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MARY GAUTHIER [Between Daylight And Dark]


MARY GAUTHIER [Between Daylight And Dark]_f0045842_1154883.jpg前回紹介したジョー・ヘンリーの素晴らしい新作「Civilians」と同日に発売されたこのアルバム。このアルバムもそのジョー・ヘンリーによるプロデュース作品。ルイジアナ出身の女性シンガー・ソングライター、メアリー・ゴウシェの新作「Between Daylight And Dark」。現代オルタナティヴ・カントリーの名門レーベル「Lost Highway」からリリースとなるこの作品ですが、いやぁこれも素晴らしいです!

モノクロームな写真に物憂げに写るこのメアリー・ゴウシェ。あまり日本では知られてない人ですが、実はあのボブ・ディランも認める才能で、アメリカのカントリー界でも一目置かれる存在です。

さてこのメアリー・ゴウシェですが、実は曲作りを始めたのが35歳からという超遅咲き。しかもその前はアルコール中毒などにもなっていたそうで、かなりの破天荒な生活を送っていたようです。しかしこういうメチャクチャな人生を送ってきた人間が更正した時に生み出される音楽というのは実に説得力があります。人生のどん底から這い上がって来た者のみが表現出来る非常に業の深い音。ハスキーだが穏やかな声がじんわりと心に響きます。
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音楽的には、一言で言ってしまうと「カントリー」という事になるのだろうが、全くそういう次元を超越した、純粋に素晴らしい音楽を聴かせてくれます。「カントリーの枠を超えた」という点においてはまさにそのサウンドはエミルー・ハリスに近いかもしれませんが、エミルーのような色気のある女性的な声ではなく、メアリーのそのしゃがれた声にはルシンダ・ウィリアムスと同種の「やさぐれさ」を感じます。実に穏やかなんですが、実に説得力のある声。まあ普通の生活を送っている人間には絶対出せない声ですね。
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そしてこのメアリー・ゴウシェのバックを務める演奏陣の素晴らしいこと。基本的にジョー・ヘンリー「Civilians」でバックを務めていた演奏陣とほぼ同じ(ビル・フリーゼルだけはいませんが)。ヴァン・ダイク・パークスも1曲参加していますし、ラウドン・ウェインライトもコーラスで参加という、ゲストに至るまでほぼ「Civilians」と同じ布陣なので、おそらく「Civilians」と同時進行的に録音されたのでしょう。グレッグ・リースの弾くスティール・ギターも表情豊かに深くて美しいし、パトリック・ウォーレンの格調高いピアノやハモンド・オルガンの懐かしい音も実に雄大です。特に素晴らしいのはこのパトリック・ウォーレンで、ヴァン・ダイク・パークス以上に格調高いピアノでこのメアリー・ゴウシェのサウンドを更に情感豊かなものにしていますね。

とにかく「ジョー・ヘンリー・サウンド」と呼んでもいい、弦の鳴りを強調したサウンドとメアリー・ゴウシェの歌声がかなり高次元で混ざりMARY GAUTHIER [Between Daylight And Dark]_f0045842_125392.jpg合って、泣きそうなぐらい素晴らしいサウンドを聴かせてくれます。ジョー・ヘンリー「Civilians」の感動的な出来にも参りましたが、このメアリー・ゴウシェのアルバムも全くそれに退けを取らない傑作です。特にトーキング・スタイルで歌われるカントリーLast Of Hobo Kingsの素晴らしさは是非聴いてもらいたい。

正直、この作品は大々的に宣伝される事もないだろうし、話題に上ることもないだろう。だからあまり聴かれる事なく終わってしまうかもしれない。しかし、これはアメリカ音楽の懐の深さを改めて実感させてくれる作品であり、真摯なブルーズ・アルバムとも言えるでしょう。
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人々に聴かれる事なく終わったとしても、私の中には確実に深く刻み込まれる作品になる事でしょう。
by Blacksmoker | 2007-11-03 00:55 | COUNTRY / BLUEGRASS
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