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JAHEIM [The Makings Of A Man]


まさに捨て曲なしの傑作。

f0045842_11123996.jpgニュージャージー出身のソウル・シンガー、ジャヒームの2年振りとなる新作「The Makings Of A Man」は心の底から痺れるソウルをじっくり堪能出来る傑作です。

1978年ニュージャージーのゲットーに生まれ、Naughty By NatureKaygeeに見出されたこの早熟の天才は2001年の1st「Ghetto Love」、そして2002年の2nd「Still Ghetto」、そして2006年の3rd「Ghetto Classics」(ビルボード初登場1位)という「Ghetto3部作」で本格派ソウルシンガーとしてのポジションを揺ぎ無いものにしたわけですが、この新作「The Makings Of A Man」では「Ghettoシリーズ」を離れ、偉大なるソウルシンガーへの道を踏み出したと言っても良いでしょう。

ちなみにこの新作からジャヒームはワーナーを離れアトランティックに移籍。ここ数年で「ソウル帝国の復権」を標榜しソウル・レーベルの一大帝国を築かんとするアトランティックにとっても、このジャヒームを迎えた事は大きな収穫になったろう(昨年のミュージック・ソウルチャイルドのアトランティック移籍も大きいですね)。
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男の香り漂うアルバム・ジャケット、そしてThe Makings Of A Man =「真の男の作り方」というソウル度の高いタイトル。これらの要素に全く引けを取らないほど、この新作は素晴らしい内容の極上のソウル・アルバムになっています。

このシルキーで太いジャヒームの声。上手いシンガーなんてこの世にはたくさんいるが、ジャヒームの声には、独特の深みそして温もりがある。最近のソウルシンガーの中でこの声に匹敵するのはもはやアンソニー・ハミルトンくらいのものでしょう。まさしくソウル/R&Bを歌うために生まれてきたような声ですね。
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なんたって1曲目のタイトルがVoice Of R&B!こんな大それた事を言っても決して大袈裟には思えない風格が今のジャヒームにはある。1stアルバムの時にはラップのような歌い方もしていたが、今のジャヒームの歌うのは完璧なるソウル。まったくブレはありません。この曲ではトランペットが響きが最高のオープニングを演出します。この曲を含めアルバム収録曲の3分の1にあたる4曲をジャヒーム自身がプロデュース(共同)しているのにも注目。ワウギターの利いたメンフィス・ソウルばりのホーンがナイスなLife Of A Thug、真正面から直球勝負のリアル・ソウルMake A Wish、ピアノとオーケストラも取り入れた壮大な美メロ・バラードBorn Together Againなど素晴らしい出来です。いやはや凄い才能です。
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そして恩師Kaygeeも3曲で参加。Force MD’sTender Love」使いのドラマティックすぎる泣きのバラードHave You Everで最初のハイライトを演出し、ボビー・ウォマックの「If You Think You’re Lonely Now」のリメイクLonelyなどドラマティックな傑曲を提供してます。そしてKaygeeお得意のギャル受け確実のI’ve ChangedではR&B界のニュー・ディーヴァ、キーシャ・コール(下写真)を召喚(このアルバム唯一のゲスト・ヴォーカル)。
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このキーシャ・コールの使い方、かなり贅沢です。

その他にもR.KellyのプロデュースしたHushなんて、もうまんまR.Kellyが歌いそうなとろけそうに優しいバラードも良過ぎです。

そしてケネス・エドモンズ aka ベイビーフェイス(左写真)も参加。Just Don’t Have A Cluef0045842_1137731.jpgプロデュースしているわけですが、エレクトロなオープニングに続くDr.Dreばりの荘厳なストリングス、そして意表を突くピアノの美しいフレーズと、ありえないくらいカッコ良いサウンドで一気に耳を惹き付けます。最近ではクリセット・ミッシェルのアルバムにもYour JoyBest Of Lifeという秀逸な2曲を提供していましたが、やはりベイビーフェイスという人は凄いですね。ここ数年ようやくこの人の偉大さを実感出来てきました。

この他にもThe DelfonicsLa La La Means I Love you」という大ネタ使いのShe Ain’t Youなども注目です。

全体的にこのアルバムのジャヒームは80年代の黄金期のルーサー・ヴァンドロスを彷彿させる。それは彼が幼少期に一日中ルーサーの曲を聴き続け、そこから歌唱法を独学で学んだ事にも関係しているだろうが、それにしてもその声質もルーサー・ヴァンドロスによく似ている。唯一違うのはジャヒームの声からは体に染み込んだGhetto的感覚/ストリートを感じる事。そしてそれこそが彼の魅力であり、個人的に彼を好きな理由でもありますね。
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これから偉大なるソウル・シンガーの道を辿るであろうジャヒームの今後が楽しみでなりません。しかし、このアルバムは傑作です!
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by Blacksmoker | 2008-03-31 00:13 | R&B / SOUL

THE LOCUST @ 鰻谷sunsui 3/18(火) 2008


バッタ軍団襲来!

サンディエゴが誇る超絶変態ハードコア軍団The Locustが実に7年振りに日本を襲撃!1994年に結成されているのでもうこのバンドも既に14年というキャリア。いやはや凄い事です。
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個人的には絶対観てみたかったバンドの一つだったので、メチャクチャ楽しみにして参戦してまいりましたが、コレは想像以上の衝撃でした。なかなか凄いモノを観ましたよ。

まず開演前の機材のセッティング時から既にバッタのコスチュームに身を包んだメンバーがステージ上に6人!あれっ?The Locustって4人じゃなかったっけ?と思いよくよく見るとメンバー以外のスタッフまでもバッタのコスチューム!なかなか芸が細かい。
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ステージ中央最前列にドラムを配置し、そのドラムの脇をギター&ベース、そしてムーグ・シンセサイザーが固めるという異様なフォーメーションが期待感を煽ります。そして凄いのが、一通り機材のセッティングを終えて全く音合わせをすること無くいきなり本番スタート!なんなんだコイツラは!意表を突かれたスタートにあっけに取られたのも束の間で、この後が圧巻でした。
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まずは、昨年リリースされた最新作「New Erections」からThe Locust史上かつてない程の長さを誇るナンバーAOTKPTA。この最長ナンバーの時間は何と3分(笑)!!(そもそも30秒前後の曲ばかりですから・・・)

続いても新作からWe Have Reached an Official Verdict: Nobody Gives a Shit(長いタイトル!)。超人的な高速ブラスト・ビートに、速弾きギターとベースによる変拍子バリバリの奇天烈な演奏(久々にギターのタッピングを観ました!)。その上を空間を歪めるが如く「ビヨ~ン」といった不気味で不穏なムーグ・シンセの音が飛び回ります。この微妙な居心地の悪いサウンドが、逆に気持ち良い。その昔「NAPALM DEATH meets DEVO」なんて評されていましたがなかなか頷ける話です。
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それにしてもドラムのインパクトは強烈。2曲目でもうバッタのマスクの下半分が汗で濡れて色が変わってきている程のテンションの高さです。

続くは懐かしい1998年のアルバム「The Locust」からKill Rodger HedgecockCattle Mutation(おそらく)。速すぎて曲の切れ目がほとんど分かりません・・・。
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2003年のアルバム「Plague Soundscape」からはTwenty-Three Lubed Up Schizophrenics With Delusions of GrandeurSolar Panel AssesWet Dream War MachineRecyclable Body Fluids in Human Form」(それにしても長いタイトル・・・)といった超ファストなブラスト・ナンバーで畳み掛け、客にリズムにのる暇さえ与えてくれません。ちなみにあまりにも曲が速いので、ステージダイブを敢行しようとした客がステージに上がった瞬間に曲が終わってしまって何とも恥ずかしい思いをしていた一幕も(笑)。
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しかしレコードで聴くよりもライヴの方が圧倒的にダイナミック!もの凄い熱量です。ドラマーは既にコスチュームを脱いで上半身は裸です(でもマスクは着用)。あまりの汗にスタッフがステージに扇風機を持ってきてドラマーに風を当ててましたね。1曲1曲終わるごとにドラマーの人は息を切らしながらの渾身の演奏。中盤以降「New Erections」からのミドル・テンポのパートを挟んだ楽曲が多くなったのも納得です。
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終盤にかけても「New Erections」からのナンバーの応酬。The Unwilling... Led by the Unqualified... Doing the Unnecessary... For the UngratefulFull Frontal ObscurityTower of Mammalと続きライティングやムーグも大活躍。ラストはBook of Botで締め。アンコールもなし。約1時間の嵐のようなステージを終えバッタ軍団は去って行きました。

それにしても怒涛のライヴでした。毎日こんな凄いステージをこなしているなんて想像を絶しますね。でも勢い一辺倒ではなく演奏力もそれはそれは超絶だし、最近の展開のある起伏に富んだ楽曲もなかなか素晴らしくThe Locustの進化を感じます。
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過激さとユーモアを兼ね備えた最高にカッコいいバンドでしたね。

こういう面白いヤツラがまだまだいるからライヴは楽しいのです。
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by Blacksmoker | 2008-03-27 00:13 | ライブレポート

SINEAD O’CONNOR [Theology]


1992年「Saturday Night Live」の生放送で「Fight The Real Enemy!」と叫んでローマ法皇の写真を破り捨て世界中を敵に回してしまったあの有名な事件から早15年。

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しかし、なんとシネイド・オコナーは今カトリックの女性司祭となっているのです!これには驚きましたね。

そもそも精神的にも繊細すぎたのだと思う。正直に生きていくことがこれだけ難しい事だとは彼女も想像しなかったはず。彼女に今までのアルバムにはアイルランド的な美しさ以上にその繊細さが如実に表れていた作品ばかりでした。
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ただセンセーショナルではなくなると、メディアでは取り上げられなくなるのが世の常で、彼女もメディアというものからは遠ざかって久しいですが、その間にも実は素晴らしいアルバムを何枚も出しています(個人的には1997年の「Gospel Oak」というEPが大好きです。)

そしてこれもあまり取り上げられなかった事ですが、2003年にはJay-Zばりに音楽業界から引退。その後2005年にはJay-Zばりに復帰。復帰後には全編レゲエのカヴァー・アルバム「Throw Down Your Arms」を発表したりしています。
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彼女の精神は非常に「危うい」。ローマ法皇の写真を破り捨てた事件(中絶に反対するカトリックに抗議する意味だった)以外にも、アメリカ公演ではアメリカ国家を歌う事を拒否したり、レズビアンだとカミングアウトしたり、離婚したり、そのくせ女性司祭になるなど、その遍歴を見るだけでも彼女の「危うさ」が分かります。
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「危うさ」という点ではフィオナ・アップルにも同じことが言えるが、内へ内へ向かうフィオナ・アップルと違い、シネイド・オコナーは結構対外的。外へ外へ向かっています。ここが2人の決定的な違いであり、個人的に今のシネイドを評価する点です。2004年に発表されたアルバム「Collaborations」(今までシネイドが他アーティストに参加したり、関わってきた曲を集めた編集盤)を聴くと、U2Massive Attack、そしてPeter GabrielMobyAsian Dub Foundationなど錚々たるメンツと彼女は関わってきた事が分かります。

f0045842_23131125.jpgさてオリジナル作品としては2000年の「Faith And Courage」以来7年振りとなる新作「Theology」。基本的に彼女の音楽はデビュー当初から大きく変わってはいない。この新作もアイルランドの伝統音楽や教会音楽の要素をふんだんに含んだ透明感のあるトラッド・サウンドは健在ですが、シネイドの声は以前のそれとは大きく違っている。母性を感じさせるようになったその逞しい声は更に表現力を増しています。

今回のアルバム「Theology」では面白い趣向がなされています。2枚組となっているアルバムですが、それぞれの1枚ごとにサブタイトルが付けられている。1枚目には「London Sessions」、そして2枚目には「Dublin Sessions」と名付けられているわけですが、実は収録曲はほぼ同じ。「London Sessions」は様々な楽器、プログラミング、そしてオーケストラを使った何ともカラフルで豪華なサウンド。一方の「Dublin Sessions」は同じ曲をアコースティック・ギターとシネイドの声だけで録音したアンプラグド盤になっている。
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どちらのサウンドも優劣付けがたい素晴らしいものですが、個人的にはシンプルなサウンドでシネイドの美しく力強いヴォーカルが堪能出来る「Dublin Sessions」が良いですね。

実はこのアルバム、当初はアコースティック盤のみでリリースされる予定だったのですが、プロデューサーでもあるロン・トムシネイドの声の素晴らしさに感動し、シネイドを説得してこの「London Sessions」のヴァージョンが録音されることになったそうです。
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収録曲は自身のオリジナル曲以外にもカーティス・メイフィールドWe People Who Are Darker Than Blue、レゲエのクラシックRivers Of Babylon(映画「The Harder They Come」のサントラにもThe Melodiansの歌うヴァージョンが収録されていました)といった名曲カヴァーも入っています。両曲ともにシネイド色に染まった素晴らしいカヴァーになっています。(彼女自身のオリジナル曲がアイリッシュ感漂う素晴らしい出来なのは、今までの彼女の作品に触れた事のある人なら想像出来るでしょう。)

日本盤にはボーナス・トラックとして更に6曲のライヴ音源が収録されてるのでオススメ。レコードで聴く以上にシネイドのどっしりとした逞しさを感じることが出来るでしょう。
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今のシネイド・オコナーにはセンセーショナルさも、エキセントリックさも、斬新さありません。しかしそんな今だからこそ彼女の本当の姿に触れる事が出来ます。そこで触れられる彼女の姿は真の意味で孤高のアーティストだ。流行とは無縁の音楽だからこそ、この作品は後世になっても静かに聴き続けられる作品になるでしょう。
 
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by Blacksmoker | 2008-03-24 00:36 | ROCK

CAROLINA CHOCOLATE DROPS [Heritage]


ノース・キャロライナのピードモント出身のアフリカン・アメリカンの男女3人によるストリング/ジャグ・バンド、Carolina Chocolate Drops。なかなかライブが面白そうなバンドだが、まだまだ日本では体験出来そうにないようだ。彼らのライブ・スケジュールは既に2009年までいっぱいだ。
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Yonder Mountain String BandAsylum Street Spankersなどこの手のバンドはライブが最高に上手い。このCarolina Chocolate Dropsも音を聴く限りでは生粋のライブ・バンドである事が分かります。

f0045842_1213514.jpgそのCarolina Chocolate Dropsの3rdアルバムとなる「Heritage」。「遺産」と名付けられたこのアルバムで、彼らは過去のアメリカの偉大なルーツ・ミュージックの源流まで遡る。そこにあるのはThe Carter Familyであり、Charlie Pooleであり、Jimmie Rodgersといったカントリー以前の偉人達の音楽。そして更にはその偉人達の源流が黒人によるものだと言っているようにも思えます。

5弦バンジョーやフィドルを操り男前な声で歌う女性リアノン・ギデンスを中心に据え、フィドルとボーカル担当のジャスティン・ロビンソン、そしてパーカッション担当のドン・フレモンズという男2人が両端を固める編成で、この3人が見事な演奏のアンサンブルを見せてくれます。ボーカルも三者三様。時折見せる3人のボーカル・ハーモニーも素敵です。
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彼らが旅で出会った曲、古いレコードから教わった曲などを中心に20年代~30年代のブルースやスピリチュアル(ゴスペル)の曲を取り上げています。その曲達が時を越えて現代で演奏される事により、新たな生命を持った曲として新鮮に響きます。
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何よりも感情を大きく刺激してくれる楽曲が良い。特にブルーグラス的なアップテンポな曲では自然と体が動く楽しさが満載。哀愁のある曲ではフィドルやバンジョーの響きが心に染み入ります。そして目線は徹底して庶民レベル。小難しい事を抜きに嫌な事を忘れて、ひと時を楽しめる素敵な音楽です。このアルバムのサウンドがスピーカーから流れ出ると時間の流れが穏やかになるように感じます。
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終盤のBanjo Dreams/Jalidongではリアノンの姉によるポエットリー・リーディングと共に爪弾かれる2本のバンジョーの弦の優しい響きが印象深い。

その中の一節はこうだ。

In my dream
Street corners are filled with groups of little Black boys and girls
Throwing down their basketballs and bookbags
To make up string band quartets
paying homage
To those earliest of doo wop pioneers


とても素敵な詩ですね。彼らが夕陽の沈むミシシッピの自宅の庭で演奏している姿が目に浮かびます。
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遥か昔に忘れ去られた昔の曲が、若いアフリカン・アメリカンによって新たに息を吹き返して現代に蘇ります。こうやって、これらの歌は時を越えてまた未来へ歌い継がれていくのですね。
 
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by Blacksmoker | 2008-03-21 00:58 | COUNTRY / BLUEGRASS

池田亮司[datamatics ver.2.0 完全版] @伊丹アイホール 3/13(木) 2008


佐々木敦は自身の著書「ex-music」の中でこう評している。

池田亮司によって凡百のミニマル・テクノは全て時代遅れになってしまった。

既成音楽概念を新たなフェーズに到達させたテクノイズ・ミニマリスト。現代音楽界の中でも極北を進む電子音楽家、池田亮司。彼の創り出す音は一切の人間的感情を排除したデータに依存したコンピューター上にのみ生まれる。サイン波、電子パルス音、振動波、高周波ノイズ、そして大音響のハーシュノイズが一見無秩序の集合体に見えて実は全てが計算式の上に成立している。
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そしてその音に合わせて展開される映像は、ドットとライン、数字、記号による、これもまたデータのみで構成されるモノクロームのデジタル画像。そしてそのデータの量たるや、人間の知覚可能領域を超えた尋常ではない量で構成され、人間にとってそのデータ映像を観るという行為は、一切の思考停止という状態に陥るという事と同義と言える。「量」を極めきった故に出現する崇高な「質」なのだ。
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その池田亮司の久々の新作公演となるdatamatics [ver.2.0] 完全版。フランスのジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センターと、日本の山口情報芸術センターによる共同委嘱datamaticsの完全版の関西初公演となります。

そもそもdatamaticsとは、『情報として立ち現れる膨大な知覚不可能なデータを素材として、実在の抽象的な捉え方を探求する』プロジェクトであり、2006年3月にヨーロッパでdatamatics[prototype]として初めて上演された作品。そしてその最終進化型が今回のdatamatics [ver.2.0] 完全版となる。第1部と第2部で分かれ、第1部にdatamatics [ver.2.0] 完全版、そして第2部は完全なる新作という構成。
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会場には途轍もなく巨大なスクリーン。そして両端に設置された巨大な音響システム。今回の公演には設計段階から池田亮司も参加するパフォーマンス集団Dumbtypeのメンバーが関わり音響や視覚効果を綿密に計画したそうです。
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いよいよ全貌を現したdatamatics [ver.2.0] 。最初から膨大なるドット、記号、文字列による映像。その圧倒的なデータ量は、2001年の作品「formula」と比べるとそのテクノロジーの進歩の差は驚くほどに一目瞭然。そして不規則ながらも実は非常に規則的なグリッチ音や電子パルス音、そして会場全体の床が振動する低音など様々な電子音が神経系を刺激する。それは不可避の体験であり、我々はまさしく池田亮司の実験体だ。
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太陽を囲む膨大な数の衛星の存在をコンピューター上に現出させ知覚化させたもの、そして既知の数式で出来た数字の羅列を形式化したもの(もしかしたら円周率の具現化?)、さらに遺伝子(またや菌のような)ミニマルの集合体を具現化したもの(パリの建築家チーム「R&Sie(n)+D」の作る映像と似ている)など、様々な映像が展開される。
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datamaticsとは、おそらく実社会で我々が知覚している「物」が全ては数式という法則によって成り立っている事を証明している作品ではないだろうか。我々が感受しているものは、そのありえない程膨大な数式や記号、データの組み合わせの上に奇跡的に存在するという事を極限的な方法論によって提示してみせているのだ。そしてこれは引いては人間の可能性の示唆でもある。datamaticsというのはそのような意図によって成立している装置とも言えるだろう。
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そしてもう一つ、今回のdatamatics [ver.2.0] 完全版において強く感じたことは、この作品が人間的感情を一切排除したデータに依拠した作品にも関わらず、その実は非常にエモーションを備えた作品として成立している事。ストーリー性を感じさせる映像、そしてクライマックスを迎えるノイズの洪水など、池田亮司という人間の感情・意思がデータの海の中に非常に顕著に表れていた事も特筆しておきたい。
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by Blacksmoker | 2008-03-18 00:15 | ライブレポート

LUCIANO [Jah Is My Navigator]


f0045842_1517578.jpg昨年9月に愛知万博記念公園で行われた「Reggae X-Plosion 2007」においてヘッドライナーで登場し、その堂々たるステージを披露してくれたルチアーノ(意外にもアクティヴなステージングに驚きました)。ダンスホール全盛の時代においてもラスタファリズムを貫くその真摯な姿勢、そしてその優しい歌声。ジャマイカにおいても最大級のリスペクトを受けるシンガー、ルチアーノ。その彼の1年振りの新作「Jah Is My Navigator」が登場です。

今回のこの新作の話題は何と言ってもディーン・フレイザーとのコンビの復活です!

個人的に昨年出た若手ラスタ・シンガーのアルバムの中でもかなり素晴らしい出来を誇ったのが、トーラス・ライリー「Parables」デュエイン・スティーヴンソン「From August Town」の2枚のアルバム。この2枚のアルバムをプロデュースしていたのがジャマイカ・レゲエ・シーンの名サックス・プレイヤーであるディーン・フレイザー(下写真)でした。
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人間味溢れる素晴らしいメロディのサックスで昨今のワンドロップなルーツ・ロックの礎を築いたと言っても過言ではないでしょう。日本のレゲエ界にも多大な貢献をしておりRYO the SKYWALKERSeize The DayPUSHIMForeverAnything For Youなどの印象的なサックスもこのディーン・フレイザーによるものです。彼は名サックス・プレイヤーというだけでなく、歌心溢れるメロディアスな曲を作るプロデューサーでもあります。

このディーン・フレイザールチアーノのタッグとf0045842_15242169.jpg言えば、やはり2004年にリリースされたレゲエ界に燦然と輝く名盤「Serious Times」(左写真)。今でもこのアルバムからのGive Praiseはレゲエの現場では定番のビッグ・チューンです。昨年の「Reggae X-Plosion 2007」ルチアーノのステージでもディーン・フレイザー率いるJah Messenjah Bandがバックを務めていましたね。もはやディーン・フレイザールチアーノの魅力を最も上手く引き出す人物と言っても良いでしょう。

さてレゲエ界を代表する真摯なラスタ・シンガーであるルチアーノ、そしてレゲエ界で最も歌心のある曲を作るディーン・フレイザーという2人の久々のタッグによるこの新作「Jah Is My Navigator」。結論から言うと、これは「Serious Times」を超える傑作です。この2人の化学反応の素晴らしさはやはり別格。2008年のレゲエ界を代表する1枚になる事はマチガイナイですね。
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ルチアーノの高音域から中音域を自由に行き来する安定感抜群の伸びやかな歌声はやはりハンパなく上手い。トーラス・ライリーデュエイン・スティーヴンソン、そしてラス・シャイローリッチー・スパイスなど若手シンガーの台頭が目立っているが、声の伸びという点ではルチアーノの方が遥かに格上だ。
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そして曲の方も粒揃いの楽曲ばかり。女性コーラスを配した曲が多く、とてもメロディアス。Jahへの信仰を高らかに歌い上げています。ますます冴えるメロディアスなディーン・フレイザーの楽曲はホント素晴らしいです。そして面白いのが、先のトーラス・ライリーデュエイン・スティーヴンソンの両名が揃って自作の楽曲を提供している事。特にトーラス・ライリー作曲のJah Is My Navigatorなどはまさしく会心の出来のクラシックです。デュエイン・スティーヴンソン作曲のアコースティックで物悲しいDarknessなども彼の得意とするバラードだ。

さらにもう一つの注目はBlacksmokerがレゲエ界で最も好きな男ピーター・トッシュI’m The Tuffestのカヴァーです。1978年のアルバム「Bush Doctor」の中に収録されている名曲(綴りはToughestですが)をカヴァーしているわけですが、この曲で共演しているのがそのピーター・トッシュの息子アンドリュー・トッシュ(下写真)!
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ボブ・マーリィ、そしてバニー・ウェイラーと共にオリジナル・ウェイラーズとしてレジェンドである父親の声と瓜二つの歌声でコーラスを歌っています。このそっくりぶりにはホント驚き。最初はサンプリングかと思ったくらいです。これは注目の1曲でしょう。

その他にもボブ・マーリィの初期の曲Jah Liveのカヴァーも収録。レゲエ以外にも女性シンガーRochelle Bradshawを迎えたアコースティックでR&BなParadise Lastや、ピアノをバックに優しく歌い上げるHard Herbなどなかなかバラエティに富んでいます。
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ルチアーノのキャリアの中でも最高傑作として認められる作品であり、2008年のレゲエ界においても重要作品となるこの「Jah Is My Navigator」。是非ともチェックしてみて下さい。
 
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by Blacksmoker | 2008-03-14 00:43 | REGGAE

LIZZ WRIGHT [The Orchard]


静かな大海にたゆたうような深い深い歌声。

現在28歳という若さながらここまでクールで凛とした声を持つシンガーも珍しい。ただ低い声というだけでなく彼女の声には精神的な深遠さを感じる。この声の圧倒的な存在感を超えるのは、もはやカサンドラ・ウィルソンくらいではないだろうか。

f0045842_459642.jpgリズ・ライトの2年振りの新作となる3rdアルバム「The Orchard」。綿花畑にひとり佇むジャケットから連想されるように、今作はアメリカ南部への傾倒を更に推し進めたサウンドになっている。R&Bやジャズというよりもアメリカン・ルーツ・ミュージックに近づいた形だ。

前作に続き、今作においてもプロデュースを務めるのはクレイグ・ストリートリズ・ライトの1stアルバムと2ndアルバムの音楽的変化は彼の手腕によるものだと言っても過言ではない。この3rdアルバムでもその手腕は遺憾なく発揮されているが、今回は別のベクトルで存分に発揮されている。
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この新作でリズ・ライトはジャズの持つ都会的なクールさを感じさせるシンガーから、自身のルーツである南部のゴスペルを生んだ広大なアメリカの大地に根差すどっしりとした佇まいも兼ね備えたシンガーへと成長した。ルーツ・ミュージックからジャズへと進むシンガーは多いが、ジャズからルーツ・ミュージックへ進むリズ・ライトのようなシンガーは少ないので、この進化はなかなか興味深い。今作において彼女自身による作曲が増えているのもその変化の要因の一つだ。このサウンドこそが本来の彼女のやりたかった音楽なのでしょう。しかしこの表現力の豊かさには比類なき迫力がある。
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その中でリズ・ライトを作曲面でサポートしているのが、アニー・ディフランコのレーベル「ライチャス・ベイブ」所属の巨漢女性シンガーソングライターのトーシ・リーゴン(左写真)。NYで活動する黒人シンガーソングライターであり、今までに何枚ものアルバムもリリースしている実力派で、アルバムの大半をリズの共作者としてクレジットされているだけでなくギターやコーラスでも参加していf0045842_573881.jpgるので、彼女の色がかなり出ているアルバムだと言える。1stシングルとなったMy Heartのブルーズ・フィーリングが前面に出た曲や、スローでスピリチュアルなゴスペルWhen I Fall、そして雄大な弾き語りSong For Miaなどなどその曲調の幅は広いが、その滲み出る南部のフィーリングは全ての曲において一貫している。

アルバムに参加しているゲスト陣も今回のアルバムのコンセプトであろう「南部への回帰」に合わせて集められたような人選。ボブ・ディランのバンドでギタリストを務めるラリー・キャンベルや、Calexicoジョーイ・バーンズジョン・コンヴァーティノ、そしてOllabelleのキーボーディストのグレン・パッチャなどルーツ系のミュージシャンが随所で味のあるプレイをみせてくれています。特にHey Mann(この曲はトーシ・リーゴンの母親のバーニス・ジョンソン・リーゴンが1972年に書いた曲だそうだ)でのラリー・キャンベルのペダル・スティールの音は絶品の一言です。
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今回のアルバムではカヴァー曲の素晴らしさにも触れないわけにはいかないでしょう。まずはアイク&ティナ・ターナーI Idolize You。ブルーズ・ギターが唸るヘヴィな曲に仕上がっています。そしてもう1曲はレッド・ツェッペリンThank You。曲目だけ見ると意外な感じがしましたが、聴いてみるとアコースティック・ギターとピアノの音によるルーツ的な仕上がりで納得の出来。これはロバート・プラント&アリソン・クラウスが昨年出した「Raising Sand」の世界と共通していますね。
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そしてカントリー・シンガーのパッツィ・クラインStrangeのカヴァーも。静かで雄大なこの曲の美しさと儚さと言ったらどうだろう。先日たまたま雪の降る夜中にiPodでこの曲を聴きながら歩いていたら、あまりにもそのシチュエーションとこの曲のイメージがぴったり過ぎて思わず感動してしまいましたよ。

そして最終曲として収められているのは、ザ・バンドの名曲It Makes No Differenceのカヴァー。これもペダル・スティールの音が素晴らしく郷愁を誘うゴスペル的な仕上がりで必聴です。
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深遠で表現豊かなヴォーカリストとしてアメリカを代表するアーティストとなったリズ・ライトのアルバム「The Orchard」。特に終盤にかけての素晴らしさは特筆ものです。是非とも今聴いておくべき1枚だと思います。
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by Blacksmoker | 2008-03-10 00:31 | R&B / SOUL

Bjork @ 大阪城ホール 2/25(月) 2008 


ビョークのライヴは毎回知覚の扉を新たに広げるアイディアが満載だ。
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毎回アルバム発表後に行うツアーには同じものが一つもなく、お金とアイディアを注ぎ込んだそのスペクタクルなライヴは未体験の人は一見の価値があります。

さて今回は昨年にリリースされたアルバム「Volta」に伴うツアー。ティンバランドなどの先鋭的ビートや、Konono No.1トゥマニ・ジャパディなどのアフリカ大陸からの刺激的なサウンドなどを導入しまさしく時代の最先端を行きながらも、Lightning Boltの超絶ドラマーのブライアン・チッペンデイル、そしてこちらも超絶なNYのドラマー、クリス・コンサーノといったアンダーグラウンドのクセモノ達も抜かりなく押さえたこの「Volta」において相変わらずの先見性を見せ付けています。(ちなみに先鋭的なサウンドをいち早く導入し世界に提示するのがビョークで、そのサウンドがある程度浸透して全く先鋭的でなくなった頃に世界に提示してくるのがマドンナです。)
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そんな「Volta」ツアーをサポートするのは、もはやビョークのライブには欠かせない存在のマーク・ベルLFO)。個人的には初めてビョークのライブを観たのが98年のフジ・ロックで、そのステージにもマーク・ベルはいましたね。そのマーク・ベルが今回もエレクトロニクス全般の機器を操っていました。そしてもう1人のエレクトロニクスを担当するメンバーとドラマー、そしてキーボーディストが参加。ドラマーはアルバムにも参加していたクリス・コンサーノジム・オルーク恐山にも参加していた鬼才)。そして地元アイスランドからはド派手な衣装に身を包んだ10人の女性ブラス・セクション隊を従えた布陣です。ステージ後方には旗が掲げられステージ全体が一種の祝祭的ムードです。
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ブラス隊のマーチングと共に登場したビョーク。こちらもド派手な衣装(おそらく有名デザイナーが手掛けたと思われる)に身を包み、額にはカラフルなペイントを施しています。

1曲目のEarth Intrudersから民族音楽と最新エレクトロニクスが渾然一体となったサウンド。今までのどのツアーよりもカオス度が高い。「Volta」からの曲が多いと思いきや、意外にも過去の代表曲満載のセット。
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しかしビョークのライブというのは過去の曲でもオリジナル音源とは全く違った姿で披露されるので面白い。2曲目となるHunterも同様で、オリジナル音源とは違った音になっています。

聴覚的にも十分に面白いのですが、おそらくビョークが最もこだわっているのが視覚効果でしょう。最新エレクトロニクス器材を駆使しまくっています。特に目をf0045842_22284724.jpg引いたのはReactable(右写真)。次世代シンセサイザーのインターフェイスとして登場してド肝を抜いたこのReactable。発光する大きな円テーブルの上にハコ状の物を置くだけでパルス音が鳴り、そのハコを回転させたり移動させたりするだけでパルスの音が変わる特殊なシンセサイザー。音そのものよりやはり見た目がカッコイイのがこのReactableの特徴です。スクリーンに大写しされるこのReactableの映像はかなり視覚効果抜群です。

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そしてもう一つ目を引いた最新テクノロジーが、今超f0045842_22293539.jpg話題のTenori-On(左写真)。日本人クリエイター岩井俊雄とYAMAHAが開発した(なのに日本ではまだ発売されていない・・・)次世代インターフェイス。30センチ角パネル盤にLEDライトが埋め込まれていて、その盤に触れると音が鳴り、音色が変わっていく電子楽器でこれも視覚効果は絶大。他にもKaoss PadやLemurを使っていたりと、時代の先端を行くビョークならではのライヴ風景です(してやったり顔が目に浮かびます)。

ちなみにこれらの電子楽器は、「楽譜など読めなくても直感的に演奏する事ができる」というのがコンセプトにある楽器であり、それを駆使しているのがビョークというのが、とても象徴的ですね。後世に、楽器演奏の歴史を振り返った時にこのビョークのライヴは一つの演奏概念の転換期となったものとして記憶されるものになるんじゃないでしょうかね。

そしてライティングもかなり凄い。会場の後方まで緑のレーザー光線が四方八方に飛ぶその壮大なライティングもかなり視覚効果抜群。
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最近はよくこのライティングは目にする機会が多くなりましたが、日本において初めてこのレーザーのライティング・システムを導入したのは2005年のフジロックでヘッドライナーを務めた時のFoo Fightersだそうです。あの霧のかかった遥か遠くの山々まで照らし出した凄いライティングを憶えている人も多いでしょう(下がそのフジロックの時の写真)。
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今回はそのライティングがホールの天井を照らし出し大きな会場が小さなホールのような感覚になりましたね。

さて本編に戻ると、後半にかけての名曲のオンパレードに会場中が熱狂していたと言っても良いでしょう。全く姿を変えたArmy Of MeI Miss You、そしてアルバム「Medulla」の中で最もキャッチーだったWho Is It、そしてイントロだけで鳥肌の立つHyperballad(途中でLFOFreakが挿入されてました!)、そして不穏極まりない機械的なビートとライティングがまさしくカオスなPlutoなど強力過ぎるラインナップ。会場総立ちのスペクタクル・ショーでしたね。
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アンコールはOceaniaDeclare IndependenceDeclare Independenceではビョークがパンク・バンドのボーカルのように「Raise Your Flag!!!」と連呼してアジテーションしまくり、ストロボ・ライトのハレーションや紙吹雪が乱れ飛ぶそれはそれはカオスな状態での大団円でした。

ビョークの過去のどのツアーと比べても、最もド派手でクリエイティヴさが前面に出たライヴでしたね。使用する電子楽器、ライティングなどかなり刺激的で、知覚・聴覚共に新たな扉を開くには十分過ぎる程のショーでした。
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また次のツアーでは常人の想像の上を行く刺激的なステージで魅了してくれることでしょう。
 
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by Blacksmoker | 2008-03-07 00:53 | 金の亡者