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V.A. [People Take Warning! Murder Ballads & Disaster Songs 1913 -1938]



2010年1月12日に起こったハイチ大地震。これにより20万人とも言われる死者が出ていると言われている。
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その地震から11日後の1月23日に様々なミュージシャンや俳優が集まり「Hope For Haiti Now」というチャリティが行われた。その中でU2のボノジ・エッジ、そしてJay-ZリアーナによってStrandedという曲が発表され歌われた。

思えば人類は遥か昔から何度も天災や災害に見舞われ、その都度そこから立ち直ってきたわけです。そして、どの時代でもそういった状況に置かれた人々の心の支えになったのは「」でした。人々は歌う事によって苦しみや悲しみを乗り越えてきたのです。

天災や戦争や災害が起こるたびに人々は歌によって自分達を勇気付けたり、その歌から人生の教訓を学んだりしました。そしてその歌は、時代が変わっても、その時によって歌詞を変え、意味を変え、後世の人々に歌い継がれてきたのです。

例えば「Hope For Haiti Now」のコンサートでブルース・スプリングスティーンによって歌われたWe Shall Overcomeは1960年代のアメリカの黒人の公民権運動の歌だし、メアリー・J・ブライジによって歌われたHard Times Come Again No Moreは1854年に書かれた南北戦争の歌だったりします。時代は違えど、そこに内包されるメッセージは人々に勇気を与えるものなのです。

最近でも我々は様々な天災や災害を目の当たりにしています。2004年のスマトラ沖地震、2005年のハリケーン・カトリーナ、そして阪神大震災など・・・。そしてそこには必ずと言っていいほど歌が生まれています。まさしく災害の歴史は、ディザスター・ソングの歴史でもあるのです。

さて本日紹介するのは、ニューヨークのTompkins Square Recordsから2007年にリリースされた3枚組BOX「People Take Warning! Murder Ballads & Disaster Songs 1913 -1938」(下写真)。
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これは1913年から1938年の間(要するにアメリカの大恐慌時代)にリリースされたディザスター・ソングを集めたもので、さらにはタイトルにもあるようにディザスター・ソングだけではなく、その時期に起こった殺人事件の歌(マーダー・バラッド)なども収録されています。全70曲中、30曲以上がこのBOXによって初めて公開される音源だそうです。ちなみに表紙の絵は1912年のタイタニック号の沈没が描かれています。

3枚のCDは、それぞれテーマ別に分けられており、

Man V Machine ⇒事故や災害
Man V Nature ⇒自然災害
Man V Man (And Woman, Too) ⇒殺人

と、なっている。

48ページのブックレットが付いてるのですが、これが秀逸で、1曲1曲について解説や災害の詳細、さらには当時の写真などが載っています。
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1曲目のタイタニック号沈没を歌ったHi Henry Brown & Charlie JordanTitanic Bluesから始まり、飛行機事故や列車事故の歌、そしてミシシッピ大洪水(下写真)、さらにはイナゴの襲来や、嵐、竜巻、堤防の決壊、大火災、干ばつ、大地震など様々なディザスター・ソングが収録されています(ちなみにタイタニック号沈没を歌った曲が5曲くらいあって、いかに当時この事が人々に衝撃を与えたのかが分かります)。
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その他にも最近の我々にも共通する話題であろうインフルエンザ大流行を歌ったElder CurryMemphis Fluなどもあります。Led Zeppelinがカヴァーしたことで有名なWhen The Leeve Breaksの元曲(Kansas Joe & Memphis Minnie)そして最後は実名入りのマーダー・バラッドが満載です(イントロダクションの文章はトム・ウェイツが担当しています)。
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面白いのはその歌詞にも見受けられる。キリスト教的世界観による思考が我々日本人とはかなり異なっている。マーダー・バラッドはともかくとして、やはりディザスター・ソングなどでは「こういう災害にも負けず、立ち上がろう」という内容よりも、「これは神が我々に与えた試練なのだ」という内容のものが多い。
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昔の日本でも「他力本願」という思想があったが、これも「極楽浄土に行けないのは、仏様への祈りが足りないから」だとする考え方で、思想的には共通するものがあるかもしれません。ただひたすらに救済(Delivarance)の時を待つ無力な人々の心が聞こえてくるようです。


ブルース・スプリングスティーンがアルバム「We Shall Overcome」をリリースした時にこういう事を言っていた。

素晴らしい曲でもいつかは忘れ去られていく。新たな文脈を与えられずに忘れられていく曲もある。現代に当てはめると生き返る曲もあるのに歌われないままなんだ。歌に込められた魂や生き様を忘れたままにしたくない。
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さらに、ボブ・ディランも最近のアルバムでは、昔のブルーズのメロディや歌詞を彼なりに曲に盛り込んで伝承してしている。そこには昔の曲の中にあるメッセージを後世に伝えていこうという使命感が感じられる。ブルースディランのこの使命感は、このボックスが作られた意図とも共振するものですね。
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この「People Take Warning! Murder Ballads & Disaster Songs 1913 -1938」を聴いて、我々はこの災害から立ち上がる勇気、そして人生の教訓を学ばなければならないですね。


   
by Blacksmoker | 2010-02-02 01:47 | GOSPEL
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