1970年から活動する一風変わった演劇団「維新派」。 そしてもう一つの特徴はその舞台。 毎回毎回公演の度に自分達の手でステージを建設し、公演が終われば解体すると言う「Build & Scrap」スタイルで、しかもその舞台の規模の大きさが毎回話題となる(ちなみに前回は琵琶湖に水上ステージを建設した)。 今回の舞台は瀬戸内海に浮かぶ離島「犬島」。 公演タイトルの「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は、一風変わったタイトルだが、これはウルグアイの詩人ジュール・シュピルヴィエルの1930年に書かれた詩からの引用で、その詩の内容は以下の通り。 灰色の支那の牛が 家畜小屋に寝ころんで 背伸びをする するとこの同じ瞬間に ウルグアイの牛が 誰かが動いたかと思って 振り返って後ろを見る この双方の牛の上を 昼となく夜となく飛び続け 音も立てずに 地球のまわりを廻り しかもいつになっても とどまりもしなければ とまりもしない鳥が飛ぶ なかなか不思議な詩である。この詩には時間軸が存在していない。一つの場所で起こった出来事は、同時に全く違う場所で起こりうるということに気付いているのは鳥ということになるが、この鳥というのは神の視点のように思えます。それとも…。この不思議な詩の解釈の仕方で、この難解とも言える公演の内容の理解度も違ってくる(劇中で2回この詩が引用される)。 そしてこの詩のように、時代も場所も全く違うアジアの島々を舞台に、そこへ移民したり、漂流したりした日本人達を中心に進行していく。まるで20世紀という時間を飛び続ける鳥のように、現代から戦前の時間を飛び回る断片的なストーリーの連続は難解ではあるが、後半にそれらが一気に完結へ向かう流れの凄さは圧巻だ。 廃墟となった巨大建築物まで舞台の一部として使い、奥行きのある巨大なステージを遺憾なく使用した壮大なセットの中で示される示唆的なエンディング。こんな圧巻な舞台は維新派ならではのカタルシス。観終わった後でも何時間でも内容について議論していられる印象的な作品でした。野外公演の特性を活かした夜の満月の灯りも幻想的すぎる光景でしたね。この犬島という島が持つ独特の時間の流れと、維新派の今公演の内容が見事に融合して忘れられない体験をさせてもらいました。 さて次回の維新派公演はどんなものになるんでしょうか?舞台の内容だけでなく、その周りの空間自体も含めて非常に楽しみですね。是非皆さんにもチェックして欲しいです。 #
by Blacksmoker
| 2010-08-10 23:20
| ライブレポート
世代交代の波到来! 2009年の大阪予選の模様はコチラ。 2008年の全国大会決勝の模様はコチラ。 2008年の大阪予選の模様はコチラ。 2007年の大阪予選の模様はコチラ。 2006年の大阪予選の模様はコチラ。 今年の大阪予選を見て、もはやMCバトルは新しく若いMC達の登場で完全に次なるステージにもの凄い勢いで移行している事を実感しましたね。 ただ今年の大阪予選は、若い世代がベテラン世代を凌駕した瞬間でしたね。その最大の目玉は何と言っても今回の大阪予選で優勝を果たしたR指定。若干18歳!昨年、Eroneを倒して「ENTER」の年間チャンピオンに輝いたこのR指定(当時はまだ受験生)は、全てを圧倒していました。見た目はラッパーとは到底思えない格好のR指定(最近はこういう普段着のラッパーが増えましたね)。 とにかく言葉が速い!速すぎる!弾丸のように詰め込まれた言葉を高速ライミングに乗せて畳み掛けるR指定のスキルはもう一回戦から異彩を放っていましたね。一回戦のバトルからもう会場が「おぉー!」ってなってましたからね。さらには相手のフローまでも余裕で自分のモノにしてしまう適用能力の高さは、会場を沸かせるには十分すぎる。この男のフリースタイルだけでもの凄い盛り上がりを見せるのです。その最もたるものが「大超 vs. R指定」のバトル。[下写真] それに対するベテラン勢。そのベテラン格の筆頭であるHidaddyは今回は完全に精細を欠いていた。もしくは若い才能に圧倒されたかのどちらかだ。[下写真右] さらに昨年は大阪予選を制し、全国大会で鎮座ドープネスと熾烈なバトルを繰り広げたEroneの方でさえ、ベスト16でふぁんくに敗れ去っていきました。[下写真](ちなみにその前に行われた「ふぁんく vs. あきらめん」という実力派対決は最後あきらめんが噛んでしまって非常に残念な負け方をしてました。) 決勝は「吉田のブービー vs. R指定」。 毎年毎年、この大阪予選でも善戦するCoe-La-Canthの吉田のブービー。彼も高いスキルの持ち主なので、「もしかすると?」と思いましたがやはり今回は相手が悪かった。実は最後のバースまで試合の行方は分からなかったが、最終ヴァースで完璧に客を沸かせたR指定が上回ってましたね。かくしてR指定はENTER優勝に続いて、UMB大阪の優勝までもさらっていきました。 #
by Blacksmoker
| 2010-06-29 21:25
| ライブレポート
「日本に来るのは7年振りだけど、ここにいる人で7年前にも観てくれた人はいる?」 このステージ上からジェフ・トゥイーディが言った一言に対して、ほとんど誰も手を上げてませんでしたが、俺は行ってたぜ! 実に7年振り。前回は2003年に開催された「Magic Rock Out」というオールナイトのフェスでの来日で、Foo Fighters(「One By One」をリリース直後でした)や、Death In Vegasらと共に神戸ワールド記念ホールでライヴを見せてくれましたが、それ以来の来日公演です。 「Yankee Hotel Foxtrot」からの曲を中心に披露されてましたが、驚いたのは全ての曲の終わりが轟音/ノイズまみれになってに終わるんです。これはかなり衝撃的でした。ただ当時はFoo Fightersがヘッドライナーのフェスだったので、Wilcoの時間は1時間くらいしかなかったのでやはり単独公演でじっくり観たいと思いましたね。そんな轟音大好きWilcoが7年というインターバルで遂に単独公演を実現させてくれました。 この7年という歳月でWilcoというバンドは、一介のインディーズ・バンドからアメリカを代表するロック・バンドに変貌しました。毎回3時間を越えるライヴを披露するというライヴ・バンドとして絶対的評価も得ているし、さらにはセールス的にも好調だし、Wilcoは今最も勢いのあるバンドと言っても良いでしょう。この7年でこれほどの変貌振りには驚くべきものがありますね。しかもアメリカ本国と日本での人気の差から、Wilcoがこんなライヴハウスで観れるなんて凄いことですよ。以前にModest MouseやMy Morning Jacketも本国との人気の差でクアトロなんて小さいハコで観れたりしましたが、今回のWilcoもしかりで日本ではこういう奇跡的な事がたまに起こってくれるのがありがたい。 さて轟音大好きWilco。5人編成だった7年前と違い、今は6人編成。大きな違いはやはりネルス・クライン(下写真)の加入でしょう。 そもそもネルス・クラインという人はアヴァンギャルド/フリー・インプロヴィゼーション系のジャズ・ギタリストとして地下世界では有名で、この人がWilcoに正式加入した事はかなりの驚きでした。ただでさえドラマーのグレン・コッツェというクセモノがいるのに、更にこんな凄いヤツまで加入させてどうするんだと。ただ正直言うと、クセモノ揃いではあるがアルバムではその変人達の本領が音に表れておらず、そこが謎だったんですが、ライヴを観たらその謎が容易に解けましたね。トンでもない暴れっぷりなんです! 特にネルス・クラインは最初っから最後まで異物感たっぷりのギターを弾きまくり。轟音やフィードバック・ノイズをガンガンにぶち込んでくるし、そうかと思えばアコースティック・ギターやラップ・スティールまでも操るし、そのネルス・クラインから繰り出される様々な音がWilcoというバンドのサウンドに奥行きを与えているのは間違いない。さすがはマーク・リーボウやジム・オルークと並ぶアヴァンギャルド畑の主要人物。しかも、ほぼ1曲おきにギターを変えるという徹底ぶり。 そもそもWilcoというバンドのサウンドの特徴の最もたるものは、ジェフ・トゥイーディの優しいメロディ・センスに他ならないが、レコードでは顕著なそういう部分を完全に埋れさすような容赦ない轟音っぷり。 会場は満員だけあって凄い熱気で、一曲一曲終わるごとに大歓声が巻き起こる。新しい曲から古い曲までみんなちゃんと反応しているので、会場中にとても良い空気が充満している。それが最も顕著な形で現れたのが終盤で登場した「Jesus,etc」。本国では全部の歌詞を観客が大合唱することで有名な曲ですが、日本でも合唱が巻き起こっていたのはちょっと感動しましたね。日本のファンだって海外のファンに負けてなかったですね。 アンコールを含めて2時間を越える濃密なライヴ。ラストは「I Am Wheel」で、曲の最後にはメタル・バンドみたいにグレン・コッツェがドラム・セットに立ち上がり、他のメンバー達もギターやベースを空高く突き上げてポージングする姿に大喝采が起きてました。 今回のライヴでWilcoも日本で人気があるんだと認識したはずなので、次こそは時間を空けずに来日してもらいたいですね。 #
by Blacksmoker
| 2010-06-16 14:22
| ライブレポート
今回初めてメデスキ・マーティン&ウッドを観て思ったこと。 ①客がヒッピー系ばっかり。 ②ジョン・メデスキが異常にブライアン・イーノに似てる。 ①なんですが、客層は勝手にスノッブな感じだろうなぁなんてイメージをしていたので、その落差に驚き。Grateful DeadやPhishのライヴに大量にいてるクサ吸ってそうな麻の服着たヒッピー系の若者ばかりじゃないですか。やはりジャム・バンドの筆頭だけあってそっち系のファン達を完全に取り込んでる様子です。そして②ですが、これはあまりにも似すぎていて錯覚してしまうほどでしたよ。体系も目の鋭さも、ハゲあがりぶりも、もうまんまブライアン・イーノ。こんなに似てたっけかこの人。 さて、このMM&W。個人的にはしばらく離れていたのですが、また最近かなり熱くなってきてます。と、いうのも2008年から2009年にかけてリリースされた「Radiolarians」シリーズ3部作(右写真は「1」)が凄かったんです。久々にこれはキましたね。これは従来の「作曲→レコーディング→ツアー」という流れを解体し、「作曲→ツアー→レコーディング」という流れで作ったアルバムで、ライヴにおいて曲が形作られていき、それが後にアルバムに収録されるという企画で、中身の音の方もMM&Wのラフでアヴァンギャルドなサイドが炸裂した最高のアルバムでした。(ただ、こういう変則的な流れで作られたアルバムでも、結局日本ではアルバムがリリースされてからライヴで披露されるわけですから、いつもと同じなんですけどね…。) しかし、個人的にはこの「Radiolarians」シリーズで一気にMM&W熱が再発したと言ってもいいでしょう(その後、その3枚に未発表曲やRemix、更にDVDも追加した5CD+1DVDの「Radiolarians Evolutionary」というボックス・セットもリリース)。 そんな「Radiolarians」プロジェクト後のツアーというだけあって、並々ならぬ期待を寄せて行ったのは大阪で新しく出来たClub Janus(ジャニス)。クアトロのステージをさらに横に大きく延ばしたような形で、音響もクアトロよりは数倍良いですね。なにより横に大きいのでステージが観やすいというのがイイ。 今回のツアーも、もちろん彼らの醍醐味であるインプロヴィゼーションを挟みながらジワジワ盛り上がっていくのですが、その時間は案外短く曲をどんどん披露していくカンジ。しかも面白いのが、披露される曲の流れが見事なまでに全然違う曲調なのです。サイケなロック・テイストばりばりのジャズの後に、いきなりロマンチックな50年代のモーダル・ジャズっぽい曲になったり、その後にレゲエになったりとその構成は見事なまでに無秩序状態。1曲ごとにグルーヴが全く異なるというのは、昔観たTortoiseのライヴでも経験したことですが(こちらは曲ごとにメンバーの担当楽器まで変わりますからね)、こういった事は各プレイヤーのジャンルを超越した強力な演奏能力がないと成立しないわけで、これだけ見てもこれだけの揺れ幅を持たせられるMM&Wの各メンバーの能力に感嘆させられます。 #
by Blacksmoker
| 2010-06-10 21:44
| ライブレポート
クリス・クリストファーソンという名前を聞くと、僕個人としてはミュージシャンというより映画俳優という印象が強い。 今回紹介するのは、そのクリス・クリストファーソンの3年振りの新作「Closer To The Bone」(右写真)。「俺も死に近づいている」という意味でしょうか。意味有りげなタイトルです。ジャケットに写る白髪で皺の刻まれた顔の御大も現在73歳。71歳で逝去した盟友ジョニー・キャッシュを思うとこのタイトルにも納得がいくというものです。 さて中のブックレットを見て驚いたのですが、「このアルバムをソウル・ブラザーのスティーヴン・ブルトンの魂に捧げる」という一節とその彼の写真が載っていました。テキサス出身のシンガー・ソングライターのこのスティーヴン・ブルトン(下写真)。私は2006年にThe Resentmentsのメンバーとして来日した時に彼を観てるんですが、どうやら2009年に50歳という若さで癌で亡くなっていたようです。 クリス・クリストファーソンの激渋の深い声、一発録りのようなアコースティック・ギターの生々しい響きなどムダを削ぎ落としたシンプル極まりないサウンドは、ジョニー・キャッシュの晩年の作品「American」シリーズを思わせる。確かに晩年のジョニー・キャッシュの声と、今のクリス・クリストファーソンの声はどこか共通するものを持っていますね。 そういや今作には「Sister Sinead」という曲が収録されています。歌詞を読むと、これはシネイド・オコナーがローマ法王の写真を破いた事件の事を歌っています。1992年のボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートのTV中継の時、シネイド・オコナーがその事件のせいで大ブーイングを受け歌えなくなった時に、唯一彼女を介抱していた優しい男がこのクリス・クリストファーソンだったのを思い出しました。 #
by Blacksmoker
| 2010-05-22 00:01
| COUNTRY / BLUEGRASS
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