out Loudといえばエイモス・リーといえる彼の代名詞的な1曲になるであろう名曲です。

3曲目Freedomなどは、イントロのギターかf0045842_1534965.jpgらしてザ・バンドのようなフィーリング。6曲目Supply And Demandなんて軽やかな60年代フォーク・ロックど真ん中。11曲目Long Line Of Painなどはスライド・ギターを使った穏やかなカントリー・フォーク。前作のようなジャズ・フィーリングな曲ももちろんありますが、全体的にアメリカの大陸的(アメリカーナ的)な曲が多くなってきてますね。1stの路線も好きですが、こっちの路線も素敵です。

そして1stと2ndの両方のアルバムに共通することは、ソング・ライティングの素晴らしさ。1曲1曲必ず耳に引っかかるメロディを持った楽曲が並んでいます。最近ではアルバム1枚を丸々飽きさせることなく聴かせられるアーティストが果たしてどれだけいるだろうか?エイモス・リーは素晴らしいメロディ・センスで全く飽きさせず最後まで聴かせてくれます。これって地味ながら凄いことだと思いますよ。
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売れたのか売れなかったのか分からないですが、このアルバムがとても素敵な事には変わりないですね。
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by Blacksmoker | 2007-04-13 00:18 | FOLK

LINDA PERHACS [Parallelograms]

さて、今回の「フォーク・シンガー特集」の最後を飾るのはジュディ・シルヴァシュティ・バニヤンと並んで語られる「三大幻の女性フォーク・シンガー」最後の1人。

リンダ・パーハクス

f0045842_126155.jpgこの「Parallelograms」は1970年にリリースされた彼女の唯一のアルバムにして、この時代のフォークの伝説的名盤。このアルバムの持つ神秘性はリリースから36年以上経った今でも全く色褪せることなく燦然とした輝きを放っている。

サウンドは完全にアシッドなサイケデリック・フォーク。今にも消え入りそうなくらい儚く浮遊感のある声の多重録音に、深い森に迷い込んだようなバックのサウンドが完全に彼岸の音。でもよくよく聴いてみるとサイケデリックな装飾を抜きにしても、芯のしっかりしたメロディの優れた曲なのが分かります。伊達に36年も名盤として静かに語り継がれてきたアルバムだけの事はありますね。

このアルバムも長い間CD化がされていない状態が続いていたが、2003年にCD化がなされ多くの人の手に届くようになりました(しかも6曲も追加されて)。実はリンダ・パーハクスという人物についてはほとんど情報がなく謎の人物というイメージが先行していましたが、このCD化にあたり彼女がカリフォルニア出身(それまではハワイ出身とされていた)の歯科衛生師だったことが判明。

そんな音楽とは無縁にみえる経歴のリンダ・パーハクスがなぜこのような素晴らしいアルバムを制作できたのかというのことなのだが、実は彼女の患者として出会ったレナード・ローゼンマン(映画「エデンの東」「理由なき反抗」などを手掛けた映画音楽家)という人物が彼女の歌声に惚れ込みプロデューサーを買って出てアルバムが完成したそうです。手掛けたのが映画音楽家というところがなかなか興味深いですが、まあそんな話題はこのアルバムの素晴らしさの前には何の意味もなしません。
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ジャケットのイメージも非常に魅惑的で美しい。そして全曲が素晴らしいアシッド・フォークで綴られた奇跡の名盤です。聴いていると勝手にあちらの世界へ誘ってくれる美しいサイケデリック・トリップ・フォーク。もはやこのアルバムへの絶対的評価について異論のある人はいないでしょう。このアルバムについて説明するのに、もはや言葉は必要ないと思います。まだ聴いた事のない人は必ずチェックして欲しい。

最後に、この当時の彼女の写真はあまり存在しないんですが、この熱狂的なまでの再評価に対して彼女のホームページも出来きています。その中に彼女の写真が何枚も見れるようになってますが(再発CDのインナーにも写真あり)、正直見ないほうが良いです。80年代のエアロビクスに先生みたいな格好したリンダ・パーハクスの衝撃の写真が出てきてガッカリしますよ・・・。
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by Blacksmoker | 2007-02-26 00:07 | FOLK

KAREN DALTON [In My Own Time]

60年代後半~70年代前半に活動した伝説的な女性フォーク・シンガー達に共通している性質は、「エキセントリック」か「ジャンキー」です。

やはり常人とは違った感性を持ち、ちょっと気難しかったり、逆に繊細で壊れやすかったりする人が多いですね。それか、アルコール中毒だったり、ドラッグ中毒だったりするジャンキーな人。こういう人達の方が後世に残る傑作を残している場合が多いです。(実に興味深い話です。)

f0045842_13344018.jpg今回紹介する2人目のフォーク・シンガーはカレン・ダルトン。この人は「エキセントリック」と「ジャンキー」の両方を兼ね備えてしまった女性。そして隠れた大名盤を2枚残してシーンから消えたフォーク・シンガーです。その彼女の1971年発表の2ndアルバム「In My Own Time」を紹介します。

彼女は1960年代前半からニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジで活動しており、この頃はボブ・ディランフレッド・ニールとも活動している。1969年にキャピトルから1stアルバムをリリースし僅かながら注目された存在ではあったようです。久しぶりにボブ・ディラン自伝「Chronicles」を読み返してみたら、第一章の中に「当時最も気に入ったのがカレン・ダルトンで、ビリー・ホリデーのような声を持ち、ジミー・リードのようにギターを弾き、そのスタイルを貫いていた」と記述されてましたね。ディランの言う通り、12弦ギターとバンジョーをもこなす才人です。
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特徴はその独特の声。甲高いハスキーなかすれた声。この時代に名盤を残した幻のフォーク・シンガー達は現世離れした天使のような声を持つ女性が多いですが、カレンは地に足の着いた人間的な声をしています。バンジョーを弾きながら歌う姿にはやはりそのルーツがアパラチアン山脈にあり事は分かり、どこかブルース的なフィーリングを感じます。フォーク・シンガーというよりブルース・シンガーに近いかもしれない。あまりカレンと似たような声のシンガーは存在しないんじゃないだろうか。サウンドは全然違うけどその存在感はニーナ・シモンとかに近いものがありますね。

f0045842_1346276.jpgそんな才能あるミュージシャンの周りには、やはり才能ある人達が集まってきます。しかもこの時代のニューヨークのフォーク・ミュージシャンというのはある種コミュニティー的な集団を形成していたわけですから、グリニッジ・ヴィレッジ周辺のフォーク・ミュージシャンがこぞって参加しています。プロデューサーには当時ディランのバンドでベーシストをやっていたハーヴェイ・ブルックスが迎えられています。

ウッドストックのベアーズヴィル・スタジオで録音されており、サウンドはザ・バンドの1stとかに非常に近い雰囲気があります。ノラ・ジョーンズの2ndアルバムに近いサウンドとも言えます。トラデショナル曲のカヴァーや、ザ・バンドの1stにも収録されているリチャード・マニュエル作のIn A Stationのカヴァーや、スタンダード曲When A Man Loves A Womanのカヴァーも入っていますが、いずれも完全にカレン・ダルトン色に染まっています。アルバム全体に渡ってブルース的なラフなフィーリングがありますね。このアルバムは、カレンの溢れんばかりの才能が滲み出た傑作です。

しかしカレン・ダルトンは、この2ndアルバム「In My Own Time」のリリース後に忽然とシーンから消えてしまいます。実は3rdアルバムの製作にも取り掛かっていたようですが、その矢先に失踪。そして2度とシーンに戻ってくることはありませんでした。原因は重度のアルコールやドラッグの中毒だったそうだが、おそらく急激な状況の変化に耐え切れずドロップアウトしてしまったのだろう。このあとカレンはまったく音楽活動を行わず、1993年にドラッグ中毒で亡くなっています。
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実はこのアルバムですが、長年アナログ盤でしかリリースされていなかった為、ファンの間では幻の名盤として語り継がれてきたものでしたが、何と2006年に奇跡の初CD化を果たした涙モノの1枚。再発に寄せてブックレットにはレニー・ケイニック・ケイヴ、そしてディヴェンドラ・バンハートの3人がそれぞれカレンへの思い入れについて熱い文章を寄稿しています。特にそのディヴェンドラの文章にはかなりの入れ込みようが感じられ面白いです(ディランの自伝映画「No Direction Home」でディランカレンが写っている写真が出たときにディランカレンの名前を出さなかった事に怒りをおぼえたというエピソードが笑えます)。(下写真は1961年の写真。左からディランカレン・ダルトンフレッド・ニール
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長年のフォーク・ファンだけでなく、是非とも新たなリスナーに触れて欲しいアルバムですね。
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by Blacksmoker | 2007-02-23 00:13 | FOLK

MARY HOPKIN [Earth Song/Ocean Song]

60年代後半から70年代前半にかけての女性フォーク・シンガーの活躍には目覚しいものがあります。ちょうど1年前にこのブログでもジュディ・シルヴァシュティ・バニヤンなどアメリカの女性フォーク・シンガーを紹介しましたが、個人的にこの寒い2月の時期というのはどうやらフォーク・シンガーを聴きたくなる時期にあるようです。それでは昨年に引き続きまして3回に渡り、それぞれ3人の女性フォーク・シンガーのアルバムを紹介しようと思います。

f0045842_22433880.jpg今回紹介するのはイギリスの女性フォーク・シンガー、メリー・ホプキンの1971年発表の2ndアルバム「Earth Song/Ocean Song」(日本盤タイトル:大地の歌)。

1950年ウェールズ南東部に生まれたメアリー・ホプキンは18歳の時にポール・マッカートニーの強力なバックアップによりアップル・レコードから1st「Post Card」でデビュー。ポールの作った曲Those Were The Daysを大ヒットさせ、「Post Card」は全世界で500万枚という驚異的なヒットを記録する。
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しかし、ここから彼女の波乱のストーリーが始まります。

ポール・マッカートニーによる楽曲提供によって一般的にポップ・シンガーとして認知されることをメリーは頑なに拒否して、発売を控えていたポールがプロデュースした次のシングル曲のリリースを中止してしまいます。もちろんここでポールとの関係は一気に悪化してしまうわけですが、そこまでしてメリーはフォーク・シンガーとして信念を頑として貫いたわけです。

そしてリリースされたこの2nd「Earth Song/Ocean Song」は前作と全く趣向の異なった作風になりました。ここにはメリーがこだわった重厚なる伝統的なブリティッシュ・トラッド・フォークがあります。プロデュースをトニー・ヴィスコンティが担当しストリングスも加えた格調高い作風になっています。

f0045842_22515884.jpgしかし、己の信念を貫いて作ったこのアルバムですが、チャート的には惨敗。結果的にアップル・レコードからの最後のアルバムとなってしまうわけですが、実は個人的にはメリーの作品ではこのアルバムが一番好きなアルバムです。なんたってジャケットの美しさもさることながら、その思い切って方向転換したトラッド・フォーク路線に対してメリーの一点の曇りもない力強さが感じられるのです。アコースティック・ギターだけでなくヴァイオリンやバンジョーなど弦楽器の旋律とメリーの母性的な声が静かに溶け合って自然を謳歌しているようです。

今までの喧騒の鬱憤を晴らすかのように力強く伸びやかに歌われるThere’s Got To Be More、どこか哀しげだが優しいヴァイオリンによって勇気付けられるStreet Of London、ゴスペル的な作風をもった高揚的なWater,Paper & Clayなど隠れた名曲が静かに並んでる傑作です。

自分というものが、他人のイメージにプロデュースされることを拒否したというエピソードも実に惹かれるエピソードじゃないですか?最近では、湯川潮音がプロデューサーの鈴木惣一郎から離れて自由な作風を楽しんでいるのもこれと全く同じ構図ですね。歴史は繰り返されるようです。(下写真はポール・マッカートニーメリー。)
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実はメリーは今でもこのアルバムの事を「自信を持って最高傑作だと言える」と発言しています。もちろん私も同意見です。
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by Blacksmoker | 2007-02-20 00:13 | FOLK

sakana [Sunday Clothes]

音源が出れば必ずチェックしたくなるミュージシャンっていますよね?いつの時代でも出ていれば必ずレコードだけは買ってしまうというような(まあそういうミュージシャンというのは得てしてそんなに有名じゃない場合が多いんですけど・・・)。世間に騒がれなくてもひっそりと良質の作品を届けてくれる信頼出来るミュージシャンっておそらくみんな一つや二つあると思います。私にとってSebadohルー・バーロウなんてモロそんなミュージシャンですね。

f0045842_135917.jpgそして今回紹介するsakanaも私にとってはそんなミュージシャン。先日ひっそりリリースされたsakanaの新作「Sunday Clothes」も派手さはないが素晴らしい作品です。

sakanaはギターの西脇一弘とヴォーカルのポコペンによるデュオ。ちなみに2人は夫婦。20年以上も活動を続けていて今までに13枚もアルバムをリリースしている。アコースティック・ギターを主体としたフォークが基本なんですが、フランスやブラジルのような異国情緒の漂う不思議な雰囲気があります。ギターの一音一音の響きを大事にする西脇氏のギターが特徴的なんですが、それよりもやはりsakanaといえばポコペンさんの独特なボーカルが最大の魅力です。その日本人離れしたクセのある歌い方は唯一無二(昔はフィッシュマンズ佐藤伸治ともよく比較されていましたね)。お世辞抜きに私はポコペンさんは日本で最高のヴォーカリストだと思っています。

今回の新作も新機軸というものはないけど、ゲストにバッファロー・ドーター大野由美子が参加。彼女がスティール・パンを演奏していてこれまた異国情緒たっぷりで地中海にいるような雰囲気にf0045842_184085.jpgさせてくれます。ブラジル音楽のサウダージ感も出ていますね。そしてポコペンさんの歌詞はとてもユニークなものばかり。ありきたりな表現があまりなくて面白い。相当な表現力です。「シチュエーションもの」 な曲なんか、登場人物の関係性が全然理解出来ないことも多い。そういう不思議な歌詞も含めて非常に魅力的です。

ちなみにポコペンさんは非常に天然な人で、ライブではいつもよくわからない事ばかり喋ってます。その横でいつも寡黙な西脇さんがうつむきながら微笑んでいるアットホームな雰囲気のライブでとても楽しい。あんまり大阪には来てくれないけど、以前に京都でのライブでは私のリクエストした曲をやってくれたりしてとても良い人達でした。

最後にsakanaHPでは西脇氏によるsakanaのバイオグラフィが載っています(結構長いけど)。とても良い話なので是非読んでみて下さい。この人達を少しでも理解出来ると思いますよ。
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by Blacksmoker | 2006-05-13 01:26 | FOLK

HAYDEN [Everything I Long For]

先日、マイメンnakataとジャズのレコードの発掘に行ってきました。フリージャズやらイタリアのジャズやらいろいろ漁ってきて、「50年代~60年代のジャズは、ジャケがマチガイなければ内容もマチガイナイ」 とかいろいろ喋ってまして…。

f0045842_124752.jpgそしてチャーリー・ヘイデンの話題になった時に、ジャズとは全然関係ない話題で、なぜか「10年位前にデビューしたヘイデンはヤバかった」という会話になって、たまたまiPodに入っていたヘイデンのデビューアルバム「Everythin I Long For」をさっそく車で久しぶりに聴いてみたらほんとにヤバかった!(ちなみにチャーリー・ヘイデンではありませんよ。ただのヘイデンです。)

1996年にカナダのトロントから現れた謎の新人ヘイデン。当時(ごく一部で)驚異の大型新人的扱いで話題になったので憶えている人もいるでしょう。雑誌などではベックカート・コバーンと比較されたりもしていましたね。今考えたらなぜだか良く分からんけど…。デビュー・シングル「Bad As They Seem」 は野太くヤボったい声で歌われる4トラックで宅録されたシンプルな弾き語りのフォーク・ブルース。こんな地味な歌がなぜ話題になったんだろうか?おそらくグランジ旋風が吹き荒れていた当時の時代性もあったんだろうが、ヘイデンの歌う歌詞の内容もその要因の一つだろう。この「Bad As They Seem」 は16歳の少女とその母親の両方に恋をする43歳の男の視点で歌われる。「どうしようもないこの状況は思ったとおり最悪だ」 と歌われる歌詞はフィクションだが実に生々しい。「何にも変わらない絶望的な状況」を歌うという行為はグランジ世代(Generation X)の代弁者のように映ったのかもしれない。

f0045842_1324118.gifその他の曲も非常に変な視点の歌詞が多い。愛人が出来た為に邪魔になった子供を車に閉じ込めたまま湖に沈めたスーザン・スミスという女性の実在の事件を、沈められていく車の中の子供の視点で描かれた「When This Is Over」 という曲の内容は強烈だし、湖で溺死した妻を忘れられず、冬になったらスケート靴を履いて湖に出て行く男の歌「Skates」 も不気味だ。女性とのうまくいかない関係を歌った少し変質狂的な曲も多いなぁ。曲調もあまり変化のないフォーク・ブルース。声質はトム・ウェイツに似ている。

しかし、なんて暗いアルバムなんだ!!こんな地味なアルバムが売れたのか?売れたんだっけ?その後全く名前を聞かなくなったので売れなかったのかもしれない。やはり地味すぎる存在だったからだろうな。でも、このアルバムは地味ながらも実に味のあるアルバムだ。ハマるとヤバい!当時ハマった人も多いんじゃないか?今あらためて聴くとヤバいですよ。1年に1回くらいは棚から引っ張り出してきて聴きたくなるアルバムですねぇ。

調べたらその後も何枚かアルバム出していたので活動はしてるようだ。なんかホッとした。
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by Blacksmoker | 2006-04-13 01:34 | FOLK

JESSE HARRIS [Mineral]

世間はどうやらジェシー・ハリスを誤解しているようだ。

ノラ・ジョーンズのDon’t Know Whyの作曲者』というのは彼の一部分に過ぎない。確かに知名度が上がり、おかげでメジャー・レーベルから作品をリリース出来るようになったが、これは諸刃の剣だった。おそらくレーベルからは「ノラ・ジョーンズをもう一度参加させてヒットを狙え」的な事を言われていたのは容易に想像できる。ノラ・ジョーンズにf0045842_095915.jpg悪気はないが、これが彼のイメージを決定してしまい逆に新しいファン層を開拓出来ない状況になっている。それが如実に現れたのが昨年のブルーノートでの来日公演。ここまで客の入っていないブルーノートは初めてだった。「クアトロだったら良かったのに…」 と思いながら観た彼の来日公演はしかし、スイート極まりない声で歌われる歌と隙間を存分に活かしたジャズやラテンのエッセンスを盛り込んだ演奏がとても素晴らしいものでした。世間は彼を誤解している。ジェシー・ハリスは稀代のシンガー・ソングライターとして後世に語り継がれる存在だ。

f0045842_0105788.jpg彼の事を理解してないメジャーとはおさらばしたのか、今回の4枚目の新作「ミネラル」は彼が新たに設立したレーベルよりのリリース。要するにインディペンデントに戻ったわけです。インディペンデントに戻ったからといって、音楽性が変わるわけでもなく、逆に以前に増して研ぎ澄まされたソングライティング・センスが光る名作になりました。もちろんノラ・ジョーンズは参加していません。

アルバム・タイトルの「ミネラル」 という言葉と同様に、みずみずしい音が非常に綺麗で北欧的な透明感も兼ね備えている。全編に渡るスローで柔らかな楽曲は、ボサノヴァに通じる時間の流れがある。オルガン奏者ラリー・ゴールディングスのハモンド・オルガンのヴィンテージな音がとても効果的だ。どこかジェイムス・テイラーを思わせる所もありますね。

しかしボブ・ディランもカヴァーした「Corinna Corinna」 をはじめ、ホントに良い曲ばっかりです。涙が出そうなくらい美しく綺麗です。もしもこのアルバムがあまり聴かれることなく世間に忘れられたとしても、このアルバムを聴いた人には確実に年月を経ても聴き続けられる名盤となるでしょう。

実は今月、再来日公演が控えています。しかもクアトロで!
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by Blacksmoker | 2006-04-07 00:25 | FOLK