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維新派 [台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき]@犬島精錬所跡地 7/27(火) 2010


1970年から活動する一風変わった演劇団「維新派」。
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彼らは「しゃべらないセリフ、踊らない舞踏」と言われる独特な表現方法を持ってる。つまり明確なストーリー性を排除し、断片的なセリフの反芻を中心として舞台は進行する。それに合わせるような踊りは一切なく、アルタード・ステイツなどの活動で知られるギタリスト/ダクソフォン奏者の内橋和久の創る独特の変拍子のリズムのエレクトロ・ミュージックに合わせて動く役者達の異様な動きも維新派の特徴だ。

そしてもう一つの特徴はその舞台。

毎回毎回公演の度に自分達の手でステージを建設し、公演が終われば解体すると言う「Build & Scrap」スタイルで、しかもその舞台の規模の大きさが毎回話題となる(ちなみに前回は琵琶湖に水上ステージを建設した)。

今回の舞台は瀬戸内海に浮かぶ離島「犬島」。
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ここは明治後期から銅の精錬所として栄えた島だが、昭和初期には銅の価格暴落のため閉鎖され現在では廃墟と化している。今では人口70人の島の中にその精錬所の廃墟化したレンガ造りの巨大な煙突や変電所跡が島のあちこちに残されたままになっており、不思議な時間が流れている。もちろん犬島に渡るには船を使うしか方法は無い。
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その精錬所跡地に4000本もの丸太を使って組み上げられたステージが今回の舞台だ。瀬戸内海を見下ろし、更には精錬所の巨大なレンガ造りの煙突や建物の廃墟までも舞台として組み込まれた圧巻のロケーションでしたね。
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さて今回の公演「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は2007年から続く「<彼>と旅する20世紀三部作」の最終章にあたる3作目。漂流・移民をテーマとしてきた維新派の、世界を舞台に展開される壮大なサーガの完結編。2007年の1作目「Nostalgia」は南米を舞台とし、2008年の2作目「呼吸機械」は東欧を舞台にしてきましたが、今回の完結編の舞台はアジア。海で繋がるアジアの島々が舞台となる。

公演タイトルの「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」は、一風変わったタイトルだが、これはウルグアイの詩人ジュール・シュピルヴィエルの1930年に書かれた詩からの引用で、その詩の内容は以下の通り。


灰色の支那の牛が

家畜小屋に寝ころんで

背伸びをする

するとこの同じ瞬間に

ウルグアイの牛が

誰かが動いたかと思って

振り返って後ろを見る

この双方の牛の上を

昼となく夜となく飛び続け

音も立てずに

地球のまわりを廻り

しかもいつになっても    

とどまりもしなければ

とまりもしない鳥が飛ぶ


なかなか不思議な詩である。この詩には時間軸が存在していない。一つの場所で起こった出来事は、同時に全く違う場所で起こりうるということに気付いているのは鳥ということになるが、この鳥というのは神の視点のように思えます。それとも…。この不思議な詩の解釈の仕方で、この難解とも言える公演の内容の理解度も違ってくる(劇中で2回この詩が引用される)。

そしてこの詩のように、時代も場所も全く違うアジアの島々を舞台に、そこへ移民したり、漂流したりした日本人達を中心に進行していく。まるで20世紀という時間を飛び続ける鳥のように、現代から戦前の時間を飛び回る断片的なストーリーの連続は難解ではあるが、後半にそれらが一気に完結へ向かう流れの凄さは圧巻だ。
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一見意味の無いような断片的なストーリーでさえも、しかりとした伏線でありそれも収束されていく。彼らを繋げるものは「戦争」という大きな力だったことが分かります。そしてその大団円に現れる4mを超える<>という巨大化した人間。「20世紀という時代」の概念メタファーとして1作目に登場し、2作目では20mを超える大きさに肥大化してきたこの<彼>が最後に銃を肩に掛け軍服を着て現れる衝撃は観る者の心に深く刺さります。戦争はまだ終わっていないという意味だろう。
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あと劇中では内橋和久によるエレクトロニックな音が流れるが、その本人が客席側からギターを使って効果音やノイズをリアルタイムで挿入していく姿も印象的でしたね。しかも客席後方のPAシステムのエンジニアを担当しているのは、FishmansBoredomsのエンジニアで有名なZAK。個人的にはディジリドゥ奏者GOMAが率いるバンドNight Jungleでステレオ録音のような浮遊感のあるモノラル録音に驚愕させられましたが、そのZAKが今公演をLive Mixしているという点も注目でした。演劇だけでなく音楽も彼らの舞台には重要な要素を含んでいるのです。維新派が音楽面の細部までこだわっているのが分かります。

廃墟となった巨大建築物まで舞台の一部として使い、奥行きのある巨大なステージを遺憾なく使用した壮大なセットの中で示される示唆的なエンディング。こんな圧巻な舞台は維新派ならではのカタルシス。観終わった後でも何時間でも内容について議論していられる印象的な作品でした。野外公演の特性を活かした夜の満月の灯りも幻想的すぎる光景でしたね。この犬島という島が持つ独特の時間の流れと、維新派の今公演の内容が見事に融合して忘れられない体験をさせてもらいました。
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公演が終わってからも、アジアの雑踏の中にいるような屋台村や、大道芸人によるパフォーマンスなどもう完全な祝祭空間を化した雰囲気も最高でした。ちなみに私の観た日は、公演前と公演後に何とあふりらんぽオニと、内橋和久の貴重なゲリラ・ライヴがありました(あふりらんぽは、前日に解散ライヴをやっていたようです)。
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僕は数ヶ月前に出たオニの1stアルバム「Sunwave Heart」がめちゃくちゃ好きだったので、これはほんとビッグ・サプライズ。オニがギターを弾き語りして、そこに内橋和久がギターで効果音を入れるというライヴで、その1stアルバムからの曲を中心に公演前・公演後を合わせると2時間近くライヴやってましたよ。オニの子供も出てきてたりして完全なアットホームなライヴでした。

さて次回の維新派公演はどんなものになるんでしょうか?舞台の内容だけでなく、その周りの空間自体も含めて非常に楽しみですね。是非皆さんにもチェックして欲しいです。

  
# by Blacksmoker | 2010-08-10 23:20 | ライブレポート

ULTIMATE MC BATTLE 2010 大阪予選 @Fanj Twice 4/28(土) 2010



世代交代の波到来!
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さあ、今年もやってきましたULTIMATE MC BATTLE大阪予選!私も初めて観に行ってからとうとう5年を迎えましたね。今回は私Blacksmokerはベスト16から決勝戦まで審査員をやってきました!

2009年の大阪予選の模様はコチラ。 
2008年の全国大会決勝の模様はコチラ。 
2008年の大阪予選の模様はコチラ。 
2007年の大阪予選の模様はコチラ。 
2006年の大阪予選の模様はコチラ。 


今年の大阪予選を見て、もはやMCバトルは新しく若いMC達の登場で完全に次なるステージにもの凄い勢いで移行している事を実感しましたね。
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最近のMCバトル・シーンは関西を見渡してみても、コペルR指定ふぁんくあきらめんTakaseちゃくらメンソールKZなど若い世代(10代後半から20代前半)の実力派MC達が続々と台頭しており、Coe-La-Canth(シーラカンス)勢や韻踏合組合勢が席巻した数年前とはもはや様変わりしている。
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しかし、かと言ってもはや「ベテラン」と分類されるであろうCoe-La-Canth勢(と言っても彼らもまだ20代中盤ですが)や韻踏合組合勢のレベルが下がったと言ってるわけではなく、その彼らもしっかり活躍しているし、更にはおそらく関西では最年長のMCであろう大超、キワモノから純粋にスキルで勝負してきたおこじょなどの健闘し、若いMCとベテランMCがバランス良く群雄割拠しているという非常に面白い状況になっている。

ただ今年の大阪予選は、若い世代がベテラン世代を凌駕した瞬間でしたね。その最大の目玉は何と言っても今回の大阪予選で優勝を果たしたR指定。若干18歳!昨年、Eroneを倒して「ENTER」の年間チャンピオンに輝いたこのR指定(当時はまだ受験生)は、全てを圧倒していました。見た目はラッパーとは到底思えない格好のR指定(最近はこういう普段着のラッパーが増えましたね)。

とにかく言葉が速い!速すぎる!弾丸のように詰め込まれた言葉を高速ライミングに乗せて畳み掛けるR指定のスキルはもう一回戦から異彩を放っていましたね。一回戦のバトルからもう会場が「おぉー!」ってなってましたからね。さらには相手のフローまでも余裕で自分のモノにしてしまう適用能力の高さは、会場を沸かせるには十分すぎる。この男のフリースタイルだけでもの凄い盛り上がりを見せるのです。その最もたるものが「大超 vs. R指定」のバトル。[下写真]
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もう無骨で男臭いオールドスクール路線を極めた大超に対して、その大超のフローを即興で完全に模倣してみせ、たたみ返したR指定の圧倒的にテクニカルなスキルの高さは今回の大阪予選のハイライトであったことに異論を唱えるものはいないでしょう。審査員席から見ていても鳥肌が立ちましたよ。

それに対するベテラン勢。そのベテラン格の筆頭であるHidaddyは今回は完全に精細を欠いていた。もしくは若い才能に圧倒されたかのどちらかだ。[下写真右]
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今年の初めに喋ったときに「引退宣言を撤退して今年のUMBは出る!今年こそ優勝を大阪が取らなあかん」と意気込んでいたにもかかわらず、1回戦から延長戦までもつれこむ苦戦ぶり。「おいおい大丈夫か!?」と不安になったのもつかの間、結局続く2回戦であっさりとルードに完敗。あらら…。

さらに昨年は大阪予選を制し、全国大会で鎮座ドープネスと熾烈なバトルを繰り広げたEroneの方でさえ、ベスト16でふぁんくに敗れ去っていきました。[下写真](ちなみにその前に行われた「ふぁんく vs. あきらめん」という実力派対決は最後あきらめんが噛んでしまって非常に残念な負け方をしてました。)
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あとBlacksmokerのリスペクトする大超[下写真]ですが、今回もベスト8の準々決勝まで勝ち残りましたが、R指定という強敵の前にここで残念ながら敗退。
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毎年最年長MCとして奮闘する大超ですが、やはり冷静に考えるとあのスタイルで勝ち残るのはベスト8くらいが限界かもしれませんね。でも個人的には大好きな大超なので、あのスタイルを極めきって、いつの日か貫禄で若いMC達を圧倒して優勝してくれる日が来ることを願ってます(ところで2009年中に出すって言ってた「大超デモ・トラックス Vol.3」早く出してくれ!ってかアルバム出してよ)。

決勝は「吉田のブービー vs. R指定」。
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毎年毎年、この大阪予選でも善戦するCoe-La-Canth吉田のブービー。彼も高いスキルの持ち主なので、「もしかすると?」と思いましたがやはり今回は相手が悪かった。実は最後のバースまで試合の行方は分からなかったが、最終ヴァースで完璧に客を沸かせたR指定が上回ってましたね。かくしてR指定ENTER優勝に続いて、UMB大阪の優勝までもさらっていきました。
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ベテランの奮闘と、若い才能の台頭で鋭い牙を持ったタレント性のあるMC達が群雄割拠する今年のUMB大阪予選。その中を頭一つ抜きん出たスキルとエンターテインメント性で制覇したR指定。ギャングスタでもオタクでもない普段着のラッパー。ゆえにそのスタイルはあらゆる局面に対して柔軟だ。なおかつ超高度なスキルは間違いなく今年のUMB全国大会決勝の目玉になることは間違いないでしょう。今年、大阪に初の優勝をもたらす男はこのR指定かもしれないです。


 
# by Blacksmoker | 2010-06-29 21:25 | ライブレポート

WILCO @Big Cat 4/22(月) 2010


日本に来るのは7年振りだけど、ここにいる人で7年前にも観てくれた人はいる?
このステージ上からジェフ・トゥイーディが言った一言に対して、ほとんど誰も手を上げてませんでしたが、俺は行ってたぜ!

実に7年振り。前回は2003年に開催された「Magic Rock Out」というオールナイトのフェスでの来日で、Foo Fighters「One By One」をリリース直後でした)や、Death In Vegasらと共に神戸ワールド記念ホールでライヴを見せてくれましたが、それ以来の来日公演です。
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当時は、紆余曲折の末に生まれた傑作「Yankee Hotel Foxtrot」をリリース後のツアーで、Wilcoにとってもターニング・ポイントとなる時期でした(ほんと、この時期はWilco周辺は盛り上がっており、来日直前にドキュメンタリー映画「Wilco Film:I Am Trying To Break Your Heart」もDVDで日本発売されましたし、その他にもジェフ・トゥイーディとドラマーのグレン・コッツェ、そしてジム・オルークによるユニットLoose Furのアルバムも日本発売されましたし、グレン・コッツェのソロ・アルバム「Mobile」もリリースされてました)。そして個人的にもモノ凄い期待感を持って観たWilcoのライヴは予想以上に凄かったのを覚えています。

「Yankee Hotel Foxtrot」からの曲を中心に披露されてましたが、驚いたのは全ての曲の終わりが轟音/ノイズまみれになってに終わるんです。これはかなり衝撃的でした。ただ当時はFoo Fightersがヘッドライナーのフェスだったので、Wilcoの時間は1時間くらいしかなかったのでやはり単独公演でじっくり観たいと思いましたね。そんな轟音大好きWilcoが7年というインターバルで遂に単独公演を実現させてくれました。

この7年という歳月でWilcoというバンドは、一介のインディーズ・バンドからアメリカを代表するロック・バンドに変貌しました。毎回3時間を越えるライヴを披露するというライヴ・バンドとして絶対的評価も得ているし、さらにはセールス的にも好調だし、Wilcoは今最も勢いのあるバンドと言っても良いでしょう。この7年でこれほどの変貌振りには驚くべきものがありますね。しかもアメリカ本国と日本での人気の差から、Wilcoがこんなライヴハウスで観れるなんて凄いことですよ。以前にModest MouseMy Morning Jacketも本国との人気の差でクアトロなんて小さいハコで観れたりしましたが、今回のWilcoもしかりで日本ではこういう奇跡的な事がたまに起こってくれるのがありがたい。
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しかし、今回のBig Catの公演は僕が思った以上に満員!入口でスタッフが話しているのが聞こえたんですが、当日券もあと10枚くらいしか残ってなかったそうですね。やはり日本でも人気が出てきたんですね、嬉しいかぎりです。

さて轟音大好きWilco。5人編成だった7年前と違い、今は6人編成。大きな違いはやはりネルス・クライン(下写真)の加入でしょう。

WILCO @Big Cat 4/22(月) 2010 _f0045842_14454161.jpgそもそもネルス・クラインという人はアヴァンギャルド/フリー・インプロヴィゼーション系のジャズ・ギタリストとして地下世界では有名で、この人がWilcoに正式加入した事はかなりの驚きでした。ただでさえドラマーのグレン・コッツェというクセモノがいるのに、更にこんな凄いヤツまで加入させてどうするんだと。ただ正直言うと、クセモノ揃いではあるがアルバムではその変人達の本領が音に表れておらず、そこが謎だったんですが、ライヴを観たらその謎が容易に解けましたね。トンでもない暴れっぷりなんです!

特にネルス・クラインは最初っから最後まで異物感たっぷりのギターを弾きまくり。轟音やフィードバック・ノイズをガンガンにぶち込んでくるし、そうかと思えばアコースティック・ギターやラップ・スティールまでも操るし、そのネルス・クラインから繰り出される様々な音がWilcoというバンドのサウンドに奥行きを与えているのは間違いない。さすがはマーク・リーボウジム・オルークと並ぶアヴァンギャルド畑の主要人物。しかも、ほぼ1曲おきにギターを変えるという徹底ぶり。
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さらにグレン・コッツェの叩くとんでもなくラウドなドラミングも強烈だ。アルバムの音とは別物と言って良いでしょう。Nonesuchから出ているこの人のソロ・アルバム「Mobile」もかなり実験的で油断出来ないくらい凄いアルバムでしたが、こういうアカデミックでエクスペリメンタルな音を出す人がロック・バンドのドラマーとして座っているのです。ネルス・クラインもそうですがロック畑出身じゃない人間が純然たるロック・バンドのメンバーであるというWilcoのねじれぶりは面白すぎます。

そもそもWilcoというバンドのサウンドの特徴の最もたるものは、ジェフ・トゥイーディの優しいメロディ・センスに他ならないが、レコードでは顕著なそういう部分を完全に埋れさすような容赦ない轟音っぷり。
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しかもジェフ・トゥイーディも含めてWilcoには3人のギタリストがいるので、その3者による音が凄まじいです(ちなみにジェフもほとんど1曲ごとにギターをチェンジしていましたね。ステージ脇に並べられた30本以上はありそうなギターが壮観でした!)。そこにキーボードとオルガンの2人まで加わってくるんだからそのカオスぶりは途轍もない。7年前に観た時以上にカオスな音をしてましたね。ジェフの歌う優しいメロディと相反する轟音のミスマッチがこのバンドをただならぬ存在にしている。強烈なライヴ・アクトですよ、このバンドは。アルバムではモロにNeu!的なサウンドをみせるSpiders(Kidsmoke)だって、ライヴでは全く違うロック・サウンドになってますからね。

会場は満員だけあって凄い熱気で、一曲一曲終わるごとに大歓声が巻き起こる。新しい曲から古い曲までみんなちゃんと反応しているので、会場中にとても良い空気が充満している。それが最も顕著な形で現れたのが終盤で登場したJesus,etc。本国では全部の歌詞を観客が大合唱することで有名な曲ですが、日本でも合唱が巻き起こっていたのはちょっと感動しましたね。日本のファンだって海外のファンに負けてなかったですね。

アンコールを含めて2時間を越える濃密なライヴ。ラストはI Am Wheelで、曲の最後にはメタル・バンドみたいにグレン・コッツェがドラム・セットに立ち上がり、他のメンバー達もギターやベースを空高く突き上げてポージングする姿に大喝采が起きてました。
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本国では途中にアコースティック・セットやカヴァー曲も挟み3時間のライヴをやるので、今回の2時間強というのは、彼らにしては短かったのかもしれませんが、それでも十分に素晴らしいライヴでした。しかしこんな濃いライヴを3時間もやるなんて、恐ろしいポテンシャル!最強です。

今回のライヴでWilcoも日本で人気があるんだと認識したはずなので、次こそは時間を空けずに来日してもらいたいですね。

  
# by Blacksmoker | 2010-06-16 14:22 | ライブレポート

MEDESKI, MARTIN & WOOD @ Club Janus 4/8(金) 2010


今回初めてメデスキ・マーティン&ウッドを観て思ったこと。

客がヒッピー系ばっかり。
ジョン・メデスキが異常にブライアン・イーノに似てる。
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2006年以来の久しぶりの来日公演だというのに、そんなことしか思いつかないのか?と思われそうですが、初めて観た第一印象はそんな感じ。

①なんですが、客層は勝手にスノッブな感じだろうなぁなんてイメージをしていたので、その落差に驚き。Grateful DeadPhishのライヴに大量にいてるクサ吸ってそうな麻の服着たヒッピー系の若者ばかりじゃないですか。やはりジャム・バンドの筆頭だけあってそっち系のファン達を完全に取り込んでる様子です。そして②ですが、これはあまりにも似すぎていて錯覚してしまうほどでしたよ。体系も目の鋭さも、ハゲあがりぶりも、もうまんまブライアン・イーノ。こんなに似てたっけかこの人。

さて、このMM&W。個人的にはしばらく離れていたのですが、また最近かなり熱くなってきてます。と、いうのも2008年から2009年にかけてリリースされた「Radiolarians」シリーズMEDESKI, MARTIN & WOOD @ Club Janus 4/8(金) 2010 _f0045842_22485776.jpg3部作(右写真は「1」)が凄かったんです。久々にこれはキましたね。これは従来の「作曲レコーディングツアー」という流れを解体し、「作曲ツアーレコーディング」という流れで作ったアルバムで、ライヴにおいて曲が形作られていき、それが後にアルバムに収録されるという企画で、中身の音の方もMM&Wのラフでアヴァンギャルドなサイドが炸裂した最高のアルバムでした。(ただ、こういう変則的な流れで作られたアルバムでも、結局日本ではアルバムがリリースされてからライヴで披露されるわけですから、いつもと同じなんですけどね…。)

しかし、個人的にはこの「Radiolarians」シリーズで一気にMM&W熱が再発したと言ってもいいでしょう(その後、その3枚に未発表曲やRemix、更にDVDも追加した5CD+1DVDの「Radiolarians Evolutionary」というボックス・セットもリリース)。

そんな「Radiolarians」プロジェクト後のツアーというだけあって、並々ならぬ期待を寄せて行ったのは大阪で新しく出来たClub Janus(ジャニス)。クアトロのステージをさらに横に大きく延ばしたような形で、音響もクアトロよりは数倍良いですね。なにより横に大きいのでステージが観やすいというのがイイ。
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今回は1時間強のステージを2セット。MM&Wのライヴを観るのは初めてでしたが、まず最初に目が行くのがやはりジョン・メデスキ。このMM&Wというバンドは、要塞のように組み上げられたオルガンにキーボードに四方を囲まれ、さらにはアップライト・ピアノや鍵盤ハーモニカなども操るこの男を司令塔にしているのがよく分かります。
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そしてこのジョン・メデスキを中心にしてベースのクリス・ウッドと、ドラムのビリー・マーティンが絡んでいく。クリス・ウッドはファズをかけたギターのようなエグイ音を出すベース、さらにはウッドベースを使い、そしてビリー・マーティンはドラム以外にも、後ろに並べれた様々なパーカッションを使います(カウベルなんかもありましたね)。

今回のツアーも、もちろん彼らの醍醐味であるインプロヴィゼーションを挟みながらジワジワ盛り上がっていくのですが、その時間は案外短く曲をどんどん披露していくカンジ。しかも面白いのが、披露される曲の流れが見事なまでに全然違う曲調なのです。サイケなロック・テイストばりばりのジャズの後に、いきなりロマンチックな50年代のモーダル・ジャズっぽい曲になったり、その後にレゲエになったりとその構成は見事なまでに無秩序状態。1曲ごとにグルーヴが全く異なるというのは、昔観たTortoiseのライヴでも経験したことですが(こちらは曲ごとにメンバーの担当楽器まで変わりますからね)、こういった事は各プレイヤーのジャンルを超越した強力な演奏能力がないと成立しないわけで、これだけ見てもこれだけの揺れ幅を持たせられるMM&Wの各メンバーの能力に感嘆させられます。
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そして、そういう状態をジョン・メデスキがしっかり統率している(ように見える)。今回はクリス・ウッドも前面に出てきて引っ張る姿も随所に観られましたが、やはりあくまで司令塔はジョン・メデスキですね。意外とビリー・マーティンは控え目でした。怒涛の2セットを終えてアンコールで登場したのは恒例のカヴァー。今回はジミ・ヘンドリクスHey Joe。スローで結構地味目なヴァージョンで披露されてましたね。
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延々と続くインプロヴィゼーションとサイケデリックなジャムを期待してたので、今回は案外とあっさり目なカンジだったので少々残念でしたが、このバンドの底知れない実力は十分に堪能出来ました。次回のツアーではもっともっと壮絶なジャムを観てみたいですね。
# by Blacksmoker | 2010-06-10 21:44 | ライブレポート

KRIS KRISTOFFERSON [Closer To The Bone]


クリス・クリストファーソンという名前を聞くと、僕個人としてはミュージシャンというより映画俳優という印象が強い。
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古くは1973年サム・ペキンパー監督の映画「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」のまだ初々しいビリー役として、そしてここ最近の当たり役と言えばやはり、ウェズリー・スナイプス主演のSFアクション映画「ブレイド」でしょう[下写真]。ブレイドの相棒役として3シリーズ全てに出演している人気キャラだったので覚えている人も多いでしょう(だから「ブレイド3」であのあっけない死に方をさせた脚本は許せん!)。
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しかしクリス・クリストファーソンという人は、映画俳優以上に本国アメリカではカントリー・ミュージシャンとしてウィリー・ネルソンジョニー・キャッシュ、そしてボブ・ディランらと並び賞されている偉大な人なんです。ジャニス・ジョプリンの1971年の名作「Pearl」の中でも有名なMe And Bobby McGeeや、ジョニー・キャッシュのカヴァーしたSunday Morning Coming Downもこのクリス・クリストファーソンの曲なんですよね。

KRIS KRISTOFFERSON [Closer To The Bone] _f0045842_143082.jpg今回紹介するのは、そのクリス・クリストファーソンの3年振りの新作「Closer To The Bone」(右写真)。「俺も死に近づいている」という意味でしょうか。意味有りげなタイトルです。ジャケットに写る白髪で皺の刻まれた顔の御大も現在73歳。71歳で逝去した盟友ジョニー・キャッシュを思うとこのタイトルにも納得がいくというものです。

さて中のブックレットを見て驚いたのですが、「このアルバムをソウル・ブラザーのスティーヴン・ブルトンの魂に捧げる」という一節とその彼の写真が載っていました。テキサス出身のシンガー・ソングライターのこのスティーヴン・ブルトン(下写真)。私は2006年にThe Resentmentsのメンバーとして来日した時に彼を観てるんですが、どうやら2009年に50歳という若さで癌で亡くなっていたようです。
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The Resentmentsのライヴに感動しただけに(その時のレポートはコチラ)、彼の死をこういう形で知ったのはショックでしたね。今年のアカデミー賞でジェフ・ブリッジスが主演男優賞を獲った映画「Crazy Heart」なんて、このスティーヴン・ブルトンをモデルにしているみたいだし何とも残念な話だ(サントラ盤も彼が担当している)。そういう事実を知ると、この「Closer To The Bone」というタイトルは更に重く響きます。
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内容はほぼクリス・クリストファーソンによる弾き語り(クレジットを見るとドン・ウォズがベースを担当し、ジム・ケルトナーがドラム、スティーヴン・ブルトンがギターと意外と豪華な面子が揃っているんですが、クリス・クリストファーソンの声とギター以外はほとんど印象に残りませんね)。全てがオリジナル曲だ。これくらいの歳になるとカヴァー曲やスタンダード曲ばかりが目立つようになるミュージシャンの中で、全てオリジナル曲が占めるアルバムをリリースするなんて、この人の才能はまだまだ枯渇していないようです。

クリス・クリストファーソンの激渋の深い声、一発録りのようなアコースティック・ギターの生々しい響きなどムダを削ぎ落としたシンプル極まりないサウンドは、ジョニー・キャッシュの晩年の作品「American」シリーズを思わせる。確かに晩年のジョニー・キャッシュの声と、今のクリス・クリストファーソンの声はどこか共通するものを持っていますね。
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ただ、かと言ってクリス・クリストファーソンがもうすぐ死ぬんじゃないかと言う話ではない。僕が言いたいのは、この歳になってもまだまだこんな素晴らしい音楽を創る彼の凄さなんです。人生訓を含んだ含蓄のある歌詞、さらにヴォーカルの圧倒的な説得力など聴いていて心に迫ってくるものがありますね。実に渋く、そして実に深い魂の一枚です。

そういや今作にはSister Sineadという曲が収録されています。歌詞を読むと、これはシネイド・オコナーがローマ法王の写真を破いた事件の事を歌っています。1992年のボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートのTV中継の時、シネイド・オコナーがその事件のせいで大ブーイングを受け歌えなくなった時に、唯一彼女を介抱していた優しい男がこのクリス・クリストファーソンだったのを思い出しました。
KRIS KRISTOFFERSON [Closer To The Bone] _f0045842_1174738.jpg
この曲を聴いてシネイド・オコナーは涙を流しているに違いない。

  
# by Blacksmoker | 2010-05-22 00:01 | COUNTRY / BLUEGRASS