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KAREN DALTON [In My Own Time]

60年代後半~70年代前半に活動した伝説的な女性フォーク・シンガー達に共通している性質は、「エキセントリック」か「ジャンキー」です。

やはり常人とは違った感性を持ち、ちょっと気難しかったり、逆に繊細で壊れやすかったりする人が多いですね。それか、アルコール中毒だったり、ドラッグ中毒だったりするジャンキーな人。こういう人達の方が後世に残る傑作を残している場合が多いです。(実に興味深い話です。)

KAREN DALTON [In My Own Time] _f0045842_13344018.jpg今回紹介する2人目のフォーク・シンガーはカレン・ダルトン。この人は「エキセントリック」と「ジャンキー」の両方を兼ね備えてしまった女性。そして隠れた大名盤を2枚残してシーンから消えたフォーク・シンガーです。その彼女の1971年発表の2ndアルバム「In My Own Time」を紹介します。

彼女は1960年代前半からニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジで活動しており、この頃はボブ・ディランフレッド・ニールとも活動している。1969年にキャピトルから1stアルバムをリリースし僅かながら注目された存在ではあったようです。久しぶりにボブ・ディラン自伝「Chronicles」を読み返してみたら、第一章の中に「当時最も気に入ったのがカレン・ダルトンで、ビリー・ホリデーのような声を持ち、ジミー・リードのようにギターを弾き、そのスタイルを貫いていた」と記述されてましたね。ディランの言う通り、12弦ギターとバンジョーをもこなす才人です。
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特徴はその独特の声。甲高いハスキーなかすれた声。この時代に名盤を残した幻のフォーク・シンガー達は現世離れした天使のような声を持つ女性が多いですが、カレンは地に足の着いた人間的な声をしています。バンジョーを弾きながら歌う姿にはやはりそのルーツがアパラチアン山脈にあり事は分かり、どこかブルース的なフィーリングを感じます。フォーク・シンガーというよりブルース・シンガーに近いかもしれない。あまりカレンと似たような声のシンガーは存在しないんじゃないだろうか。サウンドは全然違うけどその存在感はニーナ・シモンとかに近いものがありますね。

KAREN DALTON [In My Own Time] _f0045842_1346276.jpgそんな才能あるミュージシャンの周りには、やはり才能ある人達が集まってきます。しかもこの時代のニューヨークのフォーク・ミュージシャンというのはある種コミュニティー的な集団を形成していたわけですから、グリニッジ・ヴィレッジ周辺のフォーク・ミュージシャンがこぞって参加しています。プロデューサーには当時ディランのバンドでベーシストをやっていたハーヴェイ・ブルックスが迎えられています。

ウッドストックのベアーズヴィル・スタジオで録音されており、サウンドはザ・バンドの1stとかに非常に近い雰囲気があります。ノラ・ジョーンズの2ndアルバムに近いサウンドとも言えます。トラデショナル曲のカヴァーや、ザ・バンドの1stにも収録されているリチャード・マニュエル作のIn A Stationのカヴァーや、スタンダード曲When A Man Loves A Womanのカヴァーも入っていますが、いずれも完全にカレン・ダルトン色に染まっています。アルバム全体に渡ってブルース的なラフなフィーリングがありますね。このアルバムは、カレンの溢れんばかりの才能が滲み出た傑作です。

しかしカレン・ダルトンは、この2ndアルバム「In My Own Time」のリリース後に忽然とシーンから消えてしまいます。実は3rdアルバムの製作にも取り掛かっていたようですが、その矢先に失踪。そして2度とシーンに戻ってくることはありませんでした。原因は重度のアルコールやドラッグの中毒だったそうだが、おそらく急激な状況の変化に耐え切れずドロップアウトしてしまったのだろう。このあとカレンはまったく音楽活動を行わず、1993年にドラッグ中毒で亡くなっています。
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実はこのアルバムですが、長年アナログ盤でしかリリースされていなかった為、ファンの間では幻の名盤として語り継がれてきたものでしたが、何と2006年に奇跡の初CD化を果たした涙モノの1枚。再発に寄せてブックレットにはレニー・ケイニック・ケイヴ、そしてディヴェンドラ・バンハートの3人がそれぞれカレンへの思い入れについて熱い文章を寄稿しています。特にそのディヴェンドラの文章にはかなりの入れ込みようが感じられ面白いです(ディランの自伝映画「No Direction Home」でディランカレンが写っている写真が出たときにディランカレンの名前を出さなかった事に怒りをおぼえたというエピソードが笑えます)。(下写真は1961年の写真。左からディランカレン・ダルトンフレッド・ニール
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長年のフォーク・ファンだけでなく、是非とも新たなリスナーに触れて欲しいアルバムですね。
by Blacksmoker | 2007-02-23 00:13 | FOLK
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