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RY COODER [I, Flathead]


RY COODER [I, Flathead] _f0045842_0412624.jpg前作「My Name Is Buddy」の中の1曲Three Chords And The Truthという曲の中に、とあるバーで演奏する架空のバンドが登場する。そのバンドの名はキャッシュ・バック&ザ・クラウンズ

ライ・クーダーの新作「I, Flathead」はサブ・タイトルに「Songs Of Kash Buk & The Klowns」とあるように、そのキャッシュ・バック&ザ・クラウンズが主人公の物語。そしてこれはライ・クーダー初の長編小説のサウンドトラック盤でもあります(日本盤は残念ながらCD盤のみですが、輸入盤にはその100ページにも及ぶ小説が付いた限定盤も出ています)。

しかし最近のライ・クーダーの作品というのは本当に毎回面白いものばかりだ(特にNonesuchからの作品が個人的には好きです。メイヴィス・ステイプルズの素晴らしい作品「We’ll Never Turn Back」も忘れてはいけない!)。そして今作も非常に面白く素晴らしいアルバムです。
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前作「My Name Is Buddy」は30年代~50年代のカリフォルニアを舞台に一匹の猫と一匹のカエルが旅をする物語で、擬人化された彼らの左翼的な目線で、今は失われてしまったもの(労働組合や公民権運動などなど)を回顧する内容だったし、前々作「Chavez Ravine」はこれまた今は存在しないカリフォルニアのチカーノ・コミュニティを音楽的に描いた内容だった。いずれも共通してしるのは今は亡き失われた「カリフォルニア」というものを作品の中で甦らせている事だ。今作はライ・クーダー曰く、その前々作と前作に続く「カリフォルニア3部作の最終章」という位置付けの作品だそうだ。
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今回の新作「I, Flathead」の舞台となるのは50年代のカリフォルニア。カントリー/ホンキー・トンクが全盛の時代。つまりライ・クーダー自身が育った時代のカリフォルニアだ。そして主人公であるキャッシュ・バックはホットロッド・レーサーでもあるという設定。ホンキー・トンクやホットロッド・レーシングなど今はもうカリフォルニアにはほとんど存在しないものばかりだ。カリフォルニアに育ったライ・クーダーの郷愁が描かれている。

演奏はもうライ・クーダーのアルバムには欠かせないドラマーのジム・ケルトナー、そしてライの息子のホアキン・クーダー、そしてレネ・カマロなどお馴染みの面子。キャッシュ・バック&ザ・クラウンズ自体が3人組という設定なので各曲の演奏メンバーも最小限の人数によるシンプルな演奏に抑えられている。そこにホーンやアコーディオンが華を添え、当時の時代を再現しています。

歌詞は小説の内容に沿って書かれているため、小説を読めばより楽しめるだろうが、それなしでも十分に楽しめる。

ライ・クーダーの曲の歌詞には色々と実名(時には変名)で、偉大なミュージシャン達が良くでてきます。しかもそれがまた全然知らない名前だったりして、なかなか勉強させられる事が多い。今RY COODER [I, Flathead] _f0045842_0471549.jpg回もSteel Guitar Heavenという曲では、カントリーの偉人達の名が連なるが、全く聴いたことない名前ばかり・・・(ホアキン・マーフィージミー・デイスピーディ・ウェストポール・ビクスピーなど)。正直私はスペード・クーリー(左写真)くらいしか分かりませんでした。まだまだ知らない事が多いです。色々と聴いてみたくなりましたね。

そして前作「My Name Is Buddy」では、そのものズバリのHank Williamsという曲がありましたが、今回のアルバムにもその名もズバリJohnny Cashという曲があります。アップなホンキー・トンクに乗ってジョニー・キャッシュ(右写真)のRY COODER [I, Flathead] _f0045842_0481490.jpg曲や歌詞の一節を盛り込んでジョニー・キャッシュが活躍した時代に子供時代を過ごした自分を振り返ります。コーラスはジョニー・キャッシュのデビュー曲Hey Porterの一節を引用。この他にも映画「Walk The Line」でも取り上げられていたFolsom Prison Bluesの中の「俺はリノで男を撃った」という一節も登場します。ラジオにしがみついて聴いていたという歌詞からみて、これはキャッシュ・バックという男の視線を借りたライ・クーダー自身の回顧録ですね。
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個人的に大好きなのが5000 Country Music Songs。結婚して田舎のトレーラーハウスの中で生活しながらスターになる事を夢見てナッシュビルに曲を送り続けるキャッシュ・バック。それでもうだつのあがらないキャッシュ・バックが「俺に残ったのは5000曲のカントリー・ミュージックだけだ」と歌います。途中で奥さんが出てきて「あなたの歌が聴きたい」というくだりがありますが、最後まで曲を聴くとその奥さんはもうキャッシュ・バックの元にはいない事が分かります。亡くなったのか捨てられたのか分からないですが、とても物悲しくも素敵な1曲です。
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人種を超えたフィリピン人の娘との恋によって周囲の人たちから白い目で見られるFilipino Dancehall Girl、ホットロッド・カーの修理代が払えなくなって、金を稼ぐためにレコーディングするというFernando Sezなど、もはやキャッシュ・バックという架空の人物ではなくライ・クーダー本人の体験談も入っているような気もしますね。

そしてアルバムの最後を飾るLittle Trona GirlでヴォーカルをとRY COODER [I, Flathead] _f0045842_059396.jpgJuliette Commagere(左写真)の可愛くも切ない歌声。失われたカリフォルニアを題材にしたこの3部作を締めくくるに相応しいですね。ちなみに彼女は、ライの息子ホアキン・クーダーがドラムを務めるバンドHello Strangerのボーカリスト。彼女は前々作「Chavez Ravine」の中の曲El UFO Cayóにも参加していましたね。その他にも、このHello Strangerというバンドは、ライ・クーダーが手掛けた映画「My Blueberry Nights」のサントラ盤にも収録されていてこれもとても良い曲なので気になった人はチェックしてみて下さい。

ここ数年はまるで自分の人生を振り返るような活動をしているライ・クーダー。個人的には彼が人生を振り返れば振り返るほど、私自身まだまだ知らないアーティストを知ることが出来る。
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ライにはもっともっと素晴らしいアーティストを教えてもらいたいものです。
by Blacksmoker | 2008-08-27 00:13 | COUNTRY / BLUEGRASS
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