FENNESZ [Black Sea]


f0045842_1392956.jpg「Endless Summer」(2001年)、そして「Venice」(2004年)。フェネスはどこか儚くも美しいものをそのグリッチ・ノイズで表現してきましたが、久々となる今回の新作のタイトルは「Black Sea」。今までの美しいイメージとは一転して「広大で不気味なもの」をモチーフにしている。

そして今作は非常に政治的である。タイトルの「Black Sea」とは、ジャケットに写る「黒海」の事。昨年からこの海の沿岸ではロシアがグルジアに侵攻し全面戦争となっている(1曲目Black Seaの冒頭にはカモメの鳴き声と共に砲撃の音が聴こえる)。さらに最終曲のタイトルSaffron Revolution。これは2007年のミャンマー軍事政権に対する僧侶による反政府デモ「サフラン革命」の事だ。今回のフェネスは、今までの抽象的な音像表現と違い、そのサウンドに具体的な意思を表明している。
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この変化はおそらく坂本龍一からの影響だろう。

2006年の青森県六ヶ所村の核燃料再処理施設建設に反対する「Stop-Rokkasho」プロジェクトに坂本龍一(下写真)やShing02と共に参加したフェネス。それ以降も教授との関わりは深く2007年には「Fennesz + Sakamoto」名義でEP「Sala Santa Cecilia」、そしてアルバム「Cendre」をリf0045842_1472868.jpgリース。さらには2008年のYMOの海外ツアーに同行したりもしている。そして、何とこの新作「Black Sea」はその坂本龍一の立ち上げたレーベル「Commons」からのリリースなのです(3月にリリースされる教授の新作にも参加しているみたいですね)。今回の新作の内容が、地球規模の環境問題や戦争へのプロテスト運動(アメリカのアフガニスタン空爆への反対運動や、地雷撤廃運動などなど)の先導に立つ教授から多分に影響されているのは間違いないでしょう。抽象的なものを表現するフェネスのサウンドに明確な意思が盛り込まれたのは非常に大きな変化といえる。
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そして今作は以前の作品に比べて、よりクリスチャン・フェネスという1人のギタリスト的な側面も垣間見せているのも特徴だろう。たしかにフェネスはラップトップ・ミュージックに移行するまではウィーンでロック・バンドのギタリストだった経歴があるし、2004年に京都メトロで私が初めて観たフェネスのライヴ(共演はRadian)はMac G4にギターをそのまま差して演奏していてとても印象的でした。前作「Venice」ではLagunaという曲でギターのソロ演奏が聴けたのみでしたが、今作では全8f0045842_151476.jpg曲中、Black SeaPerfume For WinterGrey Scale、そしてGlass Ceilingの4曲でギターの演奏(もしくはサンプル)が聴ける。ただその音は「Endless Summer」であったようなメランコリックなアコースティック・ギターの音色ではなく、どこまでもモノクロームなドローン色の強いギターの音色。アルバム全体を通してもモノクロームな印象が強いです。

基本路線はあまり変わりませんが、今回はテーマに沿ってかその空間を埋め尽くすグリッチ・ノイズにもまるで近代の巨大建築物のような荘厳さが加わって圧倒的な存在感で迫ってきます。そして隙間を活かした曲ではよりアンビエント色が増しています。Glass Ceilingの透明感のあるノイズの洪水、そして終曲Saffron Revolutionでのゴスペル的ともいえる荘厳なノイズは時間を忘れてしまうほどの美しさです。
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「Endless Summer」の登場以降、グリッチ・ノイズがメロディを構成する主要な要素となるのがもはやスタンダードとなった音楽界。その先駆者とも言えるフェネスは、この新作で明確な意思を内蔵したグリッチ・ノイズを構成することで更なる高みに昇ったと言えるでしょう。サウンドだけでなくCDジャケットの写真からインナーの写真、そしてアナログ盤のジャケットに至るまで非常に力強く、そして美しい作品だ。素晴らしい。

ちなみにこの作品はカーボン・オフセットCDだそうです。
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by Blacksmoker | 2009-02-19 01:03 | ELECTRONICA
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