「かなり凄いところまで来ちゃったなぁ・・・」 これが第一印象。
フランス国籍の女性ベーシスト。ミシェル・ンデゲオチェロは今までアルバムを発表するごとに様々な音楽性を提示してきた。ファンクやR&B、ダブなどアルバムごとのカラーは多種多様。まるでカメレオンのように変化する彼女の音楽ですが、一本ぶっとい芯の通った力強さが、どこで演奏しても必ず彼女の音というものが自己主張します。 さて前作ではフリージャズ・プロジェクトまでも始動させた彼女ですが、今回リリースされた新作「the ARTICLE 3 EP」では、更に形容しがたい音楽になっています。これは2007年にリリースされる新作からの先行EPという形だそうだ。しかしこの5曲入りのこのEPの内容の濃さと言ったら普通じゃない!この調子だとアルバムはとてつもない領域に達してしまっているんではないだろうか・・・。 まずはオープニングを飾る1曲目「Haditha」はイスラム教の導師Hamza Yusufの演説をサンプリングした小曲。妖しく響くギターを弾くのはブランドン・ロス!! カサンドラ・ウィルソンのバックで来日した時に観た、あの静寂を細い針で貫くかのように切り込ませるギターが印象的な人でしたが、彼の参加はおそらく前回のジャズ・プロジェクトからの繋がりでしょう(先日リリースされたばかりのブランドン・ロスのソロ最新作「Puppet」は超傑作なので必聴)。小曲なので、ギターは目立っていませんが彼はまた後でも登場します。 2曲目「THE SLOGANEER」はドラムンベースのリズムのドラムマシーンと、Deantoni Parksの叩くドラミングが見事に融合しぶっ飛ばす曲(もしかしたらドラムは一人でやってるかもしれない。スネアの音がやけに無機質)。そして最近はジャズなどやっていてあまり歌声を披露していなかったミシェルのハスキーでソウルフルな声が久々に聴けます。そしてベースが凄い!うねりまくる、うねりまくる。しかもジャズじゃなくて完璧にロックなベースライン!コレ、まんまルート弾きじゃないですかね。音が割れてますよ。かなり珍しいハードな曲です。中盤から後半にかけてのドラムとベースのインプロの応酬がハンパなく凄い。ベース音が途中からもう判別不能な異様な音を出しています。 嵐のような「THE SLOGANEER」が終わると、3曲目は非常に美しい「Shirk」。2本のアコースティック・ギターの弦の絡みが美しい。サリフ・ケイタの最近の音にも共通する弦の「鳴り」を強調したアコースティック・サウンド。この印象的なギターを弾くのがパット・メセニー!なんか凄い人選ですね。曲者揃い。 そしてこのアルバムのハイライトでもある4曲目「Article 3」。これは壮絶です。最初聴いた時はすぐに理解出来ませんでしたね。頭の中に「?」が連発される複雑怪奇な曲。30回くらい聴いてやっと曲の構成が掴めてきたくらいです。ドラムマシーンの規則的なリズムをバックにThandiswa Mazwaiという女性ヴォーカルがアフリカ色濃厚な叫び声を聴かせる一方でミシェルが地に着いたどっしりした声を聴かせます。パンクのように荒々しい曲。知らない間にドラムが生ドラムに代わって、唐突にリズムが不規則になる予測不能な展開を見せます。タブラなどのパーカッションが飛び交い、Konono No.1で有名なあのリケンベの歪みまくった音まで入ってきます。ファズをかけたベースがギターのように突き進むもう唯一無二のミシェル・ンデゲオチェロのカオスな世界が展開されます。そんなカオスの中、終盤でまたもやパット・メセニーの鳴くような高音のギターが入ってきます。まったくもってよく分かりません。一聴しただけでは脳がついて行けず理解するのに苦しみましたね。何度も聴いてチャレンジしてみて欲しいです。 最終曲「Elliptical」はSy Smith(下写真)のセクシーな歌声のfeat.した宇宙空間に漂うようなスペーシーなマシーン・ファンク。ミシェルの歌声との掛け合いが良いですね。機械が喋るような加工されたヴォーカルが入ってきて宇宙的な雰囲気を持った静かな1曲。その静寂を切り裂くように曲の最後になぜかコルネットの音が入ってきます。このコルネットを吹くのがなんとグレアム・ヘインズ!最後の一瞬ですよ、出てくるのは!何なんだ一体?そして再びブランドン・ロスのギターのフレーズが入ってきてフェードアウトしていきます。 実はよく聴かないと分からないんですが、この最後のギターの音が、1曲目の最初のギターの音に繋がっていてこのEP自体がエンドレスにループしているという凝った構成になっています。さすがです。
by Blacksmoker
| 2007-01-14 00:02
| JAZZ
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