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CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]


アメリカにおいて黒人であるという事はどんな意味を持つのか?

CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_13481080.jpg僕は日本人であり、日本という国に住んでいる。なので日本人ということに対してマイノリティ意識など持ったことがない。しかし多くのアメリカに住む黒人たち(もちろんアメリカ以外でも)は自国においてでさえいまだにマイノリティであり、差別の対象となったり、その人が受けるべき人生の権利でさえまともに享受できていない現状が存在しています。この作品「Never Forget: A Journey Of Revelations」はアフリカン・アメリカンというマイノリティの経験してきた不条理な歴史や文化を改めて啓蒙すると共に、現代社会へ問題提起する近年稀にみる意義のある作品と同時に、凄まじいパワーを持った作品でもあります。

さてこの作品を提唱するのがコーネル・ウェスト。彼はアメリカで最も有名な黒人の1人である。
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1953年生まれのエチオピア系アフロ・アメリカンであるコーネル・ウェスト。現在はプリンストン大学にてアフリカン・アメリカンの歴史研究を行う教授である。彼は1974年にハーバード大学を卒業し、プリンストン大学にて修士と博士を取得。その後数々の著作を発表し、アフリカン・アメリカンの歴史研究の権威として知られる人物です。当時教鞭をとっていたハーバード大学では2200人いる教授の中で14人しかいない「University Proffessor」という最も権威のある地位にいたそうです。2002年にはハーバード大学の学長との内紛で対立し、あっさりとハーバードを辞めてプリンストン大学に移った事件は有名です。
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そんなコーネル・ウェスト教授、相当な論客としても有名でスポークンワード活動も積極的に行っており、2001年にはポエットリー・リーディング・アルバム「Sketch Of My Culture」もリリースしています。

さて今作はコーネル・ウェストにとって3枚目となる作品で、これが教授に賛同するヒップホップ/R & B系のアーティストが大挙して参加した超豪華な内容!!コーネル・ウェストという人物を知らなくとも、このメンツを見ればその凄さが分かります。何たってタリブ・クウェリアンドレ3000ジル・スコットKRSワンブラック・ソートラー・ディガプリンスライムフェストジェラルド・リヴァートなどなど。この名前を見てピンとくる人は間違いなく買った方が良い。この豪華なゲスト陣と共に、全曲に渡ってウェスト教授がスポクン・ワードを入れる構成になっています。もちろんこういう内容の為、歌詞が非常に重要です。膨大な量のリリックなので是非歌詞・対訳の付いた日本盤をオススメしたい。
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このアルバムの一連のトラックを担当するのは、コーネル・ウェストを中心とするプロダクション・チーム「BMWMB」(このBMWMBとはBlack Man Who Means Businessという意味だそうです)。この中には教授の兄であるクリフ・ウェストもいるそうです。

そして今回のこのアルバムのリリース・レーベルが「ヒドゥン・ビーチ」というのもポイントです。98年に元モータウンの取CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_13594188.gif締役スティーヴ・マッキーヴァーによって立ち上げられたサンタモニカのレーベルで、ブレンダ・ラッセルカインドレド・ザ・ファミリー・ソウルなどかなり良質なR&Bアーティストの作品をリリースしています。ジャズやソウルを基盤にしながらもヒップホップの感触を持ったサウンドが特徴でもあるこのレーベル。ジャズ解釈によるヒップホップの名曲カヴァー集「Unwrapped」といった人気シリーズもリリースしているなかなか面白いレーベルです。長年ジル・スコットが在籍することでも有名ですね。

さてこのアルバムのオープニングを飾るのは先日の来日公演も記憶に新しいタリブ・クウェリ(右写真)によるBushonomics。レーガン大統領時代の経済政策「レーガノミクス」という言葉を、ブッシュ時代の「ブッシュオノミクス」に言い換えたCORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_1415796.jpgこの曲ではタリブが先陣を切って経済政策を痛烈に批判。ブッシュの政策がいかに欺瞞であるかを早口のフロウで攻撃。フックに登場する「It’s like jungle sometimes」というリリックはグランドマスター・フラッシュ&フューリアス・ファイヴのクラシックThe Messageからの一節です!最後に教授が登場し「俺たちの手でヒップホップをルーツに戻すんだ」という語りで締められる重厚なる1曲です。

次はAmerica(400 Years)。この400 Yearsという言葉から察しがつくように、これは奴隷制度についての曲。要するに「あれから400年経っても俺たちの状況は何も変わっちゃいない」という怒りの告発です(解説では「ボブ・マーリィが取り上げた」と書いてありますが、これはピーター・トッシュの作った曲だという事は強調しておきます!)。この曲に登場するのはThe Rootsブラック・ソート、そして久々の登場の女傑ラー・ディガ(下写真)、そしてアイリーズの3人のMC。彼らの怒りのライムが抑圧された黒人達の心情を代弁します。
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個人的にラー・ディガはかなり好きなMCで、容姿も完璧、実力も十分なのに成功できないでいるのが非常にもどかしいですね(最近はバスタ・ライムスフリップモード・スクワッドも離脱してしまいましたが、バスタ・ライムス+Jディラのミックステープ・アルバム「Dillagence」では2曲も客演)。しかしドスの利いた迫力のフロウは健在。この登場は嬉しい限りです(ちなみにこの曲の日本語訳ではラー・ディガのリリックが男言葉で訳されているというかなりアホな間違いをしていますが…)。フックを歌うのはラッキー・ウィザースプーン。「Get up, Get up, Get up」というフックはボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズGet Up Stand Upからの引用ですね(この曲もピーター・トッシュ作曲ですよ!)。

CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_1483268.jpgDear Mr. Manでは何とプリンス(左写真)が登場。リリースされたばかりのアルバム「Plant Earth」では「お前を愛してるけど、俺のギターほどじゃないぜ!」なんてブッとんだ事をホザいていた殿下ですが、この曲ではかなりの政治的シリアス・モード。シーラ・Eメイシオ・パーカーといったお馴染みのメンバーも参加したミディアム・ファンクな曲です。内容はプリンスが地球レベルでの異変を訴えるプリンスマーヴィン・ゲイWhat’s Going On的ナンバー。プリンスというとどうしても「官能的世界の追求者」というイメージですが、かなりストレートでプロテストな内容で逆に新鮮です。

このアルバムならではのナンバーで非常に面白いのがThe N-Wordという曲。曲というより討論の実況。TV番組司会者のターヴィス・スマイリーをホストに、こちらも大学教授でありラジオ番組司会者CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_1412426.jpgでもある論客マイケル・エリック・ダイソン(右写真:かなり賢そうな顔してます)を迎えて、コーネル・ウェストマイケル・エリック・ダイソンが「N-Word」つまり“Nigga”という言葉の使い方の是非について議論を交わす12分にも及ぶナンバー。もう2人でずっと喋り続けています。どういう結論に着地するかは是非聴いてみて欲しいですが、この差別用語であるNiggaという言葉の持つ歴史的背景などがコーネル・ウェスト教授によって語られるところなどはかなり参考になります。この言葉(メソッド・マン&レッドマンの言うところの「Nigganess」)についての2人の知識人による考察がとても興味深いです。

その後も強力なナンバーの目白押し。自らも「エデュテインメント」(エデュケイションとエンターテインメントを合わせた造語)を提唱する御大KRSワン、そして過激な社会派ラップ・グループ、DCORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_14145698.jpgead PrezからM-1(左写真)を迎えてブッシュ大統領に宛てたメッセージという形で展開する曲Mr.Presidentも見逃せません。特にコーネル・ウェスト教授からマイクを渡されるM-1(ジャマイカ系移民の2世だそうです)のラップのカッコ良さは個人的にこのアルバムの最大の聴き所。超ファストに弾丸のようにライムを詰め込んだM-1のハードライマーとしての素晴らしさを体感出来るでしょう。一方のKRSワンはいつも通りのオールドスクール・スタイルで、唾飛ばしまくる無骨なフローがアツイです(Rage Against The Machineザック・デ・ラ・ロッチャがいかにKRSワンのフローに影響を受けているかが良く分かります)。

その他にもキラー・マイクドゥーイ・ロックを迎えたファンク・チューンKeep’ In It P.I.アンドレ3000とのChronomentrophobia(これはOutkast「Idlewild」に収録されていた曲に教授のパートを加えたもの)など前半はラップ・アクトが続きますが、後半はシンガーもので統一。もちろんヒドゥン・ビーチからのリリースなら看板シンガーであるジル・スコット(下写真)ははずせません。
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軽快な曲調ながら「今どういう状況か分かってる?」というジル・スコットのシリアスなメッセージがズシリと響くWhat Time It Isも聴き応え十分です。その他にもダリル・ムーアがじっくり歌い上げるSoul Sistaや、デヴィット・ホリスターチャッキー・ブッカーという2人のアツい男による強力な歌唱が凄いEverything Gone Be Alright、そして故ジェラルド・リヴァートの魂の篭ったソウルフルな歌声をバックにウェイニー・ウェインがライムするプリンスばりのミディアム・チューンMan Gonna Getchaなどじっくり聴かせます。

そして最終曲What A Matter Of。この曲では何とあのTower Of Powerのヴォーカリスト、レニー・ウィリアムス(右写真)を迎えて、コーネル・ウェストが両親、そして自分の仲間達に感謝を捧げるナンバー。流麗なピアノをバックに歌われるレニー・ウィリアムスの素晴CORNEL WEST & BMWMB [Never Forget : A Journey Of Revelations]_f0045842_14323325.jpgらしい高音の歌声のフックと共に、コーネル・ウェストの渋い声が、今は亡き父親への感謝を語るパートはマジに泣きそうなくらい感動的(個人的にこういうヤツには涙腺が弱いです・・・)。こういう曲を最後に配置して感動的に締めくくるなんて構成は普通ならかなりベタなんですが、曲が素晴らしいため全然OK。この感動的なラストは涙なしには聴けませんよ。

そんなわけで最初から最後まで聴き所が満載のこの作品。是非ともこの素晴らしいミュージシャンが奏でる歌の中に少しでもこの作品に込められたメッセージを受け止めて頂きたい。そしてこんな意義ある素晴らしい作品を作り上げたコーネル・ウェストに最大限の賛辞を贈りたい。アルバム・コンセプトから歌詞の内容、そしてアルバム・ジャケット(この写真は1868年にオランダの艦船ダフネ号上で撮影された奴隷たちの写真だそうだ)など全てにおいて教授のアツい熱意が込められています。
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この作品が1人でも多くの人に聴かれる事を望みます。
by Blacksmoker | 2007-11-30 00:16 | HIP HOP
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